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聖女様の閑話

「いやはや、まさか聖剣を引き抜く者が現れようとはな」

「ああ。ワシが生きているうちに、聖剣の担い手が見つかるなんてな。長生きもしてみるもんだのう」


 つい一時間前、ボクの目の前で信じらんない事が起きた。〝剣の聖地〟と呼ばれている剣山に突き立っていた聖剣が、可憐な少女によって引き抜かれたのだ。


「ショックだよな。聖剣を抜くのは俺の筈だったのによ」

「抜かせ。俺に決まってんじゃねえか」

「お前みたいなへっぴり腰にできる訳ねえだろ」

「へっぴり腰はお前の方だろ!」


 呆然としながら歩くボクの後ろで、年配のオジサン達が軽口を叩き合っている。


「まあいいじゃねえか! 伝説の聖剣が抜かれたんだ、これで世界も平和になるだろうさ」

「そうだな。何かとちょっかいを出してくる魔国連合も、年貢の納め時だ」

「つーかよ、聖剣なんだからさ、やっぱ魔王を討たなくちゃな!」

「そうだ! 打倒魔王だ!」

「年内にも大司教猊下が魔王討伐の詔を出すんじゃねえか?」

「そうなったら俺が聖剣引き抜いて参戦するぞ!」

「バーカ、その聖剣がさっき引き抜かれたんだろが」

「くぅぅ……! お、俺様の聖剣が……!」


 ……違う。


「お前、何回聖剣抜く行事に参加したっけ?」

「ガキん時からだから、四十回くらいかな」

「そんだけ挑戦しても抜けないんだから、いい加減に諦めろっての」


 違う。違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!


「あれはボクが……ボクが選ばれし者だったんだ……それをあいつが……!」


「ん? お嬢ちゃん、何か言ったか?」


「何で、何でボクじゃないんだああああああああ!!」

「何で俺様じゃないんだああああああああああ!!」

「何で私じゃないのよおおおおおおおお!!」

「何で拙者ではないのだああああああああ!!」


 ……ん?


「「「「あ、あれぇ?」」」」



「そうか、お主は頬か。拙者は左手にあるぞ」


 我が家に伝わる伝承通りの痣が、サムライさんの左手に表れている。


「ボ、ボクのと全く同じだ……!」


 そう言って見せたボクの痣と比べても、一緒と言って遜色が無い。と言うより全く同じ模様だ。


「ホントだな。俺様の背中の痣と瓜二つだぜ」

「私のは胸元だわ」


 剣の形に似た痣は、他の二人のも全く同じものだった。


「うちには代々伝わる伝承があってよ、この剣の痣が表れた者が聖剣の担い手なんだって」

「私のうちにもあったわ。だから成人を迎えた今日、聖剣を回収しに来たんだけど」


 え?

「は?」

「何ですと?」


「な、何よ」


「ボクも今日成人なんだ」

「俺様もだ」

「拙者もでござる」


「えええ!? じゃ、じゃあ、私達全員同い年で、同じ日が誕生日なの!?」


「ま、まさか、そんな事が……」

「おいおい、これは偶然にしちゃ出来過ぎだろ」

「これだけ偶然が重なれば、もはや必然と言うべきであるな」


 そ、そうだよ。こんなの偶然で片付けられるもんじゃない。


「間違い無い。ボク達はここに集まるのが運命だったんだ。聖剣を抜く為に集められたんじゃない、ボク達はそれを理由として必然的に集められたんだ!」

「そうとしか言いようがねえな……全ては主であるプルパンテシアのお導きか」

「え、何で主の名前を!?」

「何で貴方が知ってるの!?」


 えええ!?


「き、昨日の夜、夢の中で」

「うわあああ! お、俺様もだ!」

「わ、私もです……間違い無い、運命だわ」

「拙者も見たでござる…………何と言う偉大なお導きか」


 思わず天を仰ぐサムライさん。正直、ボクもそうなりそうだ。


「……とりあえず、ここで盛り上がってたって仕方無い。近くに俺様が泊まっている安宿があるから、そこでジックリと語り合おうじゃねえか」

「え、近くの安宿って……まさか〝聖剣亭〟でござるか!?」

「わ、私もそこに泊まっているのよ!」

「ボクもだよ!」

「お、おいおいおい……これこそ主のお導き以外の何もんでもねえよな……」



 ハッキリ言いましょう、偶然です。

 私が意識して彼らを集めた事実はございません。

 身体に表れた痣は、私の悪戯心によってばらまかれたもので、本当にたまたまです。

 同じ日に生まれたのも、単なる奇跡的確率です。

 夢に現れたというのも、たまたま私の意識とリンクしてしまっただけであって、天文学的確率なだけに過ぎません。

 そして最後、たまたま同じ安宿に泊まっていたのは、その町には四件しか宿屋がなかったからです。1/4の確率でしたら、別に珍しくはないでしょう。

 つまり、本当の本当の本当に偶然で奇跡的で天文学的な確率なだけなのです。私の意思は一切関わっていません、はい。



「では主のお導きで集まった俺様達で、パーティを結成しようではないか!」

「異議無し!」

「賛成!」

「無論であるな!」


「では……パーティ名はどうする?」


 そんなの、決まってるよ!


「〝導かれし聖剣〟なんてどうかな?」

「導かれし聖剣、か……良いのでは?」

「私も異議は無いわ!」

「よっしゃ、決定だな! 主によって導かれた俺様達は、今日から〝導かれし聖剣〟だ!」



 ……本当に偶然だったのですが、これが各地で伝説的活躍をする事になる、S級パーティ〝導かれし聖剣〟の誕生の瞬間だったのです。

 改めて言います。私は一切関与しておりませんので。



 そう言えば、何故皆さん、私の名前を知っていたのでしょうか?

明日から新章です。

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