またまた旅立つ撲殺魔っ
あれからわたくしは、ひたすら考え続けました。禁忌を破り、あまつさえその行為に快感すら覚えてしまった、自らの未熟さを。
「リファリス……」
リブラの温かい手が、わたくしの肩に触れます。それを握り返し、傾けた頭を乗せました。
「リブラ……こんなわたくしの側に居て下さって、ありがとうございます」
「当たり前よ。私はリファリスの一番弟子なのよ……師匠が落ち込んでたら、慰めるのも大事な仕事だわ」
そう言って、ずっとわたくしの側に居てくれています。
「……それだけですの?」
「え?」
「リブラはわたくしの一番弟子だから、それだけが側に居てくれる理由ですの?」
「それだけじゃ……無いわ」
「では、何故ですの?」
「そ、それは……」
リブラの端正な顔に唇を寄せ、少し意地悪く聞いてみます。
「ねえ、何故ですの?」
「それは…………たぶん、いや、たぶんじゃなく……私がリファリスを好きだから、だと思う」
……わぁ……遂に言いましたわね。いつぞやの婚約騒動の時とは違う、重みのある本物の「好き」です。
「……ありがとうございます」
そう言ってから、リブラの側から離れ。
スルスル バサッ
「……リファリス?」
法衣を脱ぎ捨てたわたくしを……リブラはジッと見つめていました。
「リブラ、あの時わたくしがお伝えした心中は、些かの偽りもありません」
「あの時って…………ええ!?」
「ですが、こういう言葉は何度繰り返しても良いでしょうから、はっきりと言わせて頂きます。リブラ、わたくしは、貴女を……」
「えっえっ」
「貴女を……」
「リ、リファリス……」
リブラを捕まえて、離さなずに。
「貴女を……愛しています」
そっと、聖女の杖を取り出し。
「………………撲殺しちゃいたいくらい。あは」
「え゛っ?」
そっと『茨』で身体を固定し。
「リブラ……愛してますわ」
「ま、待って!? 何でこの状況下で、こんな展開なのよ!?」
「あははは、愛ある天誅!」
ボガッ!
「いったあああい!」
「あはははは! 愛ある天罰!」
バギャ!
「ぎひぃぃぃ!」
「愛ある滅殺! 愛ある抹殺!」
バギャ! バギャ!
「痛い痛いいったあああい!」
「あははは、あはははは、あっはははははははは! 愛ある撲殺!」
ブゥン!
「ひぃぃぅ…………………………あ、あれ?」
……少し前で止まった聖女の杖に気付き、顔を上げるリブラ。
「……愛ある寸止め、ですわ」
そう言ってから杖を仕舞い『茨』を解除し。
「『わたくしの愛しき人を癒せ』」
パアアア……
「リ、リファリス?」
「リブラ……こんなわたくしの為に、自らを差し出す覚悟までして頂いて、本当に感謝致します」
「い、いや、撲殺される覚悟は無かったんだけど……」
「今度はリブラの番ですわ」
「え? 私の番って?」
「リブラは、わたくしの撲殺を受け入れて下さいました。でしたら、今度はわたくしが貴女の愛を受け入れる番です」
「愛って……え、えええ!?」
「肌を重なり合わせるのも、心の傷を癒やす重要なプロセスですわ……今は」
「肌をって……」
「リブラ、わたくしは杖を持っていません」
「え? あ、そうね」
「つまり、それは、無抵抗を意味します」
「無抵抗……」
「リブラ……今回だけです。今回だけは、全てを貴女に委ねましょう」
「え……」
「ですから……」
……スルスル
ノロノロとわたくしに向かってきたリブラは、一枚一枚修道服を脱ぎ捨て。
バサッ
「……リファリス……後悔しない?」
「言った筈です。全てを委ねます、と」
わたくしの前に立ち、少しだけ低い位置にある顔を上げて。
「…………頂きます」
ズドムッ!
「ぐふぅ!?」
わたくしのお腹に高速タックルを見舞ったのでした。
「……ケダモノ」
「だ、だって! 全てを委ねるって言ったじゃない!」
「だからって、朝まで休まずだなんて……!」
「リファリスだって喜んでたあぶべじぃ!?」
どうにか立ち直ったわたくしですが、罪が消えた訳ではありません。
「ですから、わたくしは旅に出ようと思います」
「「「……はい?」」」
「各地に主の聖遺物がありますので、巡礼の旅をして、今回の過ちを償おうかと思っています」
「え……わ、私達は?」
「あくまで贖罪の旅です。罪無き貴女達を道連れにはできません」
「そ、そんな……」
絶望を表情に乗せ、リブラが俯きます。
「待って、リファリス」
そんな時、リジーが突然声を上げました。
「リジー?」
「私はリファリスに付いていく」
…………はい?
「……先程も言いましたが、これは贖罪の」
「私も贖罪する。こう見えても、いっぱい殺してます」
……は?
「いっぱい人を斬り殺してる。だから、贖罪する」
「……だったら、元盗賊の親分な俺も、贖罪しなくちゃならねえな」
モリー!?
「つー訳だから、俺も付いてくぜ」
「だ、だったら、私も付いてく!」
俯いていたリブラが、元気いっぱいに声を上げます。
「私だって……ほら」
ポン!
久々に外されたリブラの首が、茶目っ気たっぷりに笑います。
「聖心教では否定されてるデュラハーンの私は、存在すら罪って事になるよね?」
「そ、存在すら罪だなんて」
「だからさ、私も付いてくよ。どこへだって、どんな時だって」
……リブラ……。
「……分かりました。でしたら、贖罪以外にも目標を定めます」
「目標?」
「ど、どんな?」
「ズバリ、聖心教にデュラハーンの人権を認めさせますわ!」
今までありがとうございました……ていうか、まだ続きます(笑)
閑話を挟んで新章、世直し漫遊編、開幕です。




