巡回説教者と撲殺魔っ
海沿いの漁村に着いた聖女様御一行じゃが、何やら様子がおかしいようで……?
「……人の気配が感じられない」
「うむ。そのとーーりぃ」
リジーはともかく、リブラがそう言うのでしたら、何か異変が起きているのですね。
「私はともかくって酷い!」
「貴女は普段の言動を考えてみる事ですね」
リジーは鳴らない口笛をひゅーひゅー鳴らしながら、向こうを向いてしまいました。
「……リファ姉、俺が先行して見てくるよ」
「任せましたわ」
モリーが身軽さを発揮し、馬車から飛び出していきます。
「ベアトリーチェ、ここでストップです。モリーが戻ってくるまで、少し待ちますわよ」
みゅぅぅぅん!
ギギギィ!
馬車を止め、休憩しながら待つ事三十分。
タタタタッ
「リファ姉、遅くなった」
「全然大丈夫ですわよ。今休憩がてら、お茶をのんでたとこですわ」
「休憩がてらって……俺が潜入中に」
胸の谷間に入れてあったテーブルセットを出し、高級そうな茶器で優雅にティータイム。
「無論、貴女の分もありますわよ」
「あ、どうも……じゃなくて!」
「あら、ちゃんとスコーンもありますわよ」
「おお、大好物なんだよ……じゃなくて!」
……お腹が空いてらっしゃるのでしょうか?
「偵察結果の報告が先だろうが!」
「……ああ、そうでしたわね。そうでしたそうでした」
すっかりティータイムに浸ってましたわ。
「こほん。で、どうでしたの?」
「ああ。住民が居なかったんじゃなく、全員静かにしてただけだった」
はい?
「静かにって……盗賊か何かに狙われてるの?」
「今は聖心教の祭りだろ?」
え……………………ああ!
「沈黙祭でしたわね」
「あ、サイレンスか。そう言えばもう、そんな月なのね」
サイレンス。聖心教四大祭事の一つで、秋の収穫祭みたいなものです。
「まさかとは思いますが、沈黙祭だから沈黙してる、なんて事は……」
「いや……どうやら、それっぽいんだ」
「……え……ま、まさか、そんな」
…………もしかしたら。
「モリー、その村には教会がありましたか?」
「いんや、無かったぜ」
やはり。
「確か、わたくしが巡回説教者をしていた時も、この辺りは重点的に回っていた記憶があります」
「あ~……つまりは、田舎すぎて赴任してくる牧師さんがいないって訳か」
「ええ。最近はサーキットライダーも少なくなっていますから、誤った教義が伝わっているのかもしれませんわね」
巡回説教者とはの、教会の無い町や村を回り、教義を説く牧師の事じゃ。つまり出張する牧師じゃの。
「……つまり、正しい教義を伝えなければなりません」
元サーキットライダーの血が騒ぎますわ!
「ま、待ってくれ、リファ姉! あんたが説教なんてしたら、一発で聖女だってバレちまうだろが!」
え、そうですか?
「あのなあ、俺を含めてだが、あんたの説教で改心した奴がどれだけ居ると思ってるんだ?」
「ああ、あの時の盗賊全員だったわね」
あら……まあ。全員、改心したんですの。
「今じゃあ真面目に働く奴や、聖心教に入信して牧師見習いになった奴まで居るんだぜ?」
…………わたくし、そんなに説教が上手かったんでしょうか。
「と言う訳で、今回の説教はリブラの姉御にお願いしようぜ」
「……………………は?」
「ああ、良いかもしれませんわね。わたくしの一番弟子ですもの、そのくらいは出来ますわ」
「……………………………………は?」
「うむ、一番弟子で姉弟子のリブラだったら、それくらいは余裕綽々でこなせると思われ」
「はああああああああああ!?」
「……わたくし、聖女……様の一番弟子で在らせられる、リブラ様を護衛していますの」
「成る程、聖女様の一番弟子でしたら、貴女様のようなA級冒険者が護衛に付いていてもおかしくありませんな……どうぞお通り下さい」
ようやく現れた村人さんは、わたくしの説明を聞いた上で、快く中へ入れてくれました。
「ありがとうございます。ではリブラ様、こちらへ」
わたくしに促されて前に出たリブラは。
「は、はひ。わたひが、せいぢょ、さ、ま……」
……ガチガチに固まっていました。
(おい、リブラの姉御。しっかりしてくれよな)
(そうであーる、一番弟子のリブラ様~)
「はひゅ!? い、いちぶぁんでし…………はうっ」
「ああ、リブラ様!?」
「聖女様の一番弟子様が倒れられた!」
リジー……! 余計な事を……!
「リ、リブラ様はお疲れです! どうか、一晩の宿をお願い致します!」
わたくしの叫びに辺りが静まり返り。
「せ、聖女様の一番弟子様が危篤ですぞおおおおっ!」
「早く! 早くお宿の準備を!」
「医者だ! 医者もだ!」
「ありったけの薬草も持って来いいいいいっ!」
…………バタンッ
リブラをベッドに横たえ、一息吐くと同時に。
「リ・ジ・イイィィィィィィィィ!」
「は、はひ!?」
「貴女には、一晩中説教しても足りませんわねぇ…………」
ジャラッ ガシャン!
「な、何でモーニングスターを室内に?」
「何故ってぇぇ……聖女の杖を禁じられている以上、これしかありませんものぉぉぉぉ……」
「そ、それで、何を?」
「何をって……このパターンでしたら、いつものあれですわ」
「いつものって……」
「そうですわ……ぼ・く・さ・つ♪」
ブオンッ! グシャアアア!
「うっぎゃああああああああああ…………がくっ」




