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ちは○ふる撲殺魔っ

「センノテ?」


 最終目的地・聖陵に近付いてきた頃、小さな村の宿で不思議な話を聞きました。


「はい。ここなら聖陵に行くには、二つの道がございます。新街道と旧峠です」


「新街道と言うのは……カノン山を迂回する、この道ですの?」


 広げられた地図を見ながら、道を指で辿ります。


「はい。で、旧峠と言うのが……カノン山を越えるルートです」


「距離的には断然旧峠の方が近いみたいだけど?」


「はい。ですがカノン山を迂回するように新街道が整備されたのには、ちゃんとした理由があるのです」


 峠道が相当険しいのでしょうか。それとも……盗賊の巣窟?


「実は……出るのです」


「はい?」


「カノン山の峠には……昔から出るのです」


「……盗賊ですの?」

「違います」

「魔物かな?」

「ニアピンです」

「なら、ゾンビ?」

「離れました」

「……ストリーキングしながらストーカーするゾンビ?」

「怖すぎますっ」


 なら、何なのでしょう。


「実は……魔物ではないか、と言われています」


「魔物じゃんか!」


「い、いえ、実は正体不明なのです」


 はい?


「その魔物らしきものは、一見人の姿をしています。ですが腕が無数にあるのです」


「腕が無数にって……二本以上?」


「当たり前です! 二本なら普通じゃありませんか!」


「なら、三本?」

「いえ」

「四本」

「もっとです」

「……五本?」

「全然です」

「なら六本」

「まだまだです」

「なら、大盤振る舞いで七本!」

「桁が違います」

「く……七本集めると願いが叶う腕だと思ったのに」

「はい?」


 リジー、茶々を入れないで下さい。


「オホン……それでセンノテ、つまり千の手なのですね?」


「そ、その通りです! 当然ながら千本も無いそうですが、それ程にたくさんの腕を生やしているので千の手(センノテ)と呼ばれています」


 それはまた、奇妙な魔物ですわね。


「聞いた事がありませんわ」

「私も。何回か魔物の討伐した事はあるけど、センノテなんてのは初耳」

「盗賊やってると魔物と遭遇するのもしょっちゅうなんだが……」

「私の元居た世界にも、流石に居なかった」


 センノテ……ですか。


「何か被害はあったのですか?」

「いえ、人的被害は特に。ただ、見た目のあまりの異様さに、忌避する者が多く」


 それはそうでしょう。わたくしだって会いたいとは思いませんわ。


「ですが……放ってはおけませんわね」

「え、じゃあ」

「行きますわよ、旧峠へ。邪悪な魔物でしたら、討伐しない訳には参りません」



 準備を整え、朝早くに村を発ちます。


「シスター、止めた方が」

「悪い事は言いませんから」


 村の方々には止められましたが、聖心教を教え広める者の義務ですから。


「センノテかぁ~……できれば会いたくないわ」

「気持ち悪いな、想像するだけで」

「人間のムカデ版?」

「「止めれ」」


 わ、わたくしまで想像してしまいましたわっ。


「はあ……決心が鈍りそうになりました…………ん?」


 旧峠の頂上に差し掛かったのですが、少し開けた場所にエルフの男性が立っていました。


「……ち……る……」


 何か呟きながら、目を閉じています。


「リ、リファリス、もしかして」

「ええ、あれがセンノテかもしれませんわね」


 宿屋のご主人の話ですと、見た目は普通の青年なのですが、急に無数の腕を生やすんだとか。


「か……もきか……つた……わ」


「うん、確かに何か呟いてる」

「間違い無いと思われ」


「からくれな……」


 様子を見ているわたくし達に気付く事無く、更に何か呟き続け。


「……くるとは!」


 ブワワワッ!


「えっ」

「せ、千の手だわ!」

「ほ、本当に千の手だ!」

「…………」


 ほ、本当に居たのです。センノテは。


「…………あれ、千の手擬き」


「「「はい?」」」


 リジーは何かに気付いたようです。


「あれ、手を素早く動かしてるから、残像が見えてるだけ」


 え、残像?


「残像が残る程の腕の速さ……?」

「も、もしかしら、凄腕の武道家なんじゃ?」


 その可能性が高いですわね。ここに居るのは修行でしょうか。


「何はともあれ、地元住民を怖がらせているのは事実です。注意はしておきましょう」



「え、俺が? それは済まなかった。驚かすつもりは無かったのだ」


 話してみれば、普通のエルフ男性でした。


「やはり武術の修行ですの?」

「いや、あるカードゲームの訓練だ」


 …………はい?


「カルタは知っているか? それに近いものだ」


 あー、はいはい。カルタですね。


「で、何で千の手?」


「私が熱中しているカードゲームは、上の句と下の句が読み上げられる。カードには下の句しか書かれていないが、競技者は当然上の句が読まれた時点で手を出すのだ」


「つまり千の手を出せる程速く動かせれば、カードを取るのも容易いと?」


「いや、私は記憶するのが苦手でな」


 はい?


「だから上の句が読まれたと同時に全てのカードに手を出せれば、どんな相手よりも先に取る事ができると考えて」

「それで、残像が残るくらい素早く手を?」

「そうだ」


 ………………………………はあ。


「それ、外れは全てお手つきになるだけですわよ?」

「………………あ!」


 今まで気付きませんでしたの!?



 その後、リジーからアドバイスを受けたエルフ男性は更に修行を重ね、やがて〝拳聖センノテ〟と称えられる程に武道家として大成なさいますが……それは別のお話です。

男性が呟いていたのは、ちはやふる~……です。

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