パワーアップした元親分っ?
「やはり、主はわたくし達を見守って下さっていたのですね」
「あはは、そーっすね、あはは」
心新たにますますの精進を誓うわたくしの隣で、死んだ目をしたモリーが作り笑いを浮かべていました。
「……何かご不満でも?」
「あー、いや。こういうのは言っても仕方ねーからな」
棘のある言い方ですわね。
「貴女も聖心教徒でしょう? でしたら主にお目見えできた事を誇りに思うべきですわ」
そう言われてますます複雑な表情をするモリー。
「あー、うん。まあ、考えとく」
考えておくという部類の物では無いのですが。
「……まあ、宜しくてよ。後でみっちり説教して差し上げますから」
「何で聖剣壊したシスターに説教されなくちゃならねえんだよ!?」
うぐっ。
「し、しかし主はお許し下さいましたわ。その証拠に、わたくしの杖をパワーアップさせて下さいました」
「いや、パワーアップっつーか、ただ単に聖剣の破片が刺さっただけじゃ」
「いえ、わたくしには一切刺さりませんでしたから、主は意図的に杖を狙ったのですわ」
「う……た、確かに、杖だけに均等に刺さってるんだから、偶然とは言い難いな」
『偶然と聖女の神業が原因であって、私が意図したものじゃ無いんだってばあああっ!』
「……それより、モリーのナイフはどうですの?」
「あ、ああ。ナックルガード付の方刃のナイフだな。重さも握りも俺の好みに合う」
「ほぉら。やはり主がわたくし達の為に作って下さった贈り物なのですわ」
「ま、まあ、そう思っておくか…………ただ、俺の血が滲むような努力は完全に無駄に終わった訳だが」
「血が滲むような努力、ですの?」
「ああ、実は……」
『ふっふっふ、モリーでしたか……貴女の努力を無駄にした恨み、今こそ晴らす時です。ほらほら、その聖剣の欠片でできたナイフが役立つ時ですわ~』
「……つまり、聖剣を使いこなせるようになる訓練を、短期間で集中的に詰め込まれましたの?」
「つーか、長い時間が過ぎた筈なのに、実際は五分も経ってなかったんだ」
ううむ、それこそ神の御業ですわね。流石は主ですわ。
「しかし、聖剣が無くなってしまった以上」
「全く役に立たない経験だわな」
……そうでしょうか?
「わたくしも戦う術を多少なりと身に付けていますから分かりますが、剣とナイフは通ずるものがありますわよね?」
「剣とナイフがか? まあ、同じ刃物だから当然通じるもんはあるが、間合いの違いは決定的だな」
「ですが、モリーがもともと得意だったのはナイフですわよね?」
「ああ」
「でしたら、決して無駄にはなっていませんわ」
「いやいや、似て非なるもんだって」
「いえいえ、そんな事はありませんわ。でしたら試してみれば宜しいのです」
「試す? どうやって?」
わたくしはニッコリと微笑み。
「……お相手しましょうか?」
『やったあああ! この展開を望んでたのよ、私は! さあモリー、貴女の復讐が今始まるのですわ!』
ギギン!
「うん、鋭さは増してるわね」
「くっ……はああああっ!」
シャシャシャシャシャシャ!
ギギギギギィン!
「急所を確実に狙う正確さ、そして鋭さ。以前より研ぎ澄まされてる」
「く……ナ、ナイフが全然届く気がしねえ!」
「いやいや、大したもんよ。この境地に達するには、生半可な努力じゃ辿り着けないから」
「だからって、大剣を片手で操って凌ぎきってるリブラの姉御とは、レベルが違い過ぎんだろが!」
「あら、レベルが違い過ぎてるから褒めてあげる事ができるのよ? 僅差だったら私だって余裕無いし」
「そらあそうだろうがよ!」
『何で相手してんのがデュハラーンなのよおおおお! あの流れだったら、普通は聖女が相手するでしょうが!』
「ま、私に勝てないようじゃ、リファリスにはどう転んだって勝てないわよ」
「な……それって、シスターの方がもっと強いってのか?」
「そうよ……ちょうどいいから、リファリス相手してあげたら?」
「え、わたくしですか?」
「上には上が居るっていうのも、しっかり経験すべきだし」
「いやいや、リブラの姉御だけで充分だから!」
……まあ……それも師匠の務めでしょうか。
「分かりました。わたくし、お相手しますわ」
「……え?」
『やたあああああ! 飛んで火に入る夏の虫! さあ、今度こそ斬り刻んでやってちょーだい!』
「っらああああ!」
シャシャシャシャシャシャシャ!
「っ……ぐぶっ」
スパパパパパン!
み、見事ですわ……。
『あっははははははは! 聖女の奴、弟子に斬り刻まれて、いい気味だわ! ここに来たら指差して笑ってやる! あはははははは!』
「は、はあ、はあ、はあ……うりゃああ!」
シャシャシャシャ!
スパパパン!
「あら、今回は五ヶ所しか斬れてませんわよ?」
「はあ、は、はあ、はあ、はあ……いや……何回斬ったら終わるんだよ……」
「わたくしの魔力が尽きるか、貴女の体力が尽きるか。どちらかですわね」
「いやいやいや! 斬ったらすぐ塞がって、斬り落としたらまた繋がって、キリが無いじゃねえかよ!」
「斬ってばかりですから、キリが無いんですの?」
「リファリス、上手い事言ってるつもり?」
『何でよ! 何で斬っても斬ってもすぐに回復すんのよ! ああ、もう嫌! 見るのも嫌! 聖女なんか、大っ嫌い!』
これより後、わたくしは何故か『神託』を受ける事はありませんでした。何故でしょうか?




