皿屋敷な撲殺魔っ
『いちま~い……』
どこからともなく、声が聞こえてきました。
「やはり、警備兵さんの言う通りでしたわね」
「ほ、本当に居たんだ……ブルブル」
『にま~い……』
たった一枚、家宝であった皿を割ってしまったが為に、若い命を主人に奪われる事になった、悲劇の女性。
「現れましたわね、伝説の幽霊さん!」
『……貴女は……?』
「わたくし、シスターリファリスですわ」
『……シスター……』
「貴女と一度話をしてみたかったのです」
聖陵はその名の通り聖なるお墓であり、その周りにはたくさんの墓地が点在しています。
「そうですなあ、有名人のお墓が沢山ある事でも有名ですな」
門で並んでいる最中、たまたまお隣さんになった戦士の方と、聖陵についていろいろと話が弾みました。
「そうですわね。最も有名な方と言えば、先代勇者のハーティ殿でしょうか」
「後に結ばれた先代聖女の墓は隣に並んでるのよね」
「途中から仲間になった義賊・サイゾーも忘れちゃいけねえな」
やはり先代魔王を倒し人間達を救った勇者パーティは、未だに人気があります。
「そのパーティには呪剣士は居なかった?」
「居ないですわ。ですが、途中まで同行された方はいらっしゃいました」
するとリジーは思いっ切り食いついてきました。
「その御方の墓もあり? あるの?」
「近いですわよ、リジー」
「あるの? あるの? どっちなの?」
ある、しか選択肢がありませんわ……。
「はあ…………ありますわ。勇者パーティのお墓に並んで安置されています」
「うひょっほおおおおおいっ!!」
……やはりリジーも、勇者パーティに対する憧れは抱いているのですね……。
「リジー、念の為に言っておくけど、その呪剣士が装備していた呪具は埋葬されてないからね」
「………………しゅん」
前言撤回します。そんな可愛いものではありませんでした。
「……ん? リジー、貴女は墓荒らしするつもりでしたの!?」
「墓荒らしって……お前、元盗賊の俺でもした事ねえぞ!?」
「あ、あはは、しないしない。する訳無い…………と思われ」
「本当ですわね?」
「本当だな?」
「う、うん、しないしない」
……ならいいのですが。
「お、お嬢ちゃん、流石に墓荒らしは……」
話相手の戦士さんもドン引きしてますわ!
「大丈夫です。主にお誓いして、そのような愚行は阻止しますから」
「た、頼むぜ……〝魔剣〟のヒューイは俺の憧れなんだからよ」
〝魔剣〟のヒューイは件の呪剣士のお名前です。
「は、話を変えるか……他の有名人となると?」
「そうですわねぇ……歴代の大司教猊下に枢機卿様、それと最後の教皇様も眠っていらっしゃいますわ」
「リファリス、聖心教から離れようぜ」
え?
「〝虹の騎士〟と称えられた旧王国騎士・ラザイラとか?」
「そうそう! そういうのだよ!」
騎士……ですか。
「でしたら歴代自由騎士団団長のお墓も」
「だから、聖心教からは離れようって」
「四代目団長は人気ですわよ。〝金剛〟の二つ名持ちですわ」
「え、〝金剛〟のランスってフリーダン団長だったのか!?」
過去の偉人で盛り上がるなか、リジーは門近くの掲示板に釘付けになっていました。
「……? リジー、どうかしましたの?」
「あ、うん。掲示板に変なウォンテッド発見」
妙なウォンテッド?
「あー、除霊依頼だな」
除霊依頼?
「何せ墓が沢山あるからな、ちゃんと供養された奴ばっかじゃねえんだわ」
「それはつまり……出るんですの?」
「ああ。夜には人魂が当たり前のように出るぜ」
あらまあ。
「ひ、人魂!?」
リブラがやや過剰に反応したような……?
「まあ、ちゃんと供養されてるのが大半だから、大体は害は無い」
大体は……と言う事は。
「やはり除霊が必要なのですね?」
「ああ。さっきも言った通り、ちゃんと供養されたのばっかじゃねえ。この世に未練たらたらなのが夜な夜な、聖陵内を彷徨ってやがるのさ」
「そのような霊を対象とした除霊という訳ですか」
「ああ。教会でも除霊はしてくれてるんだが、それでも手に余ってるらしくてな」
教会で手に余ってるとは……相当な数の除霊依頼なのですね。
「ふーん……あ、この幽霊、俺が現役の頃に敵対してた盗賊団の頭だな。とっ捕まったとは聞いてたが、処刑されてたのか」
「リアルな話ですわね」
言われてみれば除霊依頼に名のある方々、ほぼほぼ罪人さんですわね。
「やはり未練があるのは罪人が多いと思われ」
「そうなるだろうな……まあ例外も居るには居るが」
「例外?」
「幽霊の有名人だ」
「はい? 有名人の幽霊では無く?」
「ああ。幽霊になってから有名になったんだ」
幽霊になってから有名になった方、ですの?
「シスターは三大怪談って知ってるか?」
「無論、知ってますわ。フォーキャニオン怪談、牡丹ランプ、そして番町ディッシュハウスですわ」
どれも女性の怖さを描いた傑作です。
「その中に、実話があるって知ってたか?」
「じ、実話!?」
「全部創作だろ!?」
「いえ、その辺りは諸説ある筈ですわ」
「その通り。で、その一つ・番町ディッシュハウスの幽霊が出没するって言ったら、どう思う?」
はいい!?
「あ、あの皿を数えるシーンが有名な、メイドのリリーさんですか!?」
「そうだ。その皿数えのリリーが、聖陵内に出没するんだ」
ま、まさか……!
いちまーい、にまーい。




