ファンな撲殺魔っ
『いちま~い……にま~い……』
どこからともなく、声が聞こえてきました。
「やはり、警備兵さんの言う通りでしたわね」
「ほ、本当に居たんだ……ブルブル」
『さんま~い……』
たった一枚、家宝であった皿を割ってしまったが為に、若い命を主人に奪われる事になった、悲劇の女性。
「現れましたわね、伝説の幽霊さん!」
『貴女は一体?』
「わたくし、シスターリファリスですわ」
『……シスター……』
「貴女と一度話をしてみたかったのです」
『私と、ですか?』
「はい」
『何故……ですか?』
わたくしは全身全霊で想いを込め、リリーさんに告げました。
「ファンだからですっ」
『「「「……はい?』」」」
突如としてわたくしの後ろに現れました、リリーさん。
「ああ、折れてしまいそうな程にか細い……」
『死因が幽閉された上での餓死ですから』
「血管が透き通って、何て白い肌なのでしょう」
『死んでますから青白いですし、幽霊ですから透き通っていて当然かと』
「そして、何より!」
わたくしの両手がリリーさんの両手をガッチリと掴みます。
『霊体を触れるんですか!?』
「畏敬の念の表れですっ」
『そんな理屈で!?』
更に力を込めて、リリーさんの手を握ります。
『い、痛い、痛いのですが……』
「その痛み、わたくしの気持ちですわ!」
『痛い気持ちって一体……』
「それよりも、貴女がなさった復讐方法が肝心なのです!」
『は、話の展開に付いていけない……』
「リリーさん、貴女は復讐には撲殺を選ばれましたね!?」
『え? あ、はい、皿で殴り殺しましたが……』
「成る程……」
「リファリスが入れ込む理由、理解したと思われ」
「ディッシュハウスのリリーが、元祖撲殺魔だったんだな……」
「皿一枚だけで殺せますの?」
『私が割ってしまった皿は、絵付けの大皿でしたから』
「では重さで盛っていけましたのね?」
『ええ。ですが全霊力をつぎ込まざるを得ませんでした』
「でしょうね。霊体は物体への干渉は基本的に不可能ですから、霊力を用いるしかありませんものね」
「……幽霊とシスターが撲殺談義で盛り上がってるわ……」
「そんなに撲殺って深いものなの?」
「知るかよ。俺は斬り殺した経験しかねえ」
「あ、それは私も同じね」
「私は斬り捨てと呪殺しか」
「「呪殺って……」」
「んまあ! では一撃では逝けませんでしたの?」
『角度が甘かったのでしょうか。中途半端に頭を潰すに留まってしまい、相手が死ぬまでに半日かかってしまいました』
「あら、それは良いんじゃありません? それだけ相手に苦しみを味わわせてやれたのですから」
『確かにそうなんですが、撲殺の美学には反します』
「撲殺の美学!?」
「美学なんてあんのかよ!?」
「うむ、理解できる。呪殺にも美学あり」
「「あるの!?」」
「確かに。撲殺の花は、相手に鈍器がめり込んだ瞬間の血飛沫ですものね」
『割れる大皿の間から飛び散る血と脳漿…………ああ、あの憎き男のそれを見てみたかった……』
「分かりますわ! わたくしも復讐を果たした時の【脳みそバーン】は忘れられませんもの」
『え、シスターも復讐を!?』
「ええ、まあ」
「厳密には復讐代行よね」
「復讐の張本人は血飛沫浴びて気絶してたな」
「ううぅ、呪殺では流石に【脳みそバーン】は……」
「「対抗しなくていいから」」
「やはり角度ですわね。重さがある分威力は問題無い筈ですから」
『でも、こればっかりは実践してみないと』
「実践してみます?」
『え?』
「「「え?」」」
『……ここです。憎き主のシュゼンが埋葬されているのは』
「随分と片隅ですわね」
『私の件により、罪人扱いされましたので』
「まあいいですわ。とりあえず『憎き輩よ、地獄より這い戻れ』」
ボコッ
「くぅあ!? はあ、はあ、はあ……わ、我は一体……」
『シュゼエエエエエエエエン!!』
「な……リ、リリー!? 何故お前がここに!?」
「この方でしたら実践相手には最適ですわ。聖女の戒『茨』」
ピシュルルッ
「う、動けない……」
「さあさ、実践ですわ。先程お教えした通り、頭の頂点を狙わないのがコツです」
『はい、聖女様!』
「な、何だ、その大皿は? ま、まさか」
『ちぇすとおおおおおおおおおっ!!』
ぐわっしゃあああああああん!
「ぐぎゃぴぃ!」
「うーん、花火とまでは言えませんわね」
『はあ、はあ、だ、駄目ですか?』
「『蘇れ』……良いですか? 頭の中心は、どうしても滑り易いのです」
パアアア……
「はあ、はあ、ま、また生き返った?」
「ですから、頂点から少し下がった……ここ!」
ボグシャア!
「へびぃ!?」
ブシャアアアッ
『み、見事な【脳みそバーン】……!』
「でしょう? でしたらもう一度殺ってみましょう……『蘇れ』」
パアアア……
「ぐ、ぐふぁ!? ま、また生き返った!?」
「では参りましょう、リリーさん」
『はい! 霊力増強! 大皿浮遊!』
『流星皿! ちぇすとおおおおおお!』
バッカアアアアアアアアアン!
「あびびゅぶ!」
「お見事ですわ! 立派な【脳みそバーン】ですわ!」
『ほ、本当に見事な【脳みそバーン】……』
「綺麗! 綺麗ですわ! あははははははははははははは!」
『シスター……ありがとう……』
「あははははははははははははは…………あら? リリーさんは?」
「「「満足そうに成仏したよ」」」
リリーさん、無事に成仏。
ちなみにですが、本来でしたら菊を英語にしたかったのですが、かなり長い単語でしたのでリリーにしました。




