アッツアツの撲殺魔っ
剣の聖地〝剣山〟を骨抜きに……オホン、平和にした聖女様御一行は、順調に巡礼の旅を続けておった。
前半で色々なトラブルに巻き込まれたものの、その後は今までの騒動が嘘だったかのような穏やかな旅が続き、ついに巡礼最後の目的地・聖陵へと差し掛かっていたのじゃった。
なぬ? 平穏無事な旅の様子は語ってくれんのか、じゃと?
シスター達の普通の旅を語って、何が楽しいのじゃ?
む、何じゃと? 女性四人の姦しい旅路なのじゃから、色々とお色気事情満載では無いか、じゃと?
むむむ…………何気ない日常に潜む、女性の艶やかな仕草…………むっはああああ! よし、早速見てみようかの!
ゾクゾクゾクッ!
「っ!!!?」
「ん? どうかしたの、リファリス」
「え…………あ、いえ」
何でしょうか。実に穢らわしい厭らしい気持ち悪い視線を感じたのですが……。
シクシクシク……どうせワシなんか、穢らわしくて厭らしくて気持ち悪いんじゃ……シクシクシク。
「……?」
「だから、どうしたのよ?」
「え、いえ。誰か小賢しい涙を流している気がしまして」
「……小賢しい涙って……まあいいわ。それよりリファリスは初なんだよね?」
「ええ、初めてですわ。聖心教の修行には無いものですし」
「ま、まあ、確かに、修行っていうタイプのものでは無いわね」
「限界まで耐え続ける、とかなら修行になると思われ」
「リジーの姉御、それは単なる我慢大会ですぜ」
……〝剣山〟での騒ぎの後、マッシュ坊や……師範代様から「疲れを癒やすには一番です」とご紹介頂き、訪れたのが。
「ようこそ、私の心の故郷へ!」
リブラが温泉以上に愛して止まない蒸し風呂です。
「リファリス! 蒸し風呂じゃないわ。サウナよ、サウナ!」
「……サウナと蒸し風呂って同じじゃありませんの?」
「何を言ってんのよ! サウナと蒸し風呂は全くの別物よ!」
そ、そうなんですの?
首だけ令嬢の言う通り、サウナと蒸し風呂は別物じゃよ。まあ、似て非なるもの、という言い方が正しいじゃろな。
簡単に言えば、湿度の違いじゃな。蒸し風呂が高温多湿なのに比べて、サウナは高温低湿なのが特徴じゃ。
何? ならスチームサウナとか蒸気サウナとかは何なんだ、じゃと? ワシャ知らんよ。呼び名がそうであったとしても、蒸し風呂とサウナは別物な事に変わり無いわい。
ガチャ ムワワワン
「あっつ……こ、こんな中に籠もるんですの?」
試しに開いてみたドアの向こうは、灼熱地獄でした。
「リファリス、服着たままだと、暑いのは当たり前だよ」
「でしたらどうやって…………ええええ!?」
全員裸に!?
「何を驚いてるの? サウナに入るんだから、裸なのは当たり前じゃない」
そう言うリブラは完全なオールヌード。隠そうともしていません。
「そうそう。汗だく確定だから、着衣は無用」
「まあ、だからって、リブラの姉御みたいにフルオープンにする必要は無いんだが」
恥ずかしがりなリジーとモリーも全裸。但し、タオルで身体は隠していますが。
「あ、汗だくになるんですの?」
「そうよ。それがサウナの醍醐味じゃない」
「極限まで汗を流してからの水風呂、これ究極なり」
「で、締めにキンキンに冷えたビール…………くぅぅ、堪らん!」
……何故にわざわざ汗を流して、水風呂に入り、キンキンに冷えたビールを?
「ほらほら、リファリスも脱いで」
「こういうのは、何より体験」
「やってみなくちゃ分かんない事が世の中多いだろ。な?」
……はあ。分かりましたわよ。
ガチャ ムワワワン
「ふう。やはり暑いですわね」
「……リファリスも隠さないんだ……」
「シスターって普通、お堅いものと思われ」
「そのお堅いシスターをサウナに誘ったのは誰だよ」
貴女達ですわね。
「シスターだから何もかも禁止な訳ではありませんわ。主は束縛を嫌われてますのよ」
「そ、そうなんだ……」
ふう。もう身体が火照ってきました。
ポタポタ……
「汗が止まりませんわね」
「ふう、ふう……ねえ、ちょっと熱すぎない?」
「ああ~……普通より高めと思われ」
「そうだな。ちょっと熱すぎるかな?」
そうでしょうか。もう少し暑くても平気なくらいですが。
「まあ、サウナは熱ければ熱い程良いって言うしね」
「そ、そうだと思われ」
「へえ、言うじゃねえか。だったら、誰が最後まで入ってられるか、勝負するか?」
「へえ、面白いわね」
「その勝負、受けた」
勝負って……。
「最初に脱落した奴は、全員にビールを奢るって事で」
「「ノった」」
そ、それは賭け事ではありませんか!
「いけませんわよ! 賭け事がもたらす悲劇は、貴女達も身にしみてお分かりでしょう!」
「そ、そりゃあまあ、そうなんだけど」
「単なる我慢大会の景品だから、そこまで目くじらを立てる必要ナッシング」
「柔らかく考えようぜ、シスター」
「貴女達……自分が聖心教信者だという自覚はあるのですか?」
「「「……多分」」」
ぶちっ
「あらあああ、よぅぅぅく分かりましたわ、わたくしの弟子の考えが」
「「「……え?」」」
「そこまで言うのでしたら、わたくしも参加致しますわ。と言うより、積極的に協力させて頂きますわ」
「「「あ、あの……」」」
「せっかくの我慢大会ですもの、この程度の暑さでは物足りませんわね」
「「「えっ」」」
「もっともっと暑く……いえ、熱くなければ勝負になりませんわよ!」
柄杓で水を掬い。
ザアアッ ジュワアアア……
「「「うっ」」」
ザアアッ ジュワアアア……
「「「うっ」」」
ザアアッ ジュワアアア……
「「「ううぅ……」」」
「まだまだ物足りませんわね。もっと、もっと熱くして差し上げますわ! あははははははははははは!!」
この後、素っ裸の女性が三人、緊急搬送されたそうじゃ。
シスターの圧勝。




