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出番ない撲殺魔っ

 最近リジーとか言う狐娘が足繁く教会に通うようになった理由は、無論シスター目当てという事もあるじゃろが、それだけでは無いようじゃ。

 ほれ、夜遅くに教会を出た狐娘は、周りを警戒しながらどこかに向かっておるじゃろ。それが教会に通う理由の一つなのじゃよ。


 コンコン


「失礼します」


「入れ」


 狐娘が入ったのは、この町の中央にある立派な建物じゃな。他の世界ではてっきんこんくりーと、とか言う不思議な石膏みたいな物でできておるのう。


「リジー、その後の動向は?」


 おや、待って居ったのはいつぞやの諜報部隊長じゃな。


「別に、何も無いと思われ」


「……毎度言うが、仕事の時はもう少しピシッとしないか、ピシッと」


「はい、了解したでござる」


「ござるも止めなさい」


「了解しましたで候」


「……もういい。普段通りにしなさい」


 そう言われた狐娘は、おもいっっきり肩の力を抜いたようじゃ。


「…………おい。ソファに寝そべる程に楽にしていい、とは言ってない」


「まあまあまあ、いいじゃないの、義理父(・・・)


「だから仕事場で父呼ばわりするなと、何回言ったら分かるんだ」


 そう言って隊長殿は大きな大きなため息を吐いた。

 ちなみにこの隊長殿、狐娘がこの世界に来てしまった際の第一発見者であり、現在は義理の親となって後見人も務めておる苦労人じゃ。


「たいちょー、まだ家に帰らないの?」


「だからお前は……完全にプライベートモードだな」


「別にいいと思われ、どうせ誰も居ないし」


 状況が状況だけに艶っぽい展開を期待してしまうのが人の(さが)じゃが、この二人に関してはそういう雰囲気は皆無じゃな。


「で、シスターを狙ったアサシンは?」


「ん、始末して川に流しておいた」


「身元を示すような物は?」


「何も。ただ化かして色々聞き出したら、フリーデン何とかとか言ってた」


 フリーデン、と言う言葉を聞いた隊長は、苦々しい表情を浮かべた。


「フリーデンか……ならば十中八九自由騎士団(フリーデン)自治領の差し金だな」


「フリーデン自治領?」


「知らないのか。まだまだ勉強不足だな、リジー」


「勉強不足上等。元の世界に帰ったら、不要な知識だし」


「元の世界、ねえ……未だに信じられないな」


「たいちょー、もうそのやり取りは飽きた」


「ん、ああ、そうだったな」


 どうやら狐娘が異世界人だと信じられていないようじゃな。


「それより自由騎士団だったな。文字通りの騎士団だ」


「……それだけで納得しろと?」


「まあ……無理な話だな。そうなると聖心教の内部対立の話になってしまうが」


 聖心教の、という下りで既に嫌になったらしく。


「ならいい。聞きたくない」


 狐娘は狐耳を塞いでそっぽを向いてしまったのじゃ。



 さて、話に出た自由騎士団自治領については、ワシから説明しようかの。

 自由騎士団とはその名の通りに騎士団なのじゃが、名前にある「自由」はあらゆる意味での自由、という意味では無い。宗教にまつわる自由なのじゃ。

 元々自由騎士団は「聖心騎士団」と言う名前での、聖心教にとっては邪魔な他の宗教や土着信仰等を排除する為に設立された宗教騎士団だったのじゃ。

 まあこういう成り立ちの騎士団じゃからの、次第に暴走し始め、やがて大司教の命令にすら公然と逆らうようになっていったのじゃ。

 そんな時に台頭してきたのが、自由騎士団の設立者となる当時の前団長での、腐りきった騎士団の上層部に反旗を翻したのじゃ。

 当然ながら上層部はそんなものを許す筈も無く、全騎士団員を動員して鎮圧しようとしたのじゃよ。じゃが前団長は一枚も二枚も上手での、当時の大司教と手を組み、聖心騎士団を「異端者」として破門したのじゃ。

 宗教に関わる者にとって「破門」は死刑宣告に等しいでの、信仰心に厚い聖心騎士団員はあっという間に前団長側に鞍替えし、上層部は全員捕らわれる事になった。

 その後、前団長の功績を称え、解体された聖心騎士団に代わり結成された自由騎士団に自治領が与えられ前団長が初代自由騎士団長兼自治領代官に任命され、現在に至る……という訳じゃな。そう言う訳で自由騎士団は聖心教守護の象徴となり、特殊な地位にあるのじゃよ。

 そう、聖女に認定されているシスターであってもおいそれと手を出せぬ程に、な。



「……とは言っても民衆に人気があって、しかも大司教のお気に入りであるシスターを害したところで、自由騎士団に得になるとは思えぬが……」


「シスターを害するって、そんなにリファリスが邪魔なの、その騎士団?」


「うーん……問題は今の騎士団長だな。私もよく知っているが、出世欲の権化のような男だからな」


「たいちょー、何で知ってるの?」


「一度命を狙った事があったからな」


「え、アサシン時代に?」


「まあな。だが結局依頼主が突然依頼を取り下げたので、私も手を引いたのだが」


「依頼を取り下げ? そんな事あるの?」


「後にも先にもあれが初めてだったな。アサシンに依頼するという事は、相当な覚悟が必要だからな、ほとんど依頼取り下げはあり得ないのだが」


「……そう言えば、元の世界に居た元アサシンも、そんな事を言ってたと思われ」


「まあ、依頼を取り下げた理由など、一つくらいしか思い浮かばなかったが」

「あ、たいちょーも? 私もそれを考えてた」


 ……しばらく沈黙が支配した後、隊長は小さく咳払いし。


「それより、今日の報告は?」


「あ、忘れてた。敵アサシンを撃退した以外は異常無し」


「うむ、ご苦労さん」


「あ、待って、一つ変わった事が」


 隊長の視線が鋭くなったの。


「何だ。些細な事でも構わん、全て話せ」


「うい。いつもはシンプルな白ばかりのシスターが、今日は黒のレース」

「そういう要らん情報は報告するなっ」


 ……隊長の目尻が下がったの。

リジーの暗躍に敬意を表したい方は、高評価・ブクマを頂ければリジーに伝わると思いますのでよろしくお願いしますと思われ。

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