馬車内の撲殺魔っ
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………暇よね」
「…………暇と思われ」
ん?
「どうかしましたか?」
「暇だって言ったの」
「一日中馬車内は疲れる」
ああ、そう言う事ですの。
「暇に耐えるのも修行の一環ですわ」
「「何でもかんでも修行で括らないで!」」
でも、これも立派な修行になりますわよ?
「ああ、暇だ暇だ暇だあああ!」
「リファリス、どっかで止まって休憩しよ?」
「さっきも止まったでしょう? 言った通り、夕方までこのまま走り続けます」
「いや、だって、ベアトリーチェも大変だよ?」
「そ、そうそう。ちゃんと休ませてあげないと」
みゅうううん!
「……問題無いと仰ってますわ」
「「ウッソだあああ!」」
いえ、実際に問題無いみたいですが。
「モリー、ベアトリーチェをどう思います?」
「ますます速くなってるな。ランナーズハイってヤツかも」
御者のモリーに聞いても、問題無いようです。
「そう言う訳ですから、このまま進みますわね」
「「ええええええ!?」」
不満があるようですが、なるべく早くセントリファリスに戻りたいのです。
「あううっ! 暇だ暇だ暇だあああ!」
「馬車の中はもう飽きたあ!」
「でしたら馬車から降りて、走って付いて来るのは如何でしょうか?」
「「全力で遠慮させて頂きます」」
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
次の日も、大半は馬車の中です。
「今日は暇だ暇だと仰る二人の為に、暇つぶしになるであろう修行を用意しました」
「え、修行?」
「それはそれで……」
用意したのは「リズの福音書」という、昔の聖人が記された日記です。
「これを立ったまま読みなさい」
「「…………はい?」」
「いいですか、立ったままですよ?」
「あ、はい」
「何故に立ったまま……?」
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
「しゅ、しゅはおっしゃられた……」
「せかいにとどこおりなくしゅくふくを……」
ガタンッ!
「わっ!?」
「んきゃ!?」
「はい、途切れましたわね。十頁戻って読み直しです」
「う、うう、またあ!?」
「もう何度目だか」
わたくしも付き合ってますのに、二人はグダグダで一向に進みません。
……パタン
「……はい、読み終わりました」
「な、何でリファリスは微動だにしないのよ……」
「どういう身体能力してると思われ……」
慣れ、としか言いようがありませんわね。
「これが出来るようになれば、少ない力でバランスが保てるようになります」
「「……だから?」」
「間違い無く戦闘力の向上に役立ちますわね」
「「……!」」
それを聞いた二人は、目の色を変えて朗読に勤しみました。
「ふう……これでしばらくは『暇だ暇だ』と言われる心配はありませんわね」
読みかけだった小説を胸の谷間から取り出し、自分の時間を満喫する事にします。
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
……パタン
「今日はここで野営しましょう」
「あいよ。ベアトリーチェ、ストップだ」
みゅーん!
キキキー……
「……ふへぇ」
「はふぇえ」
ぺたん ぺたん
「どうでしたか、二人とも」
「つ、疲れた……」
「ぜ、全身の筋肉が……」
「しばらくはこれを続けますので」
「は、はい……」
「強くなれるなら……」
次の日も。
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
「悪いですわね、毎日御者をさせてしまって」
「なーに、馬車の中でジッとしてるよりはマシだ。それに……」
「ブツブツブツブツ……ぬうっ」
「ブツブツブツブツ……ふんぬ」
「……あれも嫌だし」
「あら、モリーにとっても苦行ですか?」
「いや、今更感が強くって」
ピクッピクッ
「今更感って……」
「モリーにとっては、この修行は苦では無いと?」
「そうだな、一日くらいは平気だぜ」
「「ふ、ふふふ……ならやってもらおうじゃない」」
「ええ!? 何で俺が巻き込まれるんだよ」
「……いえ、モリー。二人には良い刺激になるかもしれません。今日は御者はわたくしが務めますから、付き合ってあげなさいな」
「ん~……まあ、シスターがそう言うなら」
そう言って適当な本を渡しますと、モリーは馬車の上に……ええ!?
「よっと」
しかも片足で……ええ!?
「馬車ん中じゃ刺激がねえからな、俺はこれでいいぜ」
「「マ、マジっすか……」」
「で、では走らせますわよ……ベアトリーチェ」
みゅーん!
ガラガラガラガラ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
「ブツブツブツブツ……ううぅ」
「ブツブツブツブツ……くうぅ」
馬車内の二人は苦しいみたいですが。
「しゅはあかるいみちをさししめしてくださるー♪」
馬車の上でモロに風圧を受けている筈のモリーは、鼻歌混じりで片足立ちしています。
「もうお昼ですわね……そろそろお昼ご飯にしましょう」
「はーい♪」
「「は、はい……」」
適当な木陰で馬車を止めます。
「ふう、疲れた疲れた」
本当に疲れたのか怪しいモリーは、軽い足取りで馬車から飛び降ります。
「つ、疲れた……」
「あ、足がパンパン……」
本当に疲れた様子の二人は、フラフラになりながら馬車から這い出てきます。
「何だよ、だらしないな」
「モリー、素晴らしいバランス感覚ですわね」
「そう言うシスターだって、やれない事は無いだろ?」
「まあ、一日くらいでしたら」
「「う、嘘でしょ……」」
後日、わたくしとモリーとで馬車の上に乗り、一日かけて証明してみせたのでした。
「「お、恐れ入りました……」」
二人がわたくし達の境地に達したのは、セントリファリスに着く一週間前でした。
リブラとリジーはまた強くなった?




