ムキになった撲殺魔っ
「え…………ええええええええ!?」
派手な……いえ、立派な装飾が施された聖剣を天にかざしながら、モリーは思いっ切り動揺していました。
「何でっ。どおしてっっ。どうなってんのおおおっ」
「モリー、落ち着きなさいな」
実際は、わたくしが封印を解いた直後に、たまたま後から並んでいたモリーが抜いてしまった……という構図になります。あの時感じた魔力に思わず対抗してしまったのですが、経年劣化によってガタがきていた封印がそれに耐えきれずに解けてしまったのでしょう。
「うむ、見事じゃ! 聖剣の封印を解きし勇者よ!」
「ゆ、勇者ぁ!?」
「そうじゃ、勇者じゃ! 聖剣の封印を解いたのじゃ、其方を勇者と呼んでも問題あるまい」
「ゆ、勇者……あわわわわわ」
モリーが思いっ切り動揺し始めました。これは不味いですわ。
「すみません、この娘はわたくしの護衛兼弟子になったばかりで、あまり注目される事に慣れてませんの。ですから続きは目立たない場所で」
「ふむ……ではあちらへ」
それを聞いて頷いた係員のお爺様は、わたくしとモリーを連れて出て下さったのでした。
「ひいひいふー、ひいひいふー」
「モリー、子供を産むのではないのですから」
まだまだ絶賛動揺中のモリー、呼吸までおかしくなっています。
「とりあえず魔術で寝かしなされ。一時間程横になれば、流石に落ち着きなさるじゃろ」
「そうですわね。モリー、『眠りなさい』」
「はにゃあ、ふにゃ」
……ドサッ
魔術の効果はすぐに現れ、モリーは崩れ落ちるようにソファに倒れ込みました。
「……やはりのぅ」
「はい?」
「其方、聖女様じゃろ?」
え!?
「まあ、法衣を着ておる白髪の美女など、そうそう居らぬからのぅ」
そ、そうでした。わたくし、法衣を着ているんでしたわ。
「あ、あの、この事は」
「お忍びなのじゃな。無論誰にも言わぬよ」
よ、良かったです。
「しかし聖女様となると…………もしや封印を解いたのは其方か?」
ぎくっ。
「あ、いえ、その…………」
う、嘘を吐く事は、主の教えに反しますわね…………。
「……封印を解いたのかは分かりませんが、何かしらの魔力の干渉を感じまして、抵抗を試みました」
「それじゃな。あの封印は剣を握った者の資質を魔力で感知し、所有者として相応しいか試すのじゃ」
や、やはり。わたくしの抵抗が強すぎたのですね。
「しかし、じゃからと言って、後の者が簡単に抜けるもんじゃろうか……?」
「もしかしてですが、モリーが妖精族なのが関係していませんか?」
「妖精族!? もしやノームかの?」
「はい。地属性ですわ」
「ま、まさか、無意識に地面内部を操作して……?」
……あり得なくは無いですわね。
「そうなると、勇者とは全く関係の無い人間が、聖剣を引き抜いてしまった事になってしまうではないか!」
「そうですわね」
「むぅぅ、不味い、不味いのじゃ……!」
頭を抱えてしまわれました。これは……モリーが元盗賊の親分だなんて、絶対に言えませんわね。
「は!? そ、そうじゃ! 聖女様が抜いたとなれば、そこまでの騒ぎにはならぬのでは!?」
え、わたくしですの!?
「頼む! 聖女様のお力添えを!」
「で、ですが、聖剣は人を選ぶのでしょう? わたくしが触れますの?」
「実質的に封印を解いたのは聖女様なのじゃから、むしろ其方が触れて当然な筈じゃ」
そ、そういう事でしたら……まずは持ってみましょう。
バヂィィ!
「痛っ!」
触れた瞬間、紫色の閃光がわたくしの指を弾きました。
「や、やはり……」
「むう、まさか聖女様を弾くとは! つまりお弟子さんが聖剣に選ばれたのは真実なのじゃな」
どうやら、そのようです。
「それか、聖女様よりお弟子さんの方が優れておるか、じゃな」
……………………はい?
「わたくしより、弟子であるモリーの方が優れている、と仰いまして?」
「え? あ、いやいや、あくまで可能性を語っただけであって」
わたくしより……モリーが?
「…………ふ」
「ん?」
「……ふふふふ……」
「せ、聖女様?」
「ふふふふふふふふ……あは、あははははははは!」
面白いではありませんか! 聖剣がモリーを選ぶのでしたら、その師匠であるわたくしは…………それ以上の力でねじ伏せるだけですわ!
「あはははははははは!」
バヂヂヂヂヂヂッ!
「聖女様、一体何を」
「何ですのお?」
「ひ、ひいい!」
ちょうど背後から西日が差し込み、わたくしの顔を影が覆っていたのは、全くの偶然です。
バヂヂヂヂ!
「聖剣如きがわたくしに抵抗しますの? 生意気、生意気ですわぁぁ……あはははははははは!」
バヂバヂバヂバヂ!
肌を焼かれようが即座に回復し、柄に手を伸ばして。
「わたくしを焼き尽くしたいのでしたら……このくらいの抵抗をしなさい!」
ズババババババ!
バキィィィン!
何かが砕け散る音が響き……。
「あははははは! 聖剣如きがわたくしを弾こうだなんて、百年早いですわ! あっははははははは!」
わたくしの高笑いが響き渡り……。
……ピシッ
不穏な音も響き。
ピシッ ビシビシパキ……
「あ、あ、あああ!」
バキバキ……バキャアアン!
「あ」
「聖剣! 聖剣がああああっ!?」
……聖剣流の開祖が愛用したと言われる、伝説の聖剣は、聖女であるわたくしの手により、その歴史に終止符が打たれたのでした。
「聖女様ああああああ! な、何て事をををををを!!」
やらかした。




