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十三人目と撲殺魔っ

 むぅぅ……何ともアッサリと十二神徒を倒してしまったのう。特に〝剣聖〟と枢機卿は手強かった筈なのじゃがな。

 さて、それよりも肝心なのは十三人目じゃな。十二神徒を我が駒とし、悪名高き虐殺砦を落として立て籠もった黒幕。一体何者で、何が目的じゃったのやら。



「…………ふぅ」


 いよいよ、十三人目。おそらく最上階にて待ち構えているのでしょう。


「ひい、ふぅ、ひい」


「リブラ、体力無さすぎではありませんの?」


「疲れたら魔術で癒せるリファリスと一緒にしないで!」


「貴女も癒せるようになればいいのです」


「一応初級のくらいならできるようになったけど、アンデッドの私にはダメージにしかならないから……」


 ……そうでしたわね。


「そ、それよりもさ。最後の一人だよ」


「そうですわね、最後の一人…………一体誰なのでしょう」


「十二神徒を従えるくらいの人だから、相当なカリスマ持ち?」


「う~ん……カリスマくらいでどうにかなる方々では無い筈なのですが……?」


 闇の部分が大きい十二神徒は、それだけに曲者揃いである事も知られています。そう簡単に従えられるとは思えないのですが……。


「ねえ、リファリス。単純にさ、十二神徒より十三人目が強いんだとしたら……どうなるかな?」


 十二神徒より強い?


「………………そう……ですわね。それだったら……従うかも、しれませんわね」



 最上階にある部屋は一室のみ。王族級の方がいらっしゃった場合にのみ使われる、最上級の来賓室です。


 ……コンコン

『開いてますわ』


 一応ノックしてみると、反応がありました。


「……っ」

「は、入ってみよ」


 ノックはつい無意識にしてしまったのですが、こうもアッサリと反応があるとは思いませんでした。


 ガチャ ギィィ……


 開いたドアの先には、豪奢な家具と派手派手しい装飾。ドアと対面に位置するバルコニーからの光が、それらを更に際立たせていました。


「いらっしゃいませ、リブラ伯爵夫人。歓迎致しますわ」


 そう言ってわたくし達に振り返ったのは……あ、貴女は!?


「ま、まさか……何故貴女が!?」


「……? 誰ですの、貴女。私、存じ上げませんわ」


 ええ、ええ、それはそうでしょう。わたくしが一方的に知っているだけですもの。


「リファリス、知り合い?」


「魔国連合の第二王女、ブラッディ・メアリー殿下……」

「………………へ?」


「あら、私の身分をご存知なの。でしたら跪きなさいな」



 ブラッディ・メアリーは本名ではありません。民の間で語られていた悪名を、そのまま本人が名乗っているのです。

 魔国連合の現国王は男児に恵まれず、三人の王女が王位継承者候補となりました。その三人の一人がブラッディ・メアリー殿下なのです。

 他のお二方については詳しい情報はありませんが、メアリー殿下の評判はわたくしの耳にまで届く程でした。簡単に言ってしまえば、愚の骨頂を地で進むような方のようです。

 住民に対する厳しすぎる徴税と搾取はまだ優しい方で、無意味な虐殺や拷問は日常茶飯事だったそうです。ですから巷では血塗れ(ブラッディ)メアリーという不名誉な悪名が流布していたのですが、メアリー殿下はそれを本名として登録してしまったのです。豪胆と言うべきなのか、何と言ったらいいのか……。



「あの魔女ですら手を焼いていた御方ですわ」

「え、魔女って、あの?」


 はい、あの、です。


「何をゴチャゴチャ言ってるの? 私はブラッディ・メアリーなのよ。跪きなさい」


「お断り致します。貴女はもう魔国連合から追放された筈ですわね」


「だから何?」


「その際に王族としての全ての権利を剥奪されています。つまり、貴女は元王族であり、今は一般人と変わりありません」


「だから、敬意を払う必要は無いと?」


「左様ですわ」


「ふん……まあいいわ。今回は無礼な態度を許そうではありませんか……今回は、ね」


 ……どうやら噂通り、気紛れな方のようですわね。


「で、手下共を蹴散らしてまで私に会いに来たのは、何の用事かしら?」


「いえ、用事という程の用事ではありません。わたくし、巡礼の旅の途中でして」


「ああ、私達が邪魔で通れない、と仰りたいんですの?」


「いえ」


「……では何ですの?」


「わたくし、貴女が気に入らないものでして」


「…………は?」


「住民を迫害し国を追われた身でありながら、反省するどころか盗賊の親分に成り下がるような輩、尊敬される筈がありませんでしょ?」


「…………まあ……尊敬されるとは思ってないけど」


「いえ、言い換えますわ。毛嫌いされて当然でしょう?」


「毛嫌い?」


「つまり、敬われる筈が無いのに、わたくし達に跪くよう強要してきたのが気に入らないのですわ」


「跪くのが気に入らない? 何を言ってるのかしら、この女」


 メアリー殿下……いえ、敬称の必要はありませんわね……メアリーはニヤリと笑い。


「私は敬われるのが当たり前だったの。だから、それはずっと続かなくちゃならないの」


「…………はい?」


「だからぁ、私の思い通りに、世の中は回らないと駄目なのよぉ………………あはははははははははははは!!」


「…………」


「ああ、この人、誰かに似てると思ってたら……」


 リブラはそう呟き、わたくしを見て。


「リファリスにそっくりだわ」


 止めて下さい! わたくし、このような下賤な輩と同烈にされたくありませんわ!

遅くなりました。

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