火祭りと撲殺魔っ
ボオオオ……
パチパチパチ……
「リ、リファリス、本当にやるの?」
「修行です」
ボオオオ……
パチパチパチ……
「だからって、これは流石に」
「修行です」
ボオオオ……
パチパチパチ……
「いや、無理だって! 絶対に大火傷するって!」
「いざとなったら治療するだけですわ! 例え火だるまになろうと、掴める何かがある筈」
「そこまでして得たい修行の成果って何なのよ!?」
「……聖心……火祭りですか?」
わたくしも長年聖心教を信仰してきましたが、火祭りなんてものは聞いた事がありません。
「私も初めて聞いただけどさ、この町では一大イベントなんだって」
お買い物を済ませて戻ってきたわたくしに、リブラが「聖心火祭り」について聞いてきたのですが……前述の通り、全く心当たりがありません。
「大司教猊下かルディ辺りなら知ってるかもしれませんが」
「そのクラスじゃないと知らない祭りなら、そこまで有名な祭りじゃないのかもね」
「その祭り、今日ですの?」
「みたいよ。買い出しに行った市場、祭りの話題で持ち切りだったから」
聖心教は広範囲で信仰されていますから、地方によって独特な教えが伝わっていたりする事もあります。ですからマイナーなお祭りがあっても不思議ではありません。
「……リブラ、行ってみたいのですか?」
「行ってみたい!」
今夜は何の予定もありませんし、所用で別行動しているリジーとモリーも、合流するのは明日以降ですし。
「……分かりましたわ。行ってみましょう」
「やった!」
嬉しそうなリブラ。
「貴女、祭りよりも夜店が目当てじゃありませんの?」
「え? あ、うん、それもそうなんだけど……」
「あら、他に何か目論んでますの?」
「え…………ま、まあ、目論みって程じゃないけど」
何か他に目的があって、わたくしを誘ったようですわね。
「きょ、今日はさ、聖心教っぽい格好せずに出掛けない?」
はい?
「だ、だから、普段着で出掛けないかって事」
普段着……ですか?
「わたくし、法衣が普段着ですが」
「だ、だから、聖心教抜きでの普段着っ」
聖心教抜きの普段着、ですの?
「…………おそらく聖心教に関わらない服装となりますと、鎧くらいしか」
「ビキニアーマーは流石に…………あ、待って」
リブラは自分の鞄から、ワンピースを取り出します。
「はい、これなら着れない?」
「え? これはリブラのでは」
「いいからいいから」
は、はあ……。
「す、少し胸がキツいですわね」
胸周りだけがパツンパツンです。
「そ、それでも駄目なんだ………………この町で一番胸周りが大きいのを選んだのに」
「はい? これ、わざわざ買ってきたんですの?」
「あわわわ何でもないです!」
……リブラ……この服を探す為に、一日中歩き回っていたのですね。
「ありがとうございます。わたくし、これで出掛けますわ」
「え、でもパツンパツン」
ビリッ!
胸元に切れ込みを入れます。
「これで解決ですわ。これでしたら胸の谷間から物を出し入れするのにも影響ありませんし」
「そ、そこまでして、着てくれるんだ……」
「当たり前ですわ。リブラが選んでくれたんですもの、着ない筈がありません」
「あ、ありがとう!」
手を繋いで夜店を巡るわたくし達は、誰がどう見ても一般人でしょう。
「うっわ、スゲえ美人」
「この辺りでは見ない顔だな。冒険者か?」
「つーか、あの胸……い、いけねえ、鼻血がっ」
…………どう考えても注目されてますわね。
「リファリス、あれも食べたい」
「はいはい……それよりリブラ、わたくし達……」
「ああ、うん。見られてるわね。これはもう、仕方無いわよ」
仕方無いのですか。
「リファリスみたいな綺麗な人、大きな町でもなかなか居ないんだから、どうしても目立っちゃうよ」
「綺麗だなんて……ありがとうございます」
「それに、胸」
あ。
「やっぱりその切れ込み、目立つ事この上ないよ」
「し、仕方無いのです。どうしても胸の谷間は必要ですし」
「だったら、我慢するしかないわよ。私は気にしてないから、リファリスも気にしない、気にしない」
は、はあ……。
「よーよー、姉ちゃん達よぉ」
はい?
「俺らと祭り見て回んない?」
「奢ってやるからさ」
チャラい……と言うのでしょうか。そんな二人組がわたくし達に声を掛けてきました。
「リファリス、行こ」
それを無視して、リブラがわたくしの手を引きます。
が。
がしぃ
肩を掴まれました。はあ……。
「そう言わずにさあ、なあ?」
「そうだよ。俺らはこの辺でNo.1の冒険者なんだぜ」
No.1の、ねえ。
「うっさいわね。私達は私達だけで楽しんでるの。邪魔するんなら力ずくで黙らせるわよ」
「はあ? 力ずくだあ?」
「あっははは、そんな細腕で俺らに勝てるとでも」
ジャキン!
リブラの大剣が空間魔術から飛び出し、男性の首筋に当てられました。
「あら、そんな隙だらけで私達に勝てるつもり?」
「う……」
わたくしもモーニングスターを取り出し。
ブゥンブゥンブゥン!
軽々と振ってみせます。
「お二人ともぉ……わたくしと同行したいのでしたら、頭が砕かれないように気を付けて下さいまし……あは、あははは、あはははははははは!」
「ひ、ひぃぃ!」
「に、逃げろぉぉ!」
転がるようにして逃げていく二人組を見て、苦笑いするしかありませんでした。




