お土産と撲殺魔っ
聖陵を出てしばらくすると、宿場街に出ました。
「ん~……あ、ちょい待ち」
みゅん?
リジーの指示を聞いたベアトリーチェが、わたくしに伺いを立ててきます。
「宜しくてよ」
みゅうん!
キキキー…………
止まった馬車から飛び降りたリジーは、道沿いにあったお土産屋さんへ駆け込んでいきました。
「お土産ですか」
「……リファリス、私も見てきていいかな?」
リブラもですか。
「急ぐ旅ではありませんから、構いませんわ」
「ありがとう。ちょっと行ってくる」
リブラも馬車から飛び降り、リジーの後を追います。
「ずいぶんと律儀だなあ、二人とも」
「リブラは元侯爵夫人ですから、お付き合いはなかなか多岐に渡っています。今でも交流のある方もいらっしゃいますから、長い間旅に出ていたのですし、お土産くらいは渡したいのでしょう」
「あれ、元侯爵夫人って言ってなかったか?」
「詳しい事は割合しますが、リブラは侯爵夫人としては死んだ事になっているのです」
「ふ、ふぅ~ん。複雑なんだな」
ええ。それはもう。
「それと、一番土産と縁が無さそうなリジーの姉御かな。まさかいの一番に飛んでいくとは思わなかったぜ」
「リジーは一応警備隊に所属してますの」
「……は?」
「警備隊の隠密部隊でしたかしら。わたくしと知りあってからは、聖女専属の聖騎士兼弟子として出向していますの」
「聖騎士!? 呪剣士の姉御が、聖騎士!?」
「それはわたくしも散々ルディに突っ込みましたわ」
「……ルディって?」
「ああ、モリーは知りませんでしたわね。大司教補佐です」
「大司教補佐って……そりゃまたずいぶんとお偉い人と知り合いだな」
「わたくし、不本意ながら聖女ですので」
一応、大司教猊下に次ぐ地位です。
「ふぅん……つまりリジーの姉御は、警備隊の連中に土産買っていく訳か」
「おそらくは。モリー、貴女も何か買っていかれては?」
「俺が? 誰にだよ」
「周りの方に、これからよろしくお願いします、という意味でお土産を渡すのも、早く馴染む為に必要ですわよ」
そう言われたモリーは少し考えてから。
「……分かった。俺も見てくるよ」
元盗賊らしい軽いステップで、馬車から飛び出していきました。
「…………わたくしも……買っていこうかしら」
先程話が出ていたルディ、大司教猊下、自由騎士団の皆様、孤児院の院長先生、ジョーさんとフレデリカさん、それからそれから……。
みゅうん!
え?
「わたくしも行ってこい、と言いたいんですの?」
みゅん、みゅみゅん!
馬車はちゃんと守るから、安心して行ってきて……ですか。
「……分かりましたわ。でしたらわたくしも少しだけ覗いてきますね」
みゅん! みゅんみゅーん!
バイバーイ、と仰ってます。
「一人一人に考えている暇はありませんわね。同じ物で統一致しましょう」
リジー達が駆け込んでいったお土産屋さんとは別のお店に入ります。
「いらっしゃい。聖陵土産が揃ってるよ」
聖陵まんじゅうに聖陵せんべい……定番ですわね。それに……聖陵タペストリー!? まだあったんですのね、タペストリー。
「う~ん、これと言って…………あら?」
見覚えのあるお皿が……リリーさんグッズですか。
「やっぱり一番人気は、ディッシュハウスのリリーさん関連です。如何でしょうか?」
コーナーの上には、サイン色紙らしきものが。ま、まさか……。
「ええ。私もリリーさんのファンでしてね、本人に直線サインして頂いたんです」
リリーさん、何をなさってるんですの!?
「無論、リリーさんグッズは公認ですし、何割かは本人の収入となっています」
収入って……幽霊ですのよ?
「リリーさん、そうやって貯めたお金で、お皿をコレクションしていたんですよ」
皿好きなんですの!?
「聖陵近くに『ディッシュハウス美術館』ってのがありましてね、リリーさんのコレクションが展示されてるんです」
美術館作っちゃうレベル!?
「国内外から観に来る方が多くて、品揃えも国宝級の逸品ばかり。お皿の美術館としては最高峰だと言われてるくらいで」
しかも国内外から認められる目利きですの!?
「いやあ、私なんて週一で通ってますよ」
コアなファン一名様追加ですの!?
「あ、そんな私からのお薦めは、リリーさん監修ピリ辛お皿せんべい、十枚入り」
「ピリ辛お皿せんべいって……この赤いの、唐辛子ですの?」
「血になぞらえてます」
た、食べにくいだけでは?
「見た目のインパクトは抜群、しかも美味しい。当店の売り上げNo.1商品です」
……まあ、ありふれた聖陵まんじゅうとかよりは……。
「如何でしょうか? まとめ買いでしたら、こちらも勉強させて頂きますよ?」
べ、勉強?
「……つい買ってしまいましたわ……」
しかも人数分。
「……これで不味かったら目も当てられないのですが……」
「あ、リファリスも買ったの?」
「やっぱりリファリスもと思われ」
「シスターもか」
するとお店から出てきたばかりのリブラ達とかち合いました。
「いろいろあったわ。リリーさんまんじゅうに、リリーさんタペストリー」
え。
「私はリリーさんキーホルダーとリリーさん木刀を買った」
ええ。
「俺は…………無難なとこで、リリーさんピリ辛お皿せんべいだな」
被りましたわ!?
「み、皆さん……リリーさんグッズですのね」
「「「ま、まさか……」」」
その……まさかですわ。
リリーさん、既に成仏済みだなんて……口が裂けても言えませんわね。
リリーさん特需。




