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二人目と撲殺魔っ

「何? もう殺られた、だと?」


「早いな」


「なあに、相手は女傑として名高いリブラ侯爵夫人だ。剣の腕も南大陸で五本の指に入ると噂されている程の実力者だったしな」


「きゃつでは少々荷が重かったですかな」


「次は……〝門番〟か。ならば侯爵夫人とて歯が立たんな」


「うむ、如何に優れた剣の腕があろうと、門番が相手ならば……」



 一人目の方は取り敢えず胸の谷間(空間魔術)に収納します。


「…………リファリス、気持ち悪くない?」


「何が、ですの?」


「だって、死体をさ」


 自分の胸を指差しながら、顔をしかめるリブラ。


「別に直接肌に触れる訳ではありませんわよ?」


「まあ、その……気分的にって言うか……」


 ……?


「何を今更。わたくしも貴女も死体なんて見慣れてますでしょ?」


 亡くなられた方を冥府へお送りするのも、わたくし達(シスター)の重要なお仕事ですわ。


「そう言う事じゃなくって……まあいいか。それより先に進もうよ」


「ええ」


 そのまま山道を登り続けますが、その後は誰とも遭遇する事無く、砦が見え始める位置まで進めました。


「はあ、はあ、ふう」


「息が切れてますわよ」


「い、いや、これだけ高所に来て、息切れしない方が、おかしいんだって」


「そうですか?」


 そんな事は無いと思いますが……。


「いや、私、かなり鍛えてると思うんだけど」


「でしょうね。毎朝走り込みと素振りに精を出してますものね」


「な、なのに、特に運動してる訳じゃないリファリスの方が、体力的に上だなんて」


「ああ、それは回復魔術で」

「体力回復してるのね……何それ狡い」


 狡いと言われましても……。


「まあいいわ。つまり、私はまだ鍛え足りないって訳か……はぁぁ」


 そんな他愛ない会話をしながら進んでますと。


「ん…………リファリス、誰か居るよ」


 砦がしっかりと視認できる直線な道の途中に、全身鎧姿の騎士らしき方が佇んでいらっしゃいます。


「……あ~……十二神徒の方です。あれはおそらく〝門番〟ですわ」


「門番……」


「主に守勢で活躍されている方です」


「うん、知ってる。〝門番〟だよね、うん」


 彼方もわたくし達を確認したようで、明らかに剣呑な空気を漂わせて待っています。


「向こうから来る事はありません。このまま進みますわ」


「来る事は無くても、退く事も無いって訳か……上等よ」



 わたくし達と対峙した〝門番〟は、パルチザンを振り上げ、静かに名乗りました。


「……虐殺砦の十三人が一人、〝門番〟のリッツェ。ここは通さぬ」


「申し訳ございませんが、押し通りますわ」


 モーニングスターを構え、前へ……。

「待って、リファリス」

 ……はい?


「ここは私に任せてくれない?」


「え、貴女が?」


「うん。お願いだから」


「ですが、あの方は」

「分かってる。剣を使う者にとっては難敵だって」


 ……何か事情がお有りなのですね。


「分かりましたわ。でしたら、お任せします」

「……ありがとう、リファリス」

「但し、貴女が危険だと判断した場合は、手出しさせて頂きますわ」

「うん。ありがとう」


 そう言ってから、短剣を手に進みます。


「……え、短剣?」


 確かリブラは、大剣を愛用していた筈では……?



「……お久し振りです」


「久し振りだな、リブラ」


「師匠……とお呼びしていいでしょうか」


「好きなように呼ぶが良い」


「はい……師匠」


 久々に会う師匠は、相変わらず口数が少なくて、何者をも寄せ付けない空気を漂わせていた。


「まさか、お前と戦う事になるとは」


「私も……まさかと思ってました」


「だが剣に生きる者同士、こうなる可能性を常に背負っていた事は確か」


「はい……師匠から免許皆伝を頂いた折、覚悟も決めていました」


 そう言って短剣を抜く。


「……そうか、そう来るか。ならば私も応じなければなるまい」


 師匠はパルチザンを捨て、腰に差してあった短剣を手にする。


「私が教えた短剣術、どこまで己のものとしたか……見せてもらおう」

「はい。では行きます、師匠!」



 ギギィン!


「始まりましたわね」


 鉄壁を誇る〝門番〟さん、その守りの固さは身に着けた全身鎧以上に、あの短剣にあります。


「飛来した全ての矢を斬り落とす剣裁き、相変わらず健在なのでしょうか」


 攻撃には向かなくとも、防御面においては優れている短剣。その達人であるが故の〝門番〟なのです。


「しかし……リブラが短剣を持ち出すなんて。確かに大剣では不利な相手ですが」


 相手と同じ武器だからと言って、対等に戦えるとは限りませんわよ?



 ギギィン!

「くっ!」

「更に腕を上げたようだな。だが」

 ギャリィ! ザシュ

「あぐぅ!?」

「まだ攻めの気が強い。そのような中途半端な剣では、私の懐には潜り込めないぞ?」


 し、師匠の剣、前より研ぎ澄まされてる……!


「教えた守りが疎かになっているな。右」

 ザシュ!

「ぐぅ!」

「脇」

 ドスッ!

「ぐふぅ!」

「そして、首筋」

 ズスッ ブシュウウ!


 首を狙ってくるのを……待ってた!


「秘技〝解錠〟!」

「ぬっ!」


 師匠の得意技、カウンターで勝たせてもらいます!


「はあああ!」

 


 パッカアアアアン!



「ぐぶぁ!?」

「え……」


「大丈夫ですか、リブラ!?」


 ……あー……私のカウンターが入る前に、リファリスの鉄球が飛んできたのか……。


「酷い傷……すぐに治しますわね!」


 師匠……こんな形で勝っちゃって、申し訳ありません……。


「リブラ、気を確かに! 大丈夫ですから!」


 大丈夫、浅い傷だから。首筋斬られたから、出血酷いだけだから。



 虐殺砦の十三人、あと十一人。

虐殺砦の十三人、あと十一人。

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