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平和な撲殺魔っ

 貴族の諍いに巻き込まれたシスターは、無事に乗り切ったようじゃ。しかもリブラと言うデュラハーンを味方として抱え込む事に成功し、ますます戦力充実と言う訳じゃな。

 む? シスターに戦力の必要があるんじゃろうか? シスター一人でどんな相手でも駆逐できる気が……。

 

 ゾクリッ


 な、何じゃ? 寒気が……。


「何方か分かりませんが、わたくしの事を噂していませんでしたか?」


 ひ、ひいいっ! 地獄耳ならぬ撲殺魔耳じゃああ!



「……気のせいでしょうか?」


 教会の前にある花壇のお手入れ中に、不審な視線を感じたのですが……。


「どうかしたの、リファリス?」


 ……気のせいだったようです。再びしゃがみ、お手入れに集中します。


「何でもありませんわ。空耳だったみたいです」


「ふーん……で、こんな感じでいいの?」


 雑草を抜く仕事をしていたリブラは。


「は、花まで!?」


 期待通りに、花が咲く前の苗までしっかり抜いてありました。


「え、これ花なの?」


「わ、わたくしが一生懸命育てた花が……」


「え? リファリスって、撲殺が趣味じゃなかったの?」


 わ、わたくしを何だと思っているのですか!?


「あ、おっはよ~、リファリス……とオマケ」

「誰がオマケよ、誰が!?」


 あの事件の後、すっかりわたくしの教会の半住人と化しているリジーさんは、何故かリブラと馬が合わないようで。


「大体諜報部隊のペーペーが、何で私の(・・)リファリスと絡んでるのよ!?」


「私はリファリスと友達だから。ね、リファリス?」


「その通りですわ……それとリブラ、わたくしは貴女のものではなくってよ?」


「な!? あの時に私の誓いの口付けを受け入れてくれたじゃないの!」


「あれは不意打ちですから無効ですわ」


「ぐぬぬぬっ!」


 そう言えば、リブラの話し方が変化していますわね。


「リブラ、その口調は何なのですか? 初めて会ったときは侯爵夫人に相応しい落ち着きがありましたわよ?」


 それを聞いたリブラは、ニッコリ微笑で。


「こっちが地、前のは演技」


 と宣いました。


「つまり首だけ令嬢は、羊の皮を被った狼だっと思われ」


「誰が羊の皮を被った狼よ!? あんたなんか狐の耳を付けた狐獣人じゃない!」


「そうですが、何か?」


「うっ」


 事実ですからどうしようもありませんわね。


「それよりリジーさん、お仕事はどうなさいましたの?」


「お仕事? 諜報はそんなに忙しくないから、有給」


 あら、諜報部隊にも有給休暇があるのですね。


「え、有給あるの? いいなあ」


「リブラ、見習いシスターには有給休暇はありませんわよ?」


「わ、分かってるわよ。ちょっと言ってみただけじゃない」


 顔をそこまで赤くしていらっしゃるのは、本音が見え隠れしている証拠ではありませんの?


「それよりリファリス、聞きたい事があって参ったでござる」


 ご、ござる?


「何ですの、リジーさん」


「それそれ」


 はい?


「何でリブラは呼び捨てで、私はさん付けなの?」



 それを言われた時のシスターの表情は、稀に見ぬ程に呆けておったの。これもシスターの魅力の一つなのじゃろうな。



「ま、全く意識してませんでしたわ……」


「だってさ、リジーさん(・・)

「五月蝿い、リブ(ラ・)リブ(ラ)」


 睨み合う二人。争い事はいけませんわよ。


「ここはわたくしが改めれば済む話ですわ。そうではありませんの?」


「それで良し」

「そ、そうだけど……」


 リジーさんは満足げに、反対にデュラハーンは不満げに了承しました。


「リブラさん(・・)は何故不満そうなんですの?」


「「……え?」」


 すると二人揃ってキョトンとした表情をします。一体何事でしょう?


「リ、リファリス?」

「そ、そっちなの?」


「そっちとは、どちらですの?」


「何で私にさんが付いたまま?」

「何で私にさんが付くのよ?」


 ああ、さん付けが気に入りませんでしたの。


「ならばさん付けを止めますわ」


「それで良し」

「うん、我慢する」


 だから、何を我慢するんですの?


「では今度からリジーさんは騎士様、リブラはシスター見習いと呼びますわ」


「「何でそうなるの!?」」


 再び二人揃って噛み付いてきます。


「さん付けより悪いじゃない!」

「私に至っては、様付けにレベルアップした!」


「あら、さんより格上ですから宜しいじゃありませんの」


「そう言う問題じゃない!」

「そうよ、私なんか見習いなんて付けられるのよ!? 屈辱だわっ」


「あら、見習いには間違いありませんわよ?」


「だ、だけど……!」


 何が不満なんでしょうか。


「でしたら、貴女はわたくしに何と呼んでほしいんですの?」


 それを聞いたリブラは、ニヤリと笑いました。

 いや、嗤いました、ですわね。


「なら、リファリスからはマイハニ」

「却下ですわ」

「まだ言い終えてない!!」


 マイハニ、まで来れば誰でも分かりますわよ。


「わたくしはシスターです。つまり、生涯独身なのですよ?」


「そ、そうだった……」


 本来ならば、わたくしは修道院で生涯を過ごすべきなのですから。


「あ、それは否定されてる」


「「……え?」」


「三年前の大司教の御言葉に、シスターの生涯独身は推奨しない、とあった」


「ほ、本当なの!?」


 さ、三年前の御言葉ならば……わたくしは知りませんわ。


「聖地での新年の挨拶、時間は午前八時二十六分三十二秒から八秒間の御言葉」


 よくそこまで知ってますわね!


「な、なら、私はリファリスと……ごくん」


 あら、不味いですわね。リブラに変なオーラが立ち上り始めましたわ。ならば、思い切って……。


「……分かりましたわ、リブラ。ちゃんとリジーもリジーと呼びますわよ」


「……え?」


「貴女がそのような道化を演じる程、リジーと対等の立場を望んでいらっしゃるとは思いませんでしたの」


「……え?」


 貴女方は普段は小競り合いばかりでも、心の奥底では確かな絆を結んでいたのですわね…………という天然の振りですわ。


「わたくしもお二人の友情に負けないくらい、貴女方と友誼を深めますわよ」


「………………え?」


「……リファリス、天然すぎて笑えない」



 シスターが一枚も二枚も上じゃな……リブラの行く先は真っ暗闇じゃの。

シスターに似合わない平和な日々を打破してほしいなら、高評価・ブクマして頂ければ、シスターが全力で平和を血に染めます。

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