一人目と撲殺魔っ
「虐殺砦の十三人……ですの?」
途中で立ち寄ったお食事処で、おうどんを啜っている時でした。
「ああ。シスターは十二神徒は知ってるだろう?」
「当たり前ですわ。聖心教に関わっている者でしたら、知らない筈がありません」
「だよな。ならその十二神徒が、堕ちるとこまで堕ちた……てのは知ってるかい?」
はい?
「流石にここまでは知らねえわな……あ、盛りもう一杯くれ」
「あいよ」
たまたまわたくしと相席になった男性は、少し煙草とお酒の匂いを纏わせています。
あ、リブラ達もちゃんと居ますよ。四人で店に入った時、四人テーブルに三人、二人テーブルに一人しか座れない状態だったので、三人は固まって座れるよう譲った結果が、目の前の男性です。
「さて、十二神徒のとこだったな……当然ながら、奴らが何を担ってるかは、あんたは知らない筈が無いわな?」
「当然ですわ。わたくし、十二神徒の皆様と面識もありますもの」
十二神徒の任務。それは……懲罰。
悪逆非道な罪人は勿論、汚職に手を染めた聖職者……つまり聖心教内の不心得者を罰する方々。それが十二神徒です。
「まあな。だがそれ以上に十二神徒を有名にしたのが」
「虐殺砦の制圧、ですわね?」
「ああ、その通りだ。まあ、これはシスター以上に一般人がよく知ってるわな」
虐殺砦とは、過去最悪の被害を出した盗賊の根城です。巡礼者が必ず通る険しい峠近くに構えられた砦には、数百人以上の盗賊が集まり、近くを通る巡礼者やキャラバンを襲っていました。
虐殺砦という名が示す通り、襲われた方々は全て皆殺し。女子供であっても容赦はしなかった、と伝わっています。
この盗賊団による被害が何故、過去最悪と言われる程になったかは、当時の情勢が関係しています。国家間の対立の激化がそれを見逃していたのです。
そこで討伐に名乗りを上げたのが、まだ結成されたばかりだった十二神徒だったのです。
「一週間以上の激闘の末、虐殺砦は陥落し、頭と呼ばれていた女性は討ち取られたのですわ」
「ああ。虐殺砦はその後改修され、警備隊の駐屯地として再利用されている……と、ここまでがよく知られている話だな」
「その虐殺砦と十二神徒がどうかしたんですの?」
「ま、結論から言っちまえば、十二神徒が何故か虐殺砦にまた攻め入ったんだ」
「…………はい?」
「で、駐屯してた警備隊を皆殺しにした」
「………………はいい?」
「それに死んだ筈の元頭が加わって十三人。これで虐殺砦の十三人が出来上がった訳さ」
「ま、待って下さい。話がよく分からないのですが」
「俺もよく分からん。だが、その十三人が再び巡礼者を襲うようになったもんだから、キャラバンを率いる俺も昼間っから酒を飲んでるって訳さ」
…………な、何があったんですの?
「……で、虐殺砦に行ってみたいって?」
「はい」
「ちょっと待っ」
「分かったわ」
「な、リブラの姉御!?」
わたくしを止めようとしたモリーを片手で制し、リブラが前に出ました。
「……やっぱりリブラも行くつもりでしたのね」
「当たり前でしょ。私も将来的には所属する筈だったんだし」
十二神徒の一人は、リブラの叔父に当たります。彼が引退した後は、リブラ侯爵夫人であるリブラが引き継ぐ筈でした。
「叔父様が何をしたいのか、確かめる必要があるから」
「どうせ止めても付いていらっしゃるのでしょう?」
「当然」
「でしたら止めませんわ……モリーとリジーはここで待っていて下さい」
「シスター!」
「申し訳ありませんが、わたくしも見過ごす事はできかねますので」
モリーの制止を押し切って、わたくし達は峠へと足を踏み入れました。
「……怒涛の展開でしたわね」
昨日のお昼におうどんを啜っていたわたくしが、今は虐殺砦に向かっているのですから。
「リファリスがそんな情報を拾ってくるからじゃない」
「……言われてみれば……情報がわたくしに入ってくるなんて、珍しいですわね」
「もしかしたら、誘われたんじゃない?」
まさか。
「へえ、リブラ侯爵夫人は察しがいいな」
っ!?
「リファリス、崖の上」
リブラに促されて視線を向けると。
「あ、貴方は……!」
「よお。昨日は美味かったな」
わたくしと相席になった男性でした。
「……貴方、キャラバンを率いていたのでは?」
「ああ、元、な。今はしがない十二神徒って訳だ……あ、いや、これも違うな」
シミターを抜き放ち、獰猛な笑みを浮かべます。
「今は虐殺砦の十三人の一人、だな」
「……貴方……わたくしは知りませんわよ?」
「まあな。先代を殺した上で、俺が十二神徒になったんだから」
先代を殺した?
「〝微笑〟のエイヤは知ってんだろ?」
「ま、まさか、微笑老師の!?」
「息子だ俺は。さて、それよりも、ここを通りたいんだろ? だが俺を倒さない限り」
「きつく戒めよ。『茨』」
ピシュルッ
「ぐぁ!? な、何だこれは!?」
「リブラ」
「はいはい」
ドシュウ!
「がはあっ!」
「はい、これで倒しましたわね。それと老師の仇、討たせて頂きます」
持っていたシミターを落とし、片膝を着いた男性。
「い、茨だと……まさか、お前」
「はい、聖女ですわ……撲殺!」
バガァ!
「ぐふぁ!!」
モーニングスターが男性の頭を粉砕し、勝敗は決しました。
虐殺砦の十三人、あと十二人。




