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昔を語る撲殺魔っ

 ギギィィィ……


 え、何ですの、この列をなす方々は?


「「「聖女様に、礼っ!」」」

 ザザッ


 っ!?


「これはこれは聖女様、ご機嫌麗しく」


 顔を引き吊らせていたわたくしに、初老の男性が笑いながら近付いてきました。

 

「……止めて頂けないでしょうか。流石に全員に跪かれては、わたくしとしましても若干引き気味と申しましょうか……」


「はっはっは、流石の聖女様もこれだけの光景は初めてでしょう」


 あ、当たり前です。門が開くと同時に、何百人単位で跪かれたら、誰でも引きますわよ。


「それより師範代様、わたくしをお呼びになった理由は何ですの?」


「いえ、実は……聖女様にお願いするような事では無いのですが……」


 わたくしに頼むような事では無い?


「あの……我が弟子達と手合わせして頂きたいのです」


 ………………はい?



 何故、このような展開になったかと言いますと……。

 昨日の夕方でした。わたくし達が宿泊している宿屋に来客がありました。


「お久し振りです、聖女様」


「え、えっと?」


「お分かりにならなくて当然です。私が聖女様にお会いしたのは、三十年以上前ですから」


 三十年以上前では、流石に……。


「覚えていませんか? セントリファリスで毎日泣きながら教会に逃げ込んでいた、十歳の少年の事を」


 え………………あああ!?


「マッシュ坊やですの!?」

「はい、本当にあの時はお世話になりました」

「あら、まあまあまあ……! あの時の坊やが、こんなに大きく…………いえ、すっかり老けちゃって……」

「いや、そこは大きくなって……で終わらせてほしいのですが」


 あら、失礼。前に見た時は可愛らしいお子さんでしたから…………あのお人形さんのようだったマッシュ坊やが、人間とオークのハーフのようになって……。


「……聖女様、どうせオーク云々とか考えてたでしょう?」


 ぎくっ。


「そ、そんな事はありませんわよ、オホホホホ」

「嘘を吐いて宜しいのですか、聖女様」

「うぐ…………も、申し訳ありません、人間とオークとのハーフみたいだと思ってました……」

「構いませんよ。渾名もオーク師範代ですから……」


 それは的を得た……いえ、失礼しました。


「おほん! と、とにかく、お久し振りです!」


「ええ、ええ、本当に…………それより向こうから覗いていらっしゃる皆さんは一体?」

「あ、弟子達です……お前達、整列!」

「「「はい!」」」

「礼!」

「「「聖女様、ちわーっす!」」」


 あ、はい、こんにちは。


「……で、一体何のご用で?」


「あ、申し訳ありません、弟子達は付いて来ただけです」

「「「あざーっす!」」」


 慕われているのですね。


「それにしても……あのマッシュ坊やに弟子が居るのですから、随分時間が経ったのですね」


「ええ。ハイエルフである聖女様とは、時間の流れがまるで違うものですから」


 そう……ですわね。


「あのー、聖女様!」


 感慨深くなっていた雰囲気を、お弟子さんの一

人が打ち破りました。


「あ、はい。何でしょうか」


「先程の話の中で『泣いて教会に逃げ込んでいた』って言ってましたよね?」


「はい。フフフ……マッシュ坊や……いえ、師範代様、お話して宜しくて?」

「え、ええ、はい。今となっては恥ずかしいばかりですが」


 昨日のように思い出しますわ。


「師範代様は子供の頃、それはそれは剣の修業がお嫌いでしたのよ」

「え、えええ!?」

「オーク師範代が!?」

「剣術馬鹿師範代が!?」

「……お前ら……」


 ……慕われて……いらっしゃるのですよね?


「ご両親から逃げて、よく教会に来ていたのです」


「へえ……師範代も昔は剣術嫌いだったんすか」


「ま、まあな。当時の私は一番弱くてな。年上の子達からよく苛められていたものだ……」


「そう言えば、大きな子達に追いかけられて教会に逃げ込んで来た時もありましたわね。で、坊やはわたくしのスカートの中に隠れて」

「「「……は?」」」


 あら? 少し空気が冷たく感じます。


「あ、いや、あの時は緊急事態だったのだ! む、無論、聖女様のご許可は頂いてから」

「突然潜り込んできましたわよ」

「「「………………は?」」」


 あら? またまた空気が冷たくなって?


「いや、待て待て待て! わ、私は何も見なかった! ちゃんと目を瞑って」

「師範代、何色でした?」

「薄いピンク……い、いや、違う! 見ていない!」

「た、確かに薄いピンクを愛用してましたわ、当時は」

「「「…………師範代?」」」


 あらあら? 氷点下まで下がりましたわね。


「い、いやいや、それは子供だったから!」

「そうそう、思い出しました。水を掛けられていたのか、ずぶ濡れでしたわね」

「え、ええ。水鉄砲でしつこく狙われまして」

「そうですわ、段々と思い出してきました。風邪を引いたら不味いと思い、お風呂に入れてあげましたわね」

「なっ」

「「「はあああああああっ!?」」」


 あらあらあら? ブリザードを観測できそうですわ。


「い、いや、入れてもらっただけだ! 聖女様が洗って下さって」

「一緒に入りましたわよね」

「「「はあああああああああっ!!!?」」」


 あらあらあら? 厳冬期でしょうか。


「わ、私は目隠ししていた! 見ていないい!」

「あら? 『ママよりおっきい』ってハッキリと仰って」

「「「………………………………殺」」」

「ま、待て! 無実だ! 不可抗力だったんだあああ!」


 ……ついに絶対零度に達しましたわね。



「……師範代様、ちゃんと信頼関係は再構築なさいませ」

「…………っ」


 お弟子さん……半分くらい減ったそうです。

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