ありんすなキツネ娘っ
女郎長様のお陰で、リブラ達の荷物も無事に戻ってきました。
「ですので、そろそろお暇しようかと」
「ああ、聖女様は巡礼の旅の途中だったな。まだ先は長いんだ、気を付けてな」
別に止められる事も無く、旅立つ準備を始めたのですが。
「ま、待って、あと二日。二日だけ待ってくんなまし」
「リ、リジー?」
何故か遊女姿になったリジーがわたくしに縋り付き、必死に足止めしてきたのです。
とりあえず寝所に戻り、リジーに理由を問い質します。
「リジー、どういう事ですの?」
「あの、その……」
「理由があるのでしたら、二日くらいはどうにかなりますが……」
「う、ううぅ……」
リジーはモジモシとした様子で、一向に話そうとしません。
「どうしたんですの、一体?」
「じ、実は……実は私……」
「はい」
「お、怒らないで聞いてね?」
「はい」
「その……禍々しい気配を、この建物の地下から感じて……」
「……まさかとは思いますが、封印を解いたのでは……無いでしょうね?」
「…………」
明らかにリジーの目が泳いでいます。
「あ、貴女……あれが何なのか、分かってますの!?」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「封印はどうしたんですの!?」
「と、とりあえず刀で仮の封印はした」
……まさか、強力な呪具で無理矢理押さえ込んだんですの? 無茶しますわね……。
「で、その格好という事は……」
「……責任は私にある。だから一人で再封印してくるから、二日だけ待って」
やっぱり、そういう事でしたのね。
「その必要はありませんわ。わたくし、封印した際は修行不足だっただけですもの」
「……え?」
「今でしたら完全に浄化できますから、根刮ぎ」
「ままま待って! もしそうなると」
「はい?」
「仮封印に使ってる刀も、封印の中枢も」
「はい。まとめて浄化」
「いやあああああああああああっ!!」
再び縋り付いてきます。
「お願い! お願いします! 刀だけでも助けてえ!」
「う~~ん……大丈夫ですわ。わたくしの浄化を耐えられる呪具であれば」
「リファリスの浄化に耐えられる呪具なんて〝死神の大鎌〟くらいじゃない!」
伝説級の呪具と並び称されるなんて、光栄の極みですわ。
「でしたら余計に試して」
「私のコレクションの目玉を浄化しないでくんなましぃぃ」
……それよりも。
「さっきから口調がおかしいですわよ」
「ああ、これは着物の影響」
「キモノ?」
「うん。女郎蜘蛛の衣って言う呪具」
それも呪具ですの!?
「封印近くにあったイダダダダダダタ」
「勝手に持ち出しては駄目ですわよ!」
「いえ、この通りでしたので」
振袖から紙切れを取り出して、わたくしに見せて……ええっと、誰か貰って下さいぃ!?
「浄化してほしければ教会に盛ってきなさいよ!」
「まあまあ。お陰で私が再利用」
…………まあ……良い方向に再利用されるのでしたら……。
それにしても、呪具を「貰って下さい」扱いをしないでもらいたいのですが……。
「……で、何でリファリス付いて来る?」
「見張りですわ。貴女が封印の要に手を出したりしないようにする為の」
「ギクッ」
やっぱりそうでしたか。
「……ここに封印してあるのは、呪具は呪具でも『意思を持つ』呪具ですわよ?」
「う゛っ。い、意思付か……」
強力な呪具の中には、意思を持つ物も存在します。大概は殺戮や破壊に傾倒してしまっているので、浄化や封印の対象となります。
「当時のわたくしでは封印するだけで精一杯でしたが……」
「当時のリファリスって、どのくらいの浄化ができたの?」
「……そのキモノくらいでしたら、一分くらいで」
「リファリス、これも相当なレベルの呪具だからね!?」
あら、そうなんですの。
「……それだけの浄化ができたリファリスですら、手に負えなかった呪具……くうう、燃える!」
「……危険だと判断した場合は、容赦しませんからね?」
「大丈夫。意思付きであろうと、ねじ伏せてみせるでありんす」
あ、ありんす?
地下入口。
ヴンヴンヴンヴン……
「……待ってて、ムラマサ。必ず解放してあげるから」
……呪いが共鳴している……?
「……リジー」
「何?」
「その刀と封印の呪具、何か関係がありますわね?」
「ギクギクッ」
……やっぱり……。
「貴女、分かっていて封印を解きましたわね!?」
「べべべ別にそんなつもりは」
思いっ切り動揺してるじゃありませんの!
「己が欲に駆られて封印を解くだなんて、わたくしの弟子にはあるまじき愚行ですわよ!」
「よ、欲に駆られたのでは無いと思われ」
「思われません!」
「ぐああっ! 私には最大級の否定攻撃!」
「とにかく、こんな事をする弟子には、罰を与えねばなりません!」
「えっ」
リジーが拾ったらしい着物を指差し。
「その呪具の力のみで、再封印しなさい。できなければ、刀だけでは無く貴女のコレクション諸共全て浄化し尽くします!」
「ええええええええええっ!?」
「お嫌でしたら、死に物狂いで再封印なさいな!」
わたくしから迸る魔力に気押しされたらしく。
「…………は、はい」
素直に頷きました。
ほっほっほ、キツネ娘は相変わらずじゃな。しかし封印の先にある呪具、ワシですらも危険を感じるのじゃが……相当な呪いじゃな。
撲殺は免れたキツネ娘っ




