表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

274/428

仮師範代の撲殺魔っ

「稽古をつけてほしい、とはどういう事ですの?」


「言葉通りの意味です。聖剣流仮師範代としまして、一週間程度で構いませんので、弟子達を鍛えてほしいのです」


 鍛えてほしい……と言われましても。


「わたくし、剣術はからっきしですわよ?」


「分かっております。大変失礼な物言いではありますが、剣術の指導をお願いするのでしたら、他流のリブラ様にお願いするでしょうね」


 でしょうね。わたくしが師範代の立場にあっても、そう判断しますわよ。


「私が望むのは剣術では無く、生きるか死ぬかの瀬戸際というものを、弟子達に体験してほしいのです」


 ……それはつまり……。


「全員撲殺すれば宜しいんですの!?」

「違います。それと嬉しそうにしないで頂きたい」


 あら、本当に残念ですわ。


「申し訳ありませんが、聖女様には敵役になって頂きたいのです」


 はい?



 マッシュ坊や……いえ、師範代様の提案を簡単に言ってしまえば、命懸けの鬼ごっこ……となるのでしょうか。


「聖女様は武器を携帯し、弟子達を本気で追いかけて頂きます。そして捕まえた場合は……」

「捕まえた場合は……本当に撲殺しても」

「駄目です! 本当に殺してしまっては、稽古の意味が無いではありませんか!」


 ……でしたら、お受けする価値は……。


「もし引き受けて頂けるのでしたら、私が所有します『主の一筆書き』を進呈致します」


 なっ。


「ほ、本物ですの!?」

「はい。我が流派に代々伝わっている逸品ですので、間違い無いかと。



 ふっふっふ、久し振りに解説してしんぜようぞ!

 主の一筆書きとは…………まあ、そのままじゃな。主がお書きになったと伝わる書じゃ。

 む? さいんみたいなものか、じゃと? さいんが何かは分からぬが、とにかく主がお書きになった何か、じゃよ。



「仕方がありませんわ。不本意ではありますが、わたくしは貴女達を地の果てまで追い詰めなくてはなりませんの」


「「「……師範代、何故に聖女様が?」」」


「聖女様の別名を知っているか?」


 全員同時に首を左右に振ります。それにしても、息がピッタリですわね。


「聖女様は〝紅月〟とも呼ばれている」


「せ、聖女様が!?」

「紅月ってセントリファリス周辺に出没する、連続撲殺魔だったよな!?」

「ほ、本当なんですか!?」


「さあな。それはお前達自身が肌で感じてみれば良い」


「「「は、肌でって……」」」


「な、何だ?」


「聖女様のエキスを全身で感じた師範代と」

「待遇の違いを嘆いていただけです」


 わたくしのエキスって何ですの!?


「それより師範代。その訓練、私達には何も無いのですか?」


「何も、とは?」


「鼻先に人参をぶら下げて頂ければ、やる気も違ってくるのですが」


「鼻先の人参だと? 実戦という得難い経験はまさに人参以上だろうが」


「いえ、そう言う抽象的なものでは無く」

「何か目に見える物で、人参……いえ、ぶっちゃけ褒美が欲しいと言うか」


 目に見える何か、ですか。


「ならばわたくしの説教を一時間」

「「「謹んでご遠慮申し上げます」」」


 何故ですの!?


「ならば、私の署名入り木刀を」

「要りません」

「ゴミと一緒に処分しなくちゃならないだけ、無駄です」

「風呂の焚き付けにも使えない」


 ボロクソですわね。


「~っ……だ、だったら、何が良いのだ?」


「そうですねぇ……」


 お弟子さんの一人がニヘラっと笑います。


「だったら、俺達も師範代と同じ体験をしたい、とか?」


「私と同じ体験…………ま、まさか、聖女様と入浴…………調子に乗るなぁ、小童共がああ!」

「「「ひぃ!?」」」


 す、凄まじい迫力。流石は師範代様ですわね。


「言うに事欠いて、そのような破廉恥な望みを……しかも聖女様相手に! 恥を知れ、恥を!」

「そうですわね、恥を知るべきですわ」

「ぐ……」


 その台詞、マッシュ坊やが語れるものではありませんわ。


「と言うより、わたくしは構いませんわよ?」

「「「………………え?」」」

「ですから、構いません、と言っているのです」


 それを聞いたお弟子さんの一人が、恐る恐る聞いてきました。


「あ、あの、私達と……お風呂に入って頂けると?」

「はい、そう言っています」

「「「うおおおおおおおおっ!?」」」


 師範代様が驚愕したまま、わたくしに駆け寄ってきます。


「せ、聖女様、流石にそれは」

「但し、わたくしから一時間以上逃げ回った方に限りますわよ?」

「「「勿論です!」」」

「でしたら、全然構いませんわよ」

「「「うっしゃあああ!!」」」


 ふふ、凄まじいやる気ですわね。


「聖女様、流石にそれは」

「あら、全然構いませんわ。だって」


 捕まえてしまえばいいのでしょう?



「では、始め!」

「聖女の戒『茨』」

 ピシュルルルッ!

「はい、捕まえました」



「ふう……良い湯ですわね」

「「「はい、聖女様!」」」


 女湯で(・・・)温泉を堪能するわたくしに、お弟子さん達が同意してくれました。


「はああ……聖女様、お美しい」

「わ、私、自信無くなるわ……」

「いえ、あれは目標よ。私達が到達すべき究極の一よ」

「そ、そうね。いつか辿り着くべき道標」


 聖剣流には、女性の武芸者が多いのですね♪



「し、師範代ぃぃ!」

「何故男しか捕まってないのですかああ!」

「しかも蔦で捕まえるってありなんですかああ!」


「聖女様……これでは訓練になっていません……」


 その頃、訓練場では。

 泣き咽ぶお弟子さん(但し男性)と、頭を抱える師範代様の姿が見受けられました。

昨日は遅くなってすいませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ