聖女様の泥酔
「……ただいま戻りましたわ」
「あ、お帰りなさいと思われたら思われだった」
「は、はい?」
「シスター、リジーの姉御の言う事を気にしてたらキリがねえぜ……お帰り」
随分と落ち込んだ様子で戻ってきたシスターじゃが、何かあったのかのう。
「た、ただいま……」
「リブラもお帰り…………んん?」
「リジーの姉御、どうかしたのか…………んんん?」
む? 首だけ令嬢に強く反応しておるの。
「な、何よ」
「いやぁ、何か肌がツヤツヤしてる気が」
「奇遇だな、俺もそう感じていたところだ」
「……あれ、少し胸が縮んだ?」
「括れは更にS字になったぜ」
「うむ、縮んだとはいえ、揺れ具合はキレッキレ」
「キレッキレな揺れ具合って何だよ……だが女性らしさが増したな」
「な、なぁ!?」
首だけ令嬢、真っ赤になって狼狽えておる。珍しい光景じゃのう。
「二人共、あまり弄らないでやって下さい。今回ブラッディ・メアリーを討伐したのはリブラの功績なのですから」
「ふぅん……は?」
「へぇ…………へ?」
「「ブラッディ……メアリー?」」
「へえ……虐殺砦の親分が、まさかブラッディ・メアリーだったとはねえ……」
「王女様も落ちるとこまで落ちたと思われ」
シスターは警備隊に虐殺砦討伐の事を伝え、十二神徒を生き返らせた上で引き渡した。無論、抵抗できないようにある程度傷を残したままで。
「痛い、痛い……」
「我らは敗残兵のようなもの、仕方あるまい……」
「チクショオオオ!」
「静かにしなさい。我らは虐殺砦の十三人だ、堂々としていなさい」
泣き叫ぶ者、それを宥める者、悔しがる者、観念した者……それぞれの反応を示しながら、十二人は連行されていった。おそらく大司教猊下の御裁断が下されるじゃろうが……良くて終身刑、じゃろうな。
「……主のご加護があらん事を」
シスターの言葉に反応したのは〝剣聖〟と枢機卿のみ。後は上の空じゃったり、わざと無視していたり……。
どちらにしても、同じ聖心教徒としては、複雑な面持ちじゃったじゃろうな。
「……では、気を取り直して……かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
「主の施しに感謝を」
そして夕飯の後、珍しくシスターのお誘いにより、酒場に繰り出したのじゃ。
「珍しくも珍しい、リファリスが発起人の飲み会」
「……まあ……今回はリブラを労ってやりたかったんですわ」
「いや、大変だったのはリファリスも同じでしょ」
「わたくしは良いのです、わたくしは……」
お酒を飲まないシスターは、水を口にして俯いた。むう、やはり元気が無いのう。
「……さ、さあさあ、飲もうぜ! 今回はシスターの奢りだ!」
「そ、そうだね! 飲もう飲もう!」
「うんうん、トルネードに飲もー」
……キツネ娘はたまに、妙な事を口走るのう……。
「さあさあ、リファリスも飲もー」
「え? わたくしは飲む訳には」
「飲もー」
がぼっ
「もがっ!?」
「「え」」
キ、キツネ娘、シスターの口に一升瓶を突っ込みよった!
「飲もー飲めー飲もー」
ごっきゅごっきゅごっきゅ!
「むぐぐぐ!? ごぼがぼごぼっ」
「飲めー飲もー飲めー」
ごっきゅごっきゅごっきゅぶばっ!
「ゲホゲホゲホ! ゲホォォ!」
あーあ。一升瓶の中身、全部飲ませよったわ。
「ゴホゴホ、ゴホ……………………ヒック」
「あ、あ、ま、不味い……」
「雰囲気的にヤバそうだけど、シスターって酒癖は?」
「悪い。滅茶苦茶悪い」
「…………あは、あはははは、あはははははははははははは!」
がしぃ
「ひう!?」
キツネ娘が捕まりおった。まあ、自業自得じゃな。
「リジィィィィ……脱ぎなさい」
ビリィィィ!
「え、い、いやあああああ!」
「シ、シスター!?」
「近寄っちゃ駄目!」
ビリビリビリ!
「きゃあああああ!」
「あっはははは! 綺麗な身体ですわね……そんなリジーを、撲殺!」
バガァ!
「くはっ!?」
「抹殺!」
ボグッ!
「ぎゃあ!!」
「滅殺!」
ゴギャ!
「けひっ!」
「あらあ、逆でしたわぁぁぁ……あは、あはははは、あははははははは!」
「リ、リブラ、助けて」
「無理無理無理っ」
「そんな……モ、モリー!!」
「姉御、立派な葬式出してやっから」
「そんなああああああ」
「リジィィィィ……『癒せ』」
パアアア……
「ふぐぅ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「リジィィィィ……見てご覧なさい」
ビリィィィ!
「きゃああああ!」
「リブラったら、見事な体型でしょお?」
首だけ令嬢も巻き込まれたのお。
「新たに、ヒック、身体を手に入れて、スタイル抜群ですわ」
ビリビリビリ!
「だ、誰か! リファリスを止めてえええ!」
「それに引き換え、わたくしは」
ビリビリビリ!
「こんな貧相な身体ですわ……ヒック」
むほっ。こ、今度はシスター自ら服をっ。
「リ、リファリスが貧相だったら、私達はどうなると思われ!」
「全くよ! 自信無くなるわよ!」
「あはははは、ヒック」
「貴様らあ! 何を騒いでおる!」
「警備隊が!?」
「み、見ないでえ!」
「あはははは、あっはははははは! ヒック」
こうして、警備隊に捕縛され。
「……聖女様?」
「何で我らを倒した貴殿らが、隣の牢に?」
「こ、公然猥褻罪……リファリスのせいでっ」
「あはははは、ヒック」
「いや、元々はリファリスに酒を飲ませたリジーのせいでっ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
十二神徒の隣の牢で、一晩お世話になったそうじゃ。目出度し、目出度し……なのかの?
「……もうシスターとは酒飲まねえ……」
一足先に逃げて無事じゃった元親分。ま、賢明じゃったな。
明日から新章です。




