手料理と撲殺魔っ
「まあ、これをわたくしに?」
「へえ。つまらんもんですが、食べて下せえ」
「それはそれはご丁寧に、ありがとうございます」
重そうな荷物を運んでいたお婆さんに声を掛け、少し手伝ってあげました。するとお礼にと、採れたての野菜を頂いたのです。
「逆に申し訳無いくらいなのですが」
「いやいやいや、畑いっぱいの野菜を運んでくれた上に、儂の肩凝り腰痛リウマチまで治してくれたんだから、これでも安いくらいだよ」
そうですか? では、遠慮無く。
「……と言う訳で、しばらく食料には困りませんわ」
「うっわ、見事に野菜だらけ……」
「野菜嫌いお肉がいい、野菜嫌いお魚がいい」
肉食中心なリブラとリジーには不評ですが。
「おお、こりゃ良い野菜ばっかじゃねえか! 今夜は野菜尽くしだな!」
意外にも菜食中心なモリーには好評でした。
「どちらにしても、肉や魚ばかりと言う訳には参りませんわ。今夜は野菜尽くしにさせて頂きます」
「「うへぇ……」」
「うっしゃ!」
わたくし達は冒険者ギルドの宿舎に寝泊まりさせてもらっていますので、基本的に自炊になります。その為に共同ではありますが、キッチンも併設されているのです。
「モリー、また手伝って頂けますか?」
「あいよ」
野菜の皮剥きやカットはモリーが、その他の調理全般はわたくしの担当です。
シュルルル……
「……相変わらず、見事な皮剥きですわね」
ジャガイモの皮をあそこまで繋がったまま剥ける方を、わたくしは他には知りません。
「俺がナイフが得意なのは、日常的に使う事が多かったからだ」
「日常的に……ですの?」
「男やもめの溜まり場だったからな、盗賊は。包丁代わりにナイフ、ひげ剃り代わりにナイフ、仕舞いにゃフォーク代わりにナイフもザラだ」
「フォーク代わり?」
「つまり、ナイフで食い物ぶっ刺して、そのままパクつくのさ」
な、成る程。
「……それよりシスター、前々から気になってたんだが」
「はい?」
「今まで一度も刃物を持っているところを見た事が無いんだが……?」
「ええ、そうですわね。教会にある刃物も、リブラやリジーが使う包丁か、お預かりしている呪具くらいですわ」
「…………どうやって今まで皮剥きしてたんだ?」
「皮剥き? いえ、していませんでしたわ」
「はあ!? 野菜の皮剥き、一切してなかったのか!?」
「はい。わたくしの場合は皮剥きでは無く」
胸の谷間から鮫皮のヤスリを取り出し。
シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャッ!
「ふう……皮削りで対処してました」
「うっわ、滅茶苦茶重労働じゃねえか」
そうですか? 修行の一環だと考えれば、大した事はありませんわよ。
「つーか……切るっていう作業はどうしてたんだ?」
「え、殺す? 撲殺ですわね」
「違う違う、切ったりするのはどうしてたかって事」
「ああ、切る、ですか」
手刀を構え、集中。
「ま、まさか」
「……すぅぅ……はあ!」
スタァァァン!
「はい、切れました」
「スゲえ。手刀でカボチャ切った人、初めて見た」
「ふう、ですが精神統一が必須ですから、なかなか疲れるんですの」
「いやいやいや、だったら普通に包丁使った方が良くない?」
うっ。
「そ、そうなのですが……」
「あ、もしかしたら、シスターは刃物禁止だったか?」
「い、いえ、それはありません」
「そう……だよなあ。だったらリブラの姉御、あんな大剣ぶん回せないもんなあ」
「え、ええ……」
「……もしかして、シスター……刃物苦手?」
はううっ!?
「そそそそんな事はございませんわ!」
「めっちゃ動揺してるぜ……つーかよ、苦手じゃないんなら使えばいいじゃねえか。その方が効率的だぜ」
「そ、そうですわね……」
「ほら、何だったらナイフ貸してやっから」
ナ、ナイフ……!
「ほら、皮剥いて」
ナナナ、ナイフ……!
「リファリスー、ご飯まだー?」
「ああ、姉御ですかぃ。今はシスターがナイフを使うとこで」
「ナイフ? え、リファリスがナイフ!?」
「? ええ……って、うわ!?」
「逃げるわよ! 早く!」
ナイフ……!
「な、何なんですかぃ!?」
「リファリスに刃物持たせちゃ駄目なの!」
「え? な、何か問題でも?」
「リファリスは『加護』持ちなのよ!」
「か、加護!? シスターが!?」
「リファリスは刃物の扱いに極端な『加護』が付くの!」
「きょ、極端な加護?」
「切れ味増幅、飛斬、バーサーク、その他諸々!」
「バーサーク!?」
「つまりリファリスは、刃物を持った時点でありとあらゆる物を切り始めるの!」
「あはは、あははははは、あははははははははははは!」
「うわああ、始まったああ!」
「ありとあらゆる物って、下手したら俺達の命もヤバいんじゃ!?」
「大丈夫、人死には無いから」
「……はい?」
「『加護』は強力な分、致命的なデメリットがあるのは知ってるわよね?」
「あ、ああ。そのデメリットが問題なのか?」
「ええ。リファリスの『加護』のデメリットは……対生物斬撃無効」
「………………はい?」
「つまりリファリスの斬撃では、生物は殺せないの」
「な、何だ、だったら無問題」
ザシュシュ!
パラパラ……バササッ
「……え?」
「人体には無効でもね、物……つまり服には有効なの」
「え、え?」
「つまりリファリスに刃物持たせたら、周りの人達は確定で全裸にされちゃうのよ」
「きゃ、きゃああああああああああああ!!」




