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燃え上がって撲殺魔っ

 結構な頻度で声を掛けられますが、全て大剣とモーニングスターで追い払えました。


「大剣のインパクトは凄まじいですわね。振り回すだけで逃げていきますもの」

「いやいやいや、モーニングスターに比べたら……ナンパ野郎だけじゃ無く、一般人すら遠巻きになっちゃったじゃない」


 わたくし達を中心に半径2m以内、誰も来なくなってしまいました。


「リファリス、あれ食べたい」

「焼きそばですね。買っていきましょう……すいません」


 露店から漂うよい匂いに釣られて、わたくしの財布の紐も緩んでしまいます。

 ……が。


「ひ、ひぃぃ! 命、命だけはぁぁへぶぅ!」

「「……え?」」


 鉄板から後退りし、そのままひっくり返ってしまわれました。


「だ、大丈夫ですの?」


 怪我をなさってないか心配で、様子を見ようと近付くと。


「ひぎゃあああああああああ! 殺さないで殺さないで俺には三人のガキが居るんです腹空かせてまって待ってるんですだから命だけは命だけはああ!」


「あ、あの、わたくし達、焼きそばが欲しいだけ」


「好きなだけ持ってって下せえナマンダブナマンダブ!」


 何ですかそれっ。


「はぁぁ……リブラ、他の店に行きましょう」

「あ、うん」


「悪霊退散かしこみ急急如律令アーーメン!」


 ですから何なんですの、それ!?



 射的屋さんに行っても。


「ひぃぃ! モーニングスターで的をぶち抜かないで下せえ!」

「しませんわよ!」


 金魚掬いに行っても。


「す、水槽ごと斬り捨てるのは勘弁して下せえ!」

「しないわよ!」


 各種食べ物を売っている方々も。


「ぜ、全部食べるのか!? 食い尽くすつもりなんだな!?」

「こんなに食べられる筈ありませんでしょ!?」

「た、頼むから俺の命はフードロスしてくれぇ!」

「意味が分かりませんわよ!」


 誰しもが逃げて、逃げて、逃げていきます。


「ま、まさか、さっきのナンパ対策が」

「悪い方向に誇張されて伝わってしまったようですわね」


 そして、夜店が並ぶ通りには、誰も居なくなってしまいました……。



 服装を構い、見た目を変えてから祭りの本会場に潜り込みます。


「今回は目立たないように、目立たないように……」

「リブラ、大剣は禁止ですわよ」

「そう言うリファリスだって、モーニングスター出さないでよっ」


 慎重に人混みに紛れ込んで、最大の見せ場らしい〝火渡り〟を見物するつもりです。夜店では何も買えませんでしたから、せめてこれくらいは楽しみたいのです。


「あーあ、リファリスがあんな物騒なもん振り回すから」

「リブラには言われたくありませんわ!」


 ボオオオ……

 パチパチパチ……


 すると激しい炎が暗闇を染め上げ、観衆の皆様が興奮の声を上げられます。


「いよいよみたいね」

「楽しみですわ」


 すると、わたくし達の背後を数名の男性が通り。


「はい、ここまでね」

「ここから後ろは近寄らないでー」


 何故かロープで区切りました。わたくし達は内側に入っています。


「うわあああ! 死にたくない、死にたくないい!」

「お母ちゃーん、助けてええ!」

「よ、良かったぁぁ……危ないとこだったわ」

「区切り来たらソッコーで逃げないと」


 い、一体何が……?


「えー、ロープより内側に入られた方々、これより〝火渡り〟に参加して頂きます」


 はああああああああああああ!?


「まずは牧師様がお手本を見せて下さいますので、順番にお願いします」


 そう紹介されて進み出た牧師さん、どう見ても真っ青になって震え上がっています。


「しゅ、主々々々のご加護ををを」


 ガタガタと歯を鳴らしながら、靴を脱ぎ…………ええええええ!?


「い、いき、行きます。いえ、逝きます!」


 死を覚悟してまでする事ですの!?


「ふぅぅ、はああ……うりゃあああああちあちあちあちあちあちあちぃぃ!」


 服燃えてますわ! 髪燃えてますわ! 簡単に言ってしまえば火だるまですわ!


「ぎゃああああ!」

 バシャバシャア! ジュウウウ……

「う、ううぅ……」


 牧師さん、消火してもらってうずくまっていますが……明らかに重傷ですわね。


「誰か、回復魔術を使える方はいらっしゃいませんか!?」


 火だるまになるくらい危険な祭りでしたら、回復魔術士の方を配置しなさい!


「はぁ……こっそり『癒せ』」

 パアアア……


 遠隔魔術で治療してあげたのですが。


 ぐいっ

「次はお嬢さんだな」


 え?



 ボオオオ……

 パチパチパチ……


 で、冒頭に至った訳なのです。


「頑張れよー、お嬢さん!」

「今年は優れた回復魔術士が居るみたいだから、大丈夫だぞー!」


 それ、わたくしですわ。


「な、何て無責任な祭りなのよ」


 ですからマイナーなのですわ。知れ渡ってましたら、確実に大司教猊下から廃止の決定が出されてますもの。


「どうするのよ、リファリス」

「……仕方ありませんわ。ここは聖女の名を使わせて頂きます」


 わたくしにとっての普段着である法衣を纏い、聖女の杖を取り出します。


「お、おい、あれ」

「ま、まさか……聖女様じゃ?」


「……天誅天罰滅殺抹殺必殺瞬殺、撲殺! はああああ!」

 ズドオオオン!

 ボフゥン!


 風圧で火を消し、高らかに宣言します。


「火の中に人を放り込み、火傷を負わせて笑う祭りなんて言語道断です! 聖女の名において、今後一切このような行為は禁止します!」


「せ、聖女様!?」

「聖女様って、確か〝紅月〟……」

「やべえ! やべえって!」


「分かりましたか!?」


「「「は、ははーっ!」」」



 ……当然ながら翌年以降も、大司教猊下の御命令により、聖心火祭りはもっと安全安心な祭りに変わったそうじゃ。



 

鎮火聖心の称号も得ます。

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