四人目と撲殺魔っ
「一応回収しますわ。『哀れな亡骸をここに』」
魔術によって死体を引き寄せ、そのまま収納します。
「……何でもありね、リファリスの魔術……」
「これは念動魔術の応用ですわ。魔力で荷物を動かせるのでしたら、死体の引き寄せもできますでしょ?」
「……死体を荷物扱いねえ……まあ、別にいいけど」
……? 何か問題あったでしょうか。
「それより中に入りますわよ?」
「あ、はいはい……いよいよ虐殺砦か」
「まさか〝再生〟まで?」
「本人はともかく、ドラゴンゾンビをも退けたというのか?」
「いえ、浄化したようですな」
「浄化!? そんな馬鹿な!」
「……これは……皆様、次は私めにお任せ下さらんか?」
「何、貴様に?」
「だが、戦えんのだろう?」
「いえいえ、戦えない私だからこその、戦い方があるのですよ……」
「……誰も居ませんわね」
「それにしても、趣味悪いわ……」
確かに。壁に染み付いた血の跡、床に刻まれた刺し傷。激しい戦いの名残なのでしょうが、修復くらいしておいてほしいものです。
「はあ、血の匂いしかしない。お腹空いてきたから、食べ物の匂いを嗅ぎたい……」
そう言えば、そろそろお昼でしょうか。
「リブラ、休憩できる場所を探して、お昼ご飯にしましょう」
「だね~。腹が減っては戦はできぬって、間違い無いもんね~」
しかし、これだけ血生臭い場所で食べるのは、流石に遠慮したいですわね。
「ん~……あ、食堂行ってみる?」
「食堂ですか。確かに血生臭くは無さそうですわね」
いくら虐殺砦の十三人でも、食事の時くらいは清浄な空気の場所に居たいでしょうし。
「では、行ってみましょう」
食堂らしき場所を見つけるまで、そこまで時間はかかりませんでした。
「へえ……綺麗にしてあるわね」
「思った通りでしたわ」
この調子でしたら、厨房も使えるでしょうか。調理するのですから、使わせてもらえればありがたいのですが。
トントントントントン
すると厨房から、包丁とまな板の奏でる打音が聞こえてきました。
「誰!?」
リブラが大剣片手に厨房へ入ろうとすると。
「調理中の厨房には、お客様であろうと入る事は許されません」
キィン!
何か結界に阻まれ、厨房に入る事ができません。
「な、何これ。結界にしては強力なような……」
……結界……。
「成る程。貴方は〝壁〟ですか」
「〝壁〟……十二神徒の一人……」
「そう、〝壁〟だ。だが今は虐殺砦の十三人の一人、〝血に塗れし地獄の料理人〟だ」
異名が長いですわね!
「面倒臭いので〝壁〟で統一します」
「ひ、他人の異名に面倒臭いと難癖付けるな!」
「難癖付けられるような、長ったらしい異名は止めなさいな!」
「リファリス、脱線してる」
はっ!? わ、わたくしとした事が……平常心平常心平常心……。
「……失礼しました、〝血塗れ壁〟様」
「異名を混ぜないでくれるか…………まあいい、座りなさい」
促されて着席します。
バシィィィ!
すると、テーブル周りに強力な結界が……し、しまったですわ!
「た、立てません……!」
「う、動けない……!」
「どうかね、私の切り札・不動結界は。上半身以外は動かせないぞ」
あ、確かに上半身は動かせますわ。
「この結界から脱するには、我が料理を食べる以外に無い!」
…………はい?
「さあ、我が至高の料理に舌鼓を打ち、そのまま地獄に落ちるが良いわ!」
「……どうする、リファリス?」
「まあ……調理する手間が省けますわ。お付き合いしましょう」
「さあ、行くぞ! まずは前菜から!」
コトッ コトッ
「とあるカブの一口ソテーでございます」
とあるカブ……。
「……頂きますわ」
「私も」
…………あむっ。
「…………」
「…………ふぅん」
「次。スープはとあるカボチャの冷製スープ!」
コトッ コトッ
とあるカボチャ……。
「…………」
「……ズズッ」
「リブラ、音っ」
「うっ。し、失礼しました」
「次は魚料理。とある魚のムニエル」
とあるって……。
「…………」
「…………はぁ」
やっぱり、これも。
「そして、メインディッシュ。とあるお肉のステーキ」
ジュウウウッ
「……美味しそう……だけど……」
…………はぁ。
「とりあえず頂きますわ」
「私も、とりあえず」
…………あむっ。
はあ、やっぱり。
「そして、とあるデザートでございます」
カチャンッ!
「もう結構ですわ」
「む?」
「ハッキリ申し上げますわ。包丁捌き、焼き加減、味付け。どれも非の打ち所が無い、完璧な技術です」
「ありがとうございます」
「ですが……………………不味いです」
「……な!?」
「うん、不味い」
「何だとおおおおおおおおっ!?」
「先程も言った通り、料理の腕は超一流ですわ。ですが問題なのは、食材です」
「しょ、食材が?」
「何故に全て猛毒の食材なのでしょう? 強烈な毒の味が、全てを台無しにしてますわ」
「むしろ不味いにしても、食べられるレベルにまで引き上げてる腕を誉めるわ」
「お、お前達、あれだけの猛毒を食べておいて、平気なのか!?」
「わたくし、毒くらい浄化できますわ」
「私、デュラハーンだから毒は無効だし」
「ぐっはああああ!?」
バリィィィン!
精神的ショックが原因でしょうか。結界は粉々に砕け散り。
「む、無念……ぐふっ」
バタッ
……〝血塗れ壁〟はそのまま倒れ伏せたのです。
「……亡くなられてますわね」
「……何がしたかったのよ、この人」
「あの結界をされたまま攻撃されたら……わたくし達でも一溜まりもありませんでしたわね」
虐殺砦の十三人、あと九人。
何がしたかったのやら。




