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迷子と撲殺魔っ

 セントリファリスまでの道程が半分に至った頃、とある町でわたくしの運命を大きく変えるかもしれない出逢いがありました。



「ふんふふ~ん♪」


 昼下がり。思わず惰眠の誘惑に負けてしまいそうなくらい、穏やかな日差しが降り注いでいました。


「え~ん」


「……あら?」


 そんな暖かい日差しから外れた横道の陰で、小さな女の子が泣いているのを見つけました。


「お嬢ちゃん、どうかしましたの?」

「え~ん……お゛う゛ぢが……」

「はい、よしよし。落ち着いてお姉さんに話して下さいまし。どうかしましたの?」

「う゛う゛…………えええ~ん!」

 ボフッ

「あっ」

 とすんっ


 意外と威力がありましたお嬢ちゃんのタックルで、しゃがんでいたわたくしは思わずお尻を地面に着いてしまいました。


「あらあら、そんなに寂しかったんですの?」

「ぐすんぐすん、えぐえぐ」


 わたくしの胸に顔を埋めたまま、何も言おうとしません。


「何があったのか、ちゃんと話せますか?」

「ぐすん……う、うん」

「はい、良い子ですね……よいしょっと」


 お嬢ちゃんを抱き抱えて立ち上がり、歩きながら話を聞く事にしました。


「まずお名前は?」

「ア、アル…………アル子」


 は、はい?


「そ、そうですか、アル子ちゃんですわね」

「う、うん」

「わたくしは旅のシスターですわ。何か困っているのでしたら、相談に乗りますわよ」

「う、うん……」


 わたくしに抱かれたまま、再び胸に顔を埋めます。


「えーっと……パパは? ママは?」

「パパもママも居ないの。私、一人ぼっちなの」


 一人ぼっちとは……この子、もしかして孤児院に預けられているのでしょうか。


「どこかの教会でお世話になっているのですか?」

「………………分かんない」


 とは言え、孤児院は教会と関わりがあるのが普通ですから……。


「でしたら教会に送って差し上げますわ」

「え……」

「ちょっと行ってみましょう」

「…………」


 教会に戻りたくないのでしょうか。再び胸に顔を埋めたアル子ちゃんは、しばらくそのまま何も語りませんでした。



「え? 私共の教会には、孤児院なんてありませんよ?」


 え?


「この辺りで孤児院があるのは二つ先の大きな町と、聖地くらいじゃないでしょうか」


 二つ先……デルフィンの町ですわね。聖地の孤児院は、わたくしがよく通っていた孤児院です。


「つまり……この娘は」

「迷子じゃありませんの?」


 では、パパもママも居ないと言うのは……。


「わたくしったら、とんだ早とちりを……居ないというのは、周りに居ないという意味だったのですね」

「…………」


 相変わらず胸に埋めたまま、何も返事しません。


「旅のお方、警備隊に預けては如何?」


 そうですわね。迷子でしたら、今頃警備隊に届けが出ている筈。


「アドバイスありがとうございます。早速警備隊の詰所へ」

「いやーーーーーーっ!!」

「え?」


 アル子ちゃんは突然叫んだかと思えば、わたくしの手を振り解いて駆け出したのです。


「いやーーーー!!」

「ま、待って下さいな! 申し訳ありません、わたくし追いかけますわ!」

「あ、はい。ご苦労様です」


 牧師様に頭を下げてから、アル子ちゃんの後を追いかけます。


「……あの娘、確か……」


 何か牧師様が呟いた気がしましたが、今は気にしている暇はありません。馬車に轢かれたりしたら大変です。



「捕まえましたわ!」

 ガシッ


 襟首を掴み、ようやく確保しました。


「う、う、うえ~ん!」

「ふう……何故に急に駆け出しましたの?」

「警備……けーびたい嫌い! 大っ嫌い!」

「ですがパパとママに会う為には、一番の近道ですわよ?」

「だ、だからアル……アル子には、パパもママも居ないの!」


 しかし、この辺りに孤児院は…………あ。


「まさかとは思いますが、養女になったばかりですの!?」

「え!? よ、幼女に?」

「違います、養女ですわ」

「あ、ああ、そっちか……吃驚した」


 ……?


「と、とにかく私、お腹空いた!」


 あらあら。


「でしたらどこかでご飯を食べますか?」

「食べる!」

「でしたらわたくし達が泊まっている宿屋さんで、何か残り物を」

「サーロインステーキ食べたい」

「……はい?」

「私、サーロインステーキ食べたい!」


 な、何を言い出すんですの?


「そんな高いものは無理ですわ。宿屋さんの朝食はパンとハムでしたから、それで」

「いやああああだああああ! サーロインステーキ食べたいいいい!」


 ぜ、贅沢なお子さんですわね。


 ザッザッザッザッ

「あ、居た居た。居ましたよ」


 そんな時、先程の牧師様がわたくし達の前に現れました。


「この子じゃないですか?」

「あ、間違い無いです」


 一緒にいらっしゃったのは、警備隊の方です。牧師様、わざわざ警備隊詰所まで行って下さったのですね。


「観念しろ、〝合法ショタ〟のアルバ!」


 …………へ?


「ちいい、もう少しだったのに!」


 アル子ちゃんは組み伏せられ、後ろ手に縛れます。


「あ、あの?」

「ああ、シスター。被害に遭われませんでしたか?」

「被害? いえ、何も」

「こいつは迷子の振りをして、ご飯を奢らせたりする手癖の悪い奴でしてね」


 な、何ですって!?


「小人族の中でも若作り(・・・)らしく」

「若作り!?」

「はい。その容姿を悪用し、人間の子供の振りをしてアレコレと悪さを繰り返していたのです」


 ……天罰が必要ですわね。


「子供の振りが上手くいった事に味をしめたのか、更なる悪事を……」


「更なる悪事?」


「はい。女性に抱き着いたり、胸に顔を埋めたり」

「え、まさか、この方は」

「先程言いましたでしょ、合法ショタ(・・・・・)だと」


 合法ショタ……つまり、男性!?


「良い感触だったぜ、シスターあぎゃは!?」

 バギャア!

「天誅天罰粉骨砕身、天誅天罰粉骨砕身」

 ズドムドムドムドムドムドムドムッ!

「ぐえぎゃはあがごぶぁぶふぇぐぎゃはあああああああああ!!」



 この事件をきっかけに、一瞬ではありますが、子供を抱き上げる事に抵抗を覚えるようになってしまったのです……。

 こんな運命的な出逢いは、二度と御免です。

シスターのトラウマでした。

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