旅々な撲殺魔っ
「生きるのは~~♪ 楽しい時もあれば~~♪ 苦しい時もあ~る~~♪」
「……何ですの、それ」
「旅してる偉い老人様のテーマ曲を、若干アレンジした」
はあ、そうですか。
「つーかよ、リジーの姉御よ、歌ヘッタクソだな」
「はぅあっ!?」
「モリー、いけません! 人にはそれぞれ、得手不得手があります。その不得手の中でも極めつけに不得手なものを、本人に突きつけるなんて」
「はぅああああっ!?」
「…………リファリス、フォローになってないどころか、傷口に塩塗りこんでわさびとからしを上塗りしてるよ」
えっ。
「うぐっ、ごぶ………………ぐふっ!!」
「あああ、リジーがショック死しかかってますわ!」
「……ショック死する程辛かったんだな……リジーよ、安らかに眠って」
「まだ死んでませんし、そうなっても生き返らせますわよっ!」
アルターシャをこっそり抜け出して、一週間程経ちました。
パカラッ、パカラッ
「リファリス、不味い!」
サッ
リブラが馬の足音を察知し、隠れてやり過ごす。これが最近のパターンとなっています。
「あ~、あれもアルターシャの警備隊だな」
「しつこいわね。どこまで追っかけてくるつもりやら」
抜け出す時に「巡礼の旅に出ます。探さないで下さい」という置き手紙を残してきたのですが……。
「置き手紙っ!? しかも巡礼してくるって!?」
「あ~……そりゃあ追っかけてもくるわな……」
「……どうしてですの?」
「巡礼のコースなんて一つだけでしょ? 行き先も分かってるんだから、そりゃ探すの簡単でしょうね」
……?
「待って下さい。巡礼の道は複数ありますわよ?」
「え、複数?」
「俺達が向かってるのって、聖心街道じゃないのかよ?」
ふっふっふ、出番じゃな。例え海を越えようが山を登ろうが、ワシの『千里眼』からは逃れられんぞ。さあ、解説して進ぜよう。
聖心街道とはの、教会が推奨する巡礼道の通称じゃ。聖地サルバドルを目的に、各地の聖遺物を順番に見ていける街道での、巡礼者の九割が活用するのじゃよ。
じゃから街道沿いの宿場町は、連日大賑わいじゃそうな。
「他の街道と申しましょうか、街道ではありませんわね」
「……ちなみにだけど……どんな街道?」
「聖心街道以外に三つあります。一つ目が黄金街道」
「黄金街道…………ああ、金持ち街道?」
「そうです。まあ、詳しく語る必要はありませんので、これは省きますね」
お金をバラ撒いて楽して旅する道なんて、修行にもなりません。
「次は修練街道」
「うわぁ……絶対にリファリスが選びそうな名称だわ……」
何気に失礼ですわね。
「けどよ、聞いた事ねえな、そんな街道」
「それはそうでしょう。昔の修道士達が聖地巡礼の為に使用した、古の街道ですから」
「あ、待って。それってクラシック山道の事!?」
「あら、リブラよく知ってますわね」
肯定した途端、リブラの顔色が真っ青になりました。
「駄目駄目駄目! あんなの街道じゃなくて、単なる登山道だから!」
「登山道って…………まさか山地を延々と歩き続けるコースかよ!?」
「その通りですわ。まだ南大陸で聖心教が信仰されていなかった頃、聖心街道や黄金街道は盗賊で溢れ返っていました」
「…………つまり、盗賊に見つからないように移動する為のルートって事?」
「その通りですわ。あまりの険しさに、巡礼そのものが厳しい修行と見做され、修練街道と呼ばれるようになったのです」
「リ、リファリスは行った事あるの?」
「三回往復しました。共に行かれた方で、一度も死ななかったのはルディだけですわね」
「……リファリスも、無事だったの?」
「無事ではありませんわね。落石、滑落、死にかけたのは数知れませんわ」
「止めよう」
「止めようぜ」
「止めようと思われ」
みゅんみゅん
べ、ベアトリーチェまで!?
「んで。もう一つは?」
「わ、わたくしとしましては、修練街道一択」
「も・う・ひ・と・つ・は?」
「…………わ、分かりましたわ……」
久々に行ってみたかったのですが、修練街道……。
「もう一つは獣道です」
「「「……は?」」」
「獣道です」
「獣道って……動物が通る?」
「そうですわ」
「つまり……道無き道?」
「それは無いと思いますが……要はベアトリーチェに案内してもらって、修練街道よりはマシな道を模索しながら進もうかと」
「それを道無き道って言うのよ! 却下却下却下!」
「却下だな」
「却下と思われ」
……みゅーん
ベアトリーチェ……「私を当てにしないで」と?
「で、ですが、このまま聖心街道を進んでいては、いつかは見つかってしまいますわよ?」
「だったら盗賊逃走術の基本中の基本、変装だな」
「「「変装?」」」
「ああ。俺とリブラの姉御は修道士姿だし、リジーの姉御は騎士姿だから目立たない。だけどシスターは」
「ああ、真っ白な法衣は目立つわね」
「そうだ。だからシスターの格好さえどうにかすれば、案外普通に旅できると思うぜ?」
そうですか。なら……。
「これならどうでしょうか」
「っ……ビキニアーマーかよ……まあ、居なくは無いが」
「まあ、法衣よりは目立たないわね」
「まあ、無問題と思われ」
「でしたら、わたくしはこの姿で参りますわ」
じゃがのぅ……シスターがビキニアーマー姿で暴れ回った、という話はかなり有名でのぅ……。
「聖女様だ!」
「聖女様が居たぞ!」
「また見つかったわ!」
「な、何故ですの!?」
……逆に目立つ結果となったようじゃな……。
旅々の先に撲殺魔を付けるのは危険そうなので止めた。




