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ただいま~……な撲殺魔っ

 ガラガラガラガラ

 みゅんみゅんみゅんみゅん♪


「お、おい。あの馬車」

「ああ、間違い無い。聖女様だ」

「あの可愛らしい熊はベアトリーチェだ」

「だけど、御者してる金髪の女の子は……誰だ?」


「おらおら、見せ物じゃねえぞ! ベアトリーチェ、追っ払っちまえ!」

 みゅうん?


「モリー、いけませんわ!」

「シスター……分かりやしたよ」


「あ、やっぱり聖女様だ!」

「つーか、あの御者金髪はおっかないなぁ」

「綺麗な薔薇には棘があるってか?」


「ちっ、好き勝手言ってんじゃねえ! 失せろやゴラァ!」

「モリー、いけませんわ! ハウス、ハウス!」



 セントリファリスへ続く一本道、その周りに広がる長閑な畑。旅立つ前と何ら変わり無い光景が広がっています。


「よし、印象付けは上々だな」

「印象付けって……まさか本当にやるなんて」

「意味不明と思われ」


「分かってねえなあ、姉御達は。ただでさえシスターとリジーの姉御は、似た印象なんだぜ?」

「……わたくしとリジーが?」

「私とリファリスが?」


 お互いに見比べてみて……同じ結論に達しました。


「全く違いますわよ」

「全く違うと思われ」


「え、だって、髪の毛同じじゃねえか」


「髪の毛が同じって……銀髪ですわね、わたくしは」

「私は白髪。だから違う」


「銀髪も白髪も同じだっての!」


「わたくしは自分で染めてますから、銀髪ですわ」

「私は地だから白髪」

「「やっぱり違います」」


「……ちょい待ち。シスター、自分で染めてるって?」


「ええ、わたくし」

 パアアア……


 魔術で変色していた髪の色を、元に戻します。


「完全な赤毛ですの」


「あ、赤毛……」

「ま、真っ赤っかだわ……」


「興奮すると魔術が弱まって、紅くなったりしますの」


「ああ、だから〝紅月〟の時……」

「紅いエフェクト、地の髪色だったんだ……」


「リジー、えふぇくとって何ですの?」


「何でもありません気にしない気にしない」


 ……?


「それにしてもシスター、何で普段は染めてるんだ?」


「……まあ……聖心教に入信する前にちょっと」


「…………別に詮索するつもりはねえさ。俺だって知られたくない過去の一つや二つはある」

「「でしょうね、元親分」」

「それ、絶対に言うなよ!?」


「で、何故に印象付けでチョイ悪狙い?」


「え? あー、いやな、俺の口調ってこんなじゃねえか」


「……ええ」


「で、仕草も男っぽいじゃねえか」


「はい、確かに」


 よく大股開きを注意しますわね。


「そんな俺が、いきなり修道服でウロウロしてたって、違和感しかねえだろ?」


「確かに……女性らしさの欠片も無いシスターって、違和感の固まりと思われ」


「だからさ、最初に荒々しさを際立たせておいて、これからの修行で徐々に女らしくなっていけば……」


「ああ、長い目で見れば違和感は無い」


「そう。だからこの段階で周りを威嚇してるって訳さ」


 ……まあ……別にいいのですが……。


「そこまで気合いを入れてしなくてはならない事ですの?」

「「……確かに」」


「何を言ってやがる! キャラ被りなんて、一番の恥辱じゃねえか!」


 恥辱?


「わたくしとリジーの髪の色が被っているのが、そんなに恥ずかしい事ですの?」

「えええ……モリーにそんな風に思われていただなんて、リジーショックゥ~」


「ち、違えよ! それは俺の価値観であって」


「つまりモリーの価値観的には、わたくしとリジーの被りは恥辱なんでしょう?」


「だ、だから、そういう事じゃなくって……」


「ふふ、分かってますわ。それが貴女のアイデンティティなのですね?」


「う、うぅ~……アイデンティティって程じゃないが、何てったらいいか……お、俺は俺でありたいって言うか」


「ねえ、モリー。あんた程の個性の固まり、そうそう居ないと思うわよ?」


 あら、珍しくリブラがフォローしてくれるのでしょうか。


「個性の固まり? 俺が?」


「ええ。まずはそのしゃべり方」

「ああ、典型的な僕っ子と思われ」

「いえ、俺っ子ですわよ」

「リファリス、僕か俺かはどうでもいい」


「別に、俺を俺と言って何が問題が?」


「モリー、貴女の容姿で自分を俺呼ばわりしている事自体が、滅茶苦茶ギャップなのよ」


「……そうなのか?」


「例えば、リファリスが俺呼ばわりしてたらどう?」

「わた……いえ、俺はリファリスですわ」

「うっわ、ギャップ半端ねえな」

「でしょう? それだけでも充分に個性よ」


 そう言われてモリー、案外悪くないようです。


「まだあるわ。その容姿で元盗賊の親分、しかも聖剣の担い手。これも充分過ぎるくらいに個性的よ」

「いや、元男と言うだけでも充分に個性的」

「オマケに妖精族ですわよ。これだけでも大変貴重ですわ」

「つまり妖精族で性転換した上に、聖剣に選ばれし元盗賊の親分の俺っ子…………絶滅危惧種というか既にオンリーワンよね」


 こんな濃い経歴の方、世界中を探しても皆無ですわよ。


「そ、そっか。そっかそっか。なら無理してつっけんどんにする必要は無いんだな」


「そうですわ。自然なままに生きよ……これが聖心教の真髄です」


「分かったぜ、シスター。無駄に肩に力を入れず、堂々としてるよ」


「それが一番ですわ」



 このような会話をしながら、わたくし達は久し振りにセントリファリスの地に足を踏み入れたのです。



「……あれが……聖剣の担い手か」


 ……騒ぎの種火は燻り出していたのですが。

閑話を挟んで新章になります。

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