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聖女様の閑話

「マッシュ、お前って本当にヘタッピだな!」

「才能無いんだから、さっさと剣習うの止めちゃえよ!」


 みんなに言われる。ボクは才能が無いって。


「だ、だけど、頑張ってれば、いつか報われるって、パパが!」


「あはははは! 報われるのは何年後なんだよ!」

「百年経ったってお前は落ちこぼれのまんまだよ!」


 ブン! ボカッ!


 い、痛い!


「ほらほらほら、防いでみろよ! 受け止めてみろよ!」


 ボカボカボカボカッ!


 痛い痛い痛いい!


「おい、やり過ぎだぞ」

「へ、別にいいさ。こんな落ちこぼれ、俺達のストレスの捌け口くらいでしか存在価値は無いんだから、よ!」

 ブゥン! バギャ!

「ぎゃあ!」


 あ、頭が、割れたみたいに痛い……!


「馬鹿! 本当に死んじまうぞ!」

「……ちっ、別に死んだって構わねえだろ」

「お前、警備隊に捕まりたいのか!?」

「ちょっと手元が狂ったとか言えば、処罰されるような事は無いって」

「そういう問題じゃない! 止めろってんだよ!」

「うるせえなあ……あーあ、殺る気が失せた。止めだ止め!」

 ポイッ カランカラン


「……おい、俺達がやったとか言ったら、本当に殺すからな」



 い、痛い……。


 ポタポタッ


 血、血が、血が止まらないよう。

 ボク……死んじゃうのかな。


「坊や、どうかしましたか?」


 え?


「あらあら、酷い怪我ですわねえ……『癒せ』」

 パアアア……


 ええ?


「ほら、傷は治りましたわよ」


 ほ、本当だ、もう痛くない……。


「立てますか?」

「う、うん」


 ボクを立たせてくれたのは、真っ白な服を着た、綺麗な綺麗なお姉さんだった。


「貴方、お名前は何て言いますの?」

「ボ、ボクはマッシュです」

「そうですか。わたくしはリファリスと申します」



 これが。

 ボクと聖女様との出会いでした。



「待てええ!」

「逃げんなよ、こら!」


 はあ、はあ、はあ。

 ここを曲がって、左に出れば……!


「つ、着いた、教会!」

 バンッ!


 ドアの先には、モップを持った聖女様が。


「あら、マッシュ坊やじゃありませんの」

「聖女様、ちょっと匿って!」

「はい?」


 バンッ!


「待てって……あ」


 追い掛けてドアを開けたいじめっ子達は、聖女様を見て足を止めた。


「何ですの、貴方達は」

「あ、いや、その……」


 真っ赤になってモジモジし始めるいじめっ子。この街の住人はみんな聖女様には弱いんだ。


「マッシュ坊やに用事がありまして?」


「あ、えっと、い、一緒に遊んでるうちに、その……」


 チラッと視線を向けた聖女様に、必死で首を横に振る。


「……そうですか。申し訳ありませんが、これからわたくしのお手伝いをしてくれる事になってますの」


「な……そんな筈は……」


「あら、何故そう言えますの?」


「う…………わ、分かったよ!」

 バンッ!


 いじめっ子は少し乱暴に扉を閉め、どこかに行っちゃった。


「……またですの」


「うん……」


「先日の子達とは違いましたわね」


「う、うん。あいつらがけしかけてるんだ」


 逃げ回るボクを追い詰める為に、あちこちのいじめっ子に声を掛けてるみたいなんだ。


「それはそれは、わざわざご苦労様ですわね」


「だ、だから、ボク……どこにも行けなくて……グスン」


 泣き始めたボクに、聖女様が優しく寄り添ってくれた。


「男の子が泣くものじゃない……なんて言いませんわ。逆に、よく今まで耐えましたと誉めて差し上げますわ」

「う、うぅ……うええええん!」

「よしよし……それにしても、少しお痛が過ぎますわね」



 それから何日かして、ボクを追っかけ回していたいじめっ子達は、すっかり大人しくなっちゃった。逆にボクを避けてるみたい。


「……聖女様、何かしてくれたの?」

「少ーし、注意しただけですわ」


 ……聖女様の少ーしって……。


「それよりマッシュ坊や、何故びしょ濡れなんですの?」


「ああ、うん……最初にボクをいじめ出した連中が」


「あら、まだ懲りてませんのね」


「い、いや、殴ってはこないんだけど……」


 ……水鉄砲で……。


「はああ、全く……少ーしでは足りませんでしたか」


 いや、少ーしで充分じゃない?


「それよりマッシュ坊や、そのままだと風邪を引きますわよ?」


「あ、うん……クシュン!」


「ほら、身体を温めないといけませんわ。お風呂を沸かしてありますから、入っていきなさいな」


「あ、うん……」


「わたくしが入れて差し上げますわ」


「あ、うん…………え?」



「うん、いいくらいの温度ですわ」


 え、え、ちょっと待っ「ほら、脱ぎなさい」って、ええええっ!?


「わたくしも脱ぎますから、マッシュ坊やも……ね?」


 ええええええええっ!?


 シュルッ

「わああああああああああ!?」


「ほら、入りますわよ」


 あ、あ、あ、あ、メ、メロンが、スイカが、あああぁぁぁ…………。



「クソ、聖女がしゃしゃり出てくるなんて」

「だから言ったろ、お前はやり過ぎなんだよっ」

「こうなるんだったら、早々に殺してやればよかったぜ」

「お前、まだそんな事を言って」



「あらあああ? まだ懲りてない悪い子は、貴方達かしらあああ?」



「「……え?」」


「悪い子には、夜中に来るんですのよ…………〝紅月〟がね」


「「な、あ、あか、紅月!?」」


「あは、あははは、あははははははははは!」



「「ぎゃあああああああああああああっ!!」」

「あははははははははは!!」



 ……あのどうしようもなかったいじめっ子達は、いまは嘘のように大人しくなり、聖心教の牧師として働いているとか……。


「聖女様、何かしらなさったんですか?」


「あら、少ーし厳しく指導しただけですわよ」


 厳しく……ですか。何回撲殺したのやら。

明日から新章です。

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