赤い河のほとりの撲殺魔っ
虐殺砦を無事に越えた聖女様御一行は、最初の巡礼地・聖川へと近付いていた。
…………またワシ、ナレーションかの? 何故このワシが……ブツブツ。
「…………何かご不満でも?」
へ!? い、いや、そのような事はありません! う、うむ、何とまあ、良い仕事じゃのお!
「…………撲殺」
ブンッ
ゴスッ!
っぎゃああああああああ!!
「……杖を空振りして、どうかした、リファリス?」
「いえ、何でもありませんわ。虫です、虫」
「……虫に対しても撲殺言うんだ……」
「……何かご不満でも?」
「え!? いえいえ、そう言う訳じゃ」
「リジー!」
「うい?」
「成敗」
「うい」
きゅっ きゅっ
「はあああああああああんっ!!」
元の身体に戻れてますます敏感になったリブラには、これが一番効果的です。
「良いではないか、良いではないか」
「【18禁】ん! 【大人向け】ん! 【成人のみ】ん!」
「リジー、やり過ぎですわ」
「あ、ごめんなさい。リブラはリファリス専用だったぽげぐしゃ!?」
余計な事は仰らなくて結構ですわ!
「あれが…………聖川?」
「あ、あれが?」
第一目的地・聖川へと辿り着いた……のですが。
「……色、変じゃない?」
「変じゃないっつーか、普通は赤い川なんてあり得ないわな」
モリーの言う通り、真っ赤な川なんて普通ではあり得ません。
「これはね、主の聖血が一滴垂れてから、ずっと赤くなっているんですのよ」
「「「そうなの!?」」」
実際は上流の鉱物が原因らしいのですが……まあ、真実は言わずにおきましょう。
「へええ……主の血がねえ」
「一滴で川を永久に赤く染めるって、半端な赤さじゃねえな」
「もはや呪いの域に達すると思われ」
主の偉業を呪い扱いしないで下さい。
「で、あの赤い水…………浴びるの?」
「まあ……浴びる方が多いですわね」
この川で沐浴する事が、巡礼の目的の一つなのですが……。
「ちょっと……ねえ」
「抵抗あるなあ……」
「血の川だから、私は興味ある」
「無論、全裸ですわよ?」
「「「無理無理無理!」」」
ですわよねえ……。
「え? でもリファリス、あそこに」
リブラが指差した先には……え?
「沐浴用水着、販売中?」
「なーんだ、ちゃんと水着あるんじゃねえかよ」
沐浴用水着ですって!? 聞いた事がありませんわ!
「水着あるなら無問題。体験すべし」
まずはリジーが購入。使い捨てらしく、安価でお手頃です。
「わ、私達も、しなくちゃなんないのかな?」
「……リブラ、貴女は私の何ですか?」
「え、一番弟子」
「同じく弟子のリジーは沐浴するのに、貴女はしませんの?」
「…………します」
はい、宜しい。
「シスターよぉ、俺もしなくちゃなんねえか?」
「まあ……強制ではありませんが」
モリーも弟子ですが、出自が出自ですからね。
「まだ女性である事に慣れませんの?」
「シ、シスター達には慣れたけど、他の人達が居ると……」
複雑ですわね。
「分かりましたわ。ではモリー、わたくし達の荷物を見張っていて下さい」
「ん、分かった」
一応男性と女性とに分かれて沐浴しますが、逆にそれが元男性のモリーにはキツいのでしょう。
「これが水着……か」
「……滝に打たれる時、着るヤツ?」
滝に打たれるって?
「異世界の修行で、こういう白い着物姿で滝に打たれるってのがあった」
修行は修行でも、かなりの苦行ですわね。
「な、何よ、その虐めみたいな修行」
「冬にもやってた」
…………わたくしでも……ご遠慮致しますわ。
三十分程お祈りを捧げ、川から上がります。
「ブルブルガタガタ……」
「の、呪いが……洗い流されて……」
「……水着着用の割に、わたくしより辛そうですわね」
「べ、別に水着だからって、寒くない訳じゃない」
それはそうでしょうね。
「せ、聖なる水を、防ぐ効果も皆無っ」
ある筈がありませんわ……と言うよりリジー、何故沐浴したんですの?
「身体が冷えてしまう前に、着替えますわよ」
「そ、そうする」
「聖なる水を除去する」
リジー、汚いものみたいな言い方しないで下さい。
「……あら?」
荷物を置いてあった場所まで行くと。
「ぐがーっ」
素っ裸で眠っているモリーが居るだけで、何もかも無くなっていたのでした。
「う、迂闊だった……」
素っ裸でうなだれるモリー。
「ガタガタブルブル……」
寒さに震えるリブラ。
「何をしてるんですか」
「全く」
そして、いつも通りなわたくしとリジー。
「何で荷物盗られてないのよ、二人とも!?」
「わたくしは全ての荷物は胸の谷間に」
「私も同様」
「く、空間魔術かよ……羨ましい」
「いえ、リジーはわたくしのに」
「私のはリファリスに委託」
「だったら荷物、全部胸に入れておけばよかったじゃねえか!」
「わたくしもそう思いましたが…………貴女を信用しておりましたので」
「ぐっ…………つ、つーかよ、だったら何で俺に荷物を預けなかったんだよ!?」
「わざわざ胸の谷間から荷物を出して、貴女に預ける必要性がありまして?」
「出し入れするだけ無駄無駄無駄」
「うぐっ」
どうやらモリーは魔術で眠らされて、その間に全てを持ち去られたようです。
「で、被害は?」
「私の荷物っ」
リブラの全てと。
「お、俺のもだよっ」
モリーの全て。
無論、全てという事は、武器や服も同様。
「「つまり、正真正銘の裸一貫」」
「う、五月蝿い!」
やられた。




