リリーな撲殺魔っ
「ま、まさか、まさか、まさかまさかまさか、リリーさんと出逢えるだなんてっ」
「リファリス!?」
「どうしたのでござる?」
「ど、どこで会えますの?」
「え?」
「どこで会えるんですの、リリーさんに!」
「リリーさんて……」
「どこで、どこで会えるんですの!?」
ガックンガックン!
「え!? ちょ、ちょっと! 揺すらないで! な、何なんだよ、あんたは!?」
「リファリス、ハウス、ハウス!」
「し、失礼しました」
「あ、ああ」
戦士さん……休暇から戻って見えた警備兵さんは、揺れすぎてフラフラな頭を気にしているようで……本当にすいませんでした。
「で、ディッシュハウスの幽霊に会いたいんだったな?」
「ええ。どの辺りに出没しますの?」
そう聞きますと、懐から紙を取り出し、簡単な地図を書いて下さりました…………上手いですわね。
「聖陵の西側に勇者様が葬られている。その辺り一体は著名な戦士や魔術士の墓が密集してるんだが」
英雄墓地、とあだ名される地帯の更に隅を指差し。
「ここが、ディッシュハウスの跡地だ」
「…………え? 聖陵の近くなの?」
目を丸くするリブラに、警備兵さんに代わってわたくしが答えます。
「リリーさんが仕えていたのは、聖陵を守護する騎士の家だったのです」
「そ、そうだったんだ……そこまで聞くと実話だったっていう実感が湧くわ」
ブルブルブルッ
「リブラ……震えてますの?」
「ふふふ震えてなんかないし! これは武者震いだし!」
……何故戦う訳でも無いのに、武者震いが?
「で、だ。この跡地に古井戸が残ってるんだが……そこに出るってんだよ」
ディッシュハウス跡の古井戸ですわね。
「分かりました。早速行ってみますわ」
「……別にいいんだがよ、あんたら聖陵の巡礼に来たんじゃないのか?」
「……の筈だったんだが……」
背後で警備兵さんとモリーがため息を吐いているのが聞こえましたが、無視する事にします。
聖陵とは、聖なる陵墓の略なのですが、別に主の御墓がある訳ではありません。
この地は主から授かった「永遠の安息を約束された地」とされており、埋葬された者は安らかな眠りにつけるのです。
そういう云われがありますから、中心に近ければ近い程に加護を受けられるとされ、自然と土地価格は高騰していきました。結果的に王侯貴族達は中心に近く、騎士や豪商はその周り、更に裕福な市民、一般市民、そして貧民……といった具合に年輪のように墓が並んでいったのです。
「それとは別の年輪を形成してるのが勇者様の御墓、そしてその近くに……」
ディッシュハウスの跡地があるのです。
「あ、あはは、いよいよいよリリーさんとご対面かあ……ブルブルブルブル」
……相変わらず武者震いしてますわね。
「リブラ、本当は怖いんじゃ?」
「リリリリジーさんは何を言ってるのかな!?」
「本当に怖い? もしかして本当に怖」
ギャギィィン!
「危ないリブラ」
「何を言ってるのかな~、リジーは。思わずぶった斬りそうになっちゃったよ」
……やっぱり武者震いでは無かったのですね。
「意外ですわ、まさかリブラが幽霊さんが苦手だなんて」
そう言われたリブラが勢いよく振り返り、わたくしに詰め寄ります。
「何を言ってるのかなあああ? リファリスは何を言ってるのかなあああ?」
「あら、今までの言動と様子から察しただけですわ」
「いや察しなくていいから。そこは華麗にスルーしてくれた方がいいから」
「いやいや、幽霊を怖がるのは恥ずかしくないぜ。俺だって怖いからな」
「えっ」「あら」「マジで!?」
リブラは若干嬉しそうに、わたくしは普通に、リジーは本気で驚いていました。
「そりゃそうさ。盗賊団なんてやってりゃ、その手の話には事欠かないからな」
「え? 盗賊団で幽霊騒ぎに事欠かないって………………虐殺した人達の怨霊とか?」
「ちげえよ! つーか俺達は虐殺なんかしないっつーの!」
あら、違いましたの。わたくしもそれだと思っていたのですが。
「なら…………本当に怖がり?」
「だからちげえよ。俺が言ってんのは洞窟なんかに居る守護神的な奴だよ」
ガーディアン的なって、ダンジョンコアを守るガーディアンですわよね。
「幽霊がガーディアンだなんて聞いた事が無いのですが」
「あったんだよ! 盗賊団総員で攻略した『旧海賊の洞窟』で」
「待って。盗賊団がダンジョン攻略?」
「ん? 何かおかしいか?」
「おかしいでしょ。普通盗賊団って言ったら、隊商や冒険者を襲って強奪するもんでしょ?」
「そ、そんな非道な事は余程食うに困った時にしかしないっ」
やるにはやるんですのね。
「……て言うか……盗賊団って言うより盗掘団ね」
「盗掘じゃねえ! 魔物達からお宝奪ってるんだから盗賊団だ!」
よく分からないプライドですわね。
「…………そう言えば……モリーと出逢ったきっかけは、貴女達盗賊団に狙われた時でしたわね?」
「ああ、そう言われてみればそうだったわね」
「うぐっ……」
「つまり、あの時の貴女達は」
「食うに困っていたのね」
「ぐ……そ、そうだよ! 頭の俺だって三日間飲まず食わずだったんだ!」
それはそれは、大変だったのですね。
『あの~……』
はい?
『何か御用で?』
……はい?
『いちまーい、にまーい』
……え?




