歩く姿は撲殺魔っ
『シスター……ありがとう……』
「え、ちょっと待って下さいまし!」
ぐいいっ
『えっ、成仏中なんですが、えっ』
「ま、まだまだ話し足りなくて」
『あ、そんな、駄目ですわ、私、私ぃ』
ぐいぐいぐいいっ
「リリーさぁん!」
『シスター、駄目、駄目、ああああっ』
……ガララッ
『わあ……』
「如何ですか、久し振りの温泉は」
『生前には入る事が叶いませんでしたので……ありがたいです』
成仏していく途中のリリーさんを、つい無理矢理引き戻してしまったわたくし。
チャプン……
「どうですか」
『うーん……とっても気持ち良いんですが……』
「成仏しそうな感じは……?」
『…………全く無いですね』
はああ……やっぱり。
「本当に申し訳ありません……まだまだ語り尽くしていなかったものですから……」
『そ、そんな! シスターがそこまで自分を攻める必要はありません!』
ススッ
『私、本当はとても嬉しかったんです』
「……リリーさん?」
スススッ
『あんなに強引に、情熱的に、私を引き戻して下さったのがシスターでしたから、本当に……』
ススススッ
「あ……リ、リリーさん?」
『シスター……』
「リリーさん…………わぷっ! ま、不味いですわ! ゆ、湯当たりしてしまいそうで」
バチャバチャ
『ああん、シスター……もう』
もう一度成仏させる必要があるのですが、その為には本人の未練を断ち切るのが最善です。
なのですが……。
『未練……全く心当たりが無いんです』
当の本人がこの様子では、どうする事もできません。ですから、ありとあらゆる娯楽を体験させて、未練が何なのかを探すしか無いのですが……。
『……シスター』
ススッ
『シスターァァ』
スススッ
『シィスゥタァァァ』
ススススッ
甘い声を出して近付いてくる事が多いリリーさん。
「これは……やっぱりアレですわよね……」
深い深いため息を吐く……と同時に。
「う、うふふ……うふふふふ……あはははは、あっはははははははははははは!」
楽しみですわぁ……楽しみで仕方ありませんわぁ!
「……と言う訳で、これよりリリーさんを成仏させる儀式を始めたいと思います!」
『ぎ、儀式って……ま、まさか』
「何か始まんの?」
「聖女様とディッシュハウスのリリーが何かするらしいぜ」
「聖女様が出てくるって事は、宗教的な何かか?」
「さあ……とりあえず見てようか」
『こ、こんな人がいっぱい居る場所で!?』
「ええ。でも、それは許して下さいとしか言いようがありません。この聖陵の中心が『天国に一番近い場所』と呼ばれ、成仏しやすい効果が期待できますの」
『え、えええ!? 成仏!? 皆さんに見られながら成仏!? そ、そんな、恥ずかしい……』
……? 見られながら成仏するのって、幽霊さんにとっては恥ずかしい事なのでしょうか……?
「ですが、成仏すべき貴女はこのまま現世に居続けるべきではありません。ちゃんと輪廻のサイクルに戻って頂かないと」
『輪廻に……そうですね、ちゃんと成仏しないと。だとすれば、恥ずかしいだなんて言ってられません』
「そうですわ。恥ずかしいだなんて言ってられ……えええ!?」
シュルルッ パサッ
「「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」」
「リ、リリーさん! 何故裸に!?」
『何故って……成仏する為には必要でしょう?』
成仏する為には裸になる必要がありますの!?
「さ、流石はリリーさんだな」
「ああ、恨みに支配されてた時は、ガリッガリの骨みたいなもんだったが」
「今は『歩く姿は百合の花』と称えられた、生前のままだな」
く、括れた腰、長い手足、豊かな双丘。女性の美を体現したかのような御姿に、わたくしも見とれてしまいました。
「……はっ!? わ、分かりました。リリーさんがそこまで本気なのは理解しました。でしたらわたくしも、本気で臨まなければなりませんわね!」
胸の谷間に両手を突っ込み、聖女の杖とモーニングスターを取り出します。
『え゛っ』
「リリーさんの覚悟、ちゃんと受け取りましたわ。わたくしに撲殺されたいのですわねっ」
『え゛っ、えええええええええ!? な、何故にそうなるんですか!?』
「だってリリーさん、わたくしにすり寄ってきていたではありませんか」
『は、はい』
「それはわたくしの手によって成仏させてほしい、という事ですわよね」
『は、はい、その通りです』
「ですからわたくしが全身全霊を込めて、貴女を逝かせて差し上げますわ!」
『わ、私は逝かせてほしいのでは無く、イかせてほしいのですがっ』
「逝かせてほしいのですね! でしたら聖女の杖の一撃、骨の随まで響かせて差し上げますわ!」
『え、ちょっと待って下さい、ちょ、ちょ』
「天誅天罰滅殺抹殺必殺……」
『だから、待って下さいってばあああ!』
「瞬殺撲殺ぅぅ!」
ズドオオオオン……!
「……無事に……成仏されたようですわね」
脱ぎ捨てられていたリリーさんのメイド服は、徐々に霧散しています。つまり、現世から消えた証。
「来世では幸せになって下さいね……リリーさん」
『し、死ぬかと思いましたよ、もう!』
『ま、まあ、文字通り死んでますけどね……それより貴女、転生先はどうしたいの?』
『転生先? それは勿論、シスターと縁が深い位置を望みます!』
『撲殺された恨みを晴らすのかしら?』
『恨み? まさか! あの御方こそ、私の一生を捧げるに相応しい方です!』
『……人気あるなあ、あいつ……』




