十一人目と撲殺魔っ
かなり酷い状態の死体でしたが、これも回収しておきます。
「さ、流石にこれだけの大きさのシャンデリアとなると……原形留めてないわね」
「まあ……そうなりますわね」
絨毯に付いた血痕は…………もう落ちませんわね。
「この絨毯は交換するしかありませんが……そこはわたくし達が心配する必要はありませんわ」
「そうね、私達が心配すべきは…………残る三人、だよね」
「まさか……まさかまさかまさか、まさか……」
「ご主人様、どうか落ち着いて下さいませ」
「落ち着いてなどいられるか! 我が十二神徒がこの短期間で、悉く倒されたのだぞ!」
「まだ二人残っております。十二神徒のNo.1とNo.2が」
「く……た、確かにそうだが」
「今度は私が参ります。ですので、どうかご安心を」
「……お前まで負けたら……もうあの方に顔向けできぬぞ……」
「心得ております。ですからどうか、大船に乗ったつもりでお待ち下さいませ」
「……本当に……後が無いのだぞ」
二階には誰も居ませんでした。今度は堂々と三階に上がります。
「最上階に枢機卿が待ち構えているのでしょうね」
「枢機卿?」
「十二神徒のトップは枢機卿ですわ」
「そ、そうなの?」
「あら、リブラでも知らないんですのね」
「私でもって……たまたま師匠が十二神徒だっただけで、そこまで詳しい訳じゃないよ」
「あらそう? 枢機卿がトップだという事は、意外と知られていると思ってましたが……」
「だけど、詳しくない筈の私でも知ってる事はある。十二神徒の残り二人のうち、一人は〝剣聖〟だよね」
「そうですわ、ですが元剣聖ですが」
「剣聖……か。リファリス、その元剣聖との戦い、私に任せてもらえないかな?」
「いいですが……大丈夫ですの?」
「何が?」
「元剣聖さん、お強いですわよ?」
そう言われたリブラは愛用の大剣の柄を握り、わたくしに笑い掛けました。
「私だって天才と言われてたんだから、大丈夫よ」
ですが。
「甘い」
ザシュッ
「ぐぶっ……」
リブラの身体から、長剣が突き出ました。
「大剣などに頼るから、簡単に懐に入り込まれるのだ。各が武器の弱点を考えよ」
「う……ぅ……」
ズル……ドシャア
剣を引き抜かれたリブラは、そのまま前のめりに倒れ……。
「『癒せ』」
パアアア……
「……っく!?」
わたくしの回復魔術で踏み留まります。
「……これはこれは聖女様、お久し振りでございます」
「ご無沙汰しておりますわ、剣聖様」
「剣聖とはまた、懐かしき呼び名でございますな。今の私は主人に仕える侍従に過ぎませぬ故、下の名前でお呼び下さい」
「いえ。目上の方に対して、そのような」
「聖女様の方がよほど目上なのですが……まあ、それは置いておきましょう。それよりも、何故傷を癒されたのです?」
「わたくしの弟子ですもの、負けてほしくはありませんわ」
それをきいた剣聖様は、戦いの場とは思えないような笑みを浮かべ。
「……大切な方を見つけられたのですな」
そう呟かれました。
「しかし、それが一対一の勝負に手を出す理由になりますかな?」
「なりますわ。剣聖様には一対一の真剣勝負なのでしょうが、わたくしにとっては今は弟子の修行の一環なのですから」
「修行の一環って……殺し合いが修行なの?」
「リブラ。せっかく巨大な壁があるのですから、必死になって乗り越えなさい」
そう言われて苦笑いしたリブラは、再び大剣を構え。
「元剣聖さん。まだ勝負はついてないよ」
「…………いいでしょう。何度でも斬り伏せてみせましょう」
再び挑んだのです。
ですが。
ズバァ!
「かはっ!」
「『癒せ』」
パアアア……
ザグン!
「きゃあ!」
「『癒せ』」
パアアア……
「は、はあ、はあ!」
「リブラ、今のは致命傷でしたわよ」
「そ、その致命傷を一瞬で治して、冷静に突っ込まないで!」
既に愛用の大剣は折られ、今は短剣で相対していますが、リーチで及ばず更に不利になっています。
「ふう、ふう、流石に歳かな。そろそろ斬り疲れてきたぞ」
「う、五月蝿い! 今度こそ……うりゃあああ!」
「脇が甘い」
ドズゥ!
「か……は」
「『癒せ』」
パアアア……
「……くっ! やああ!」
「隙が多い」
ブスッ!
「うぐぁ!」
「『癒せ』」
パアアア……
「う、うく! まだまだあああ!!」
「は、はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ……ま、まだ続けますか?」
「リブラ、何か掴めまして?」
「はあ、はあ……ま、まあ、短剣の使い方がかなり理解できた、かな」
「そ、それだけ斬られて何も学べない者は、普通は居らんでしょうな」
「ではそろそろ、成長したリブラを見せて下さいな」
「分かったわよ」
そう言ってリブラは、短剣の柄を両手持ちしました。
「……ほう」
「本来なら片手剣である短剣を両手持ちしたら……どうなります?」
「ふむ…………試してみるがいい!」
「はあああ!!」
ギャキィィン!
「…………リブラ、だったか」
「はい」
「…………見事、なり」
……ドサァ
「……ふ、ふはぁ、勝てたぁ」
「まあ、八十三回は死んでましたが」
「数えないでよ!」
「ふふ……でもリブラ、良い修行になったでしょう?」
「良い修行って……弟子を何回死地に追い込んでるのよ!?」
「貴女がサッサと勝たないからいけないんですのよ?」
「ぐっ」
虐殺砦の十三人、あと二人。
リブラの修行回でした。




