真の目的は撲殺魔っ
……ダダダダダ バァン!
「シスター! これはどういう事」
「きゃああああああ!」
着替え中に突然聞こえたドアを開く音に、思わず悲鳴をあげてしまいました。
「お…………マジでデカいな」
「な、何をじっくり見ているのですか! 早く出ていって下さいいっ!」
「あ、す、すまん!」
……ガチャ
いつもの法衣姿で部屋から出ますと、先程の覗き魔がまだ居ました。
「……何の用ですか、変態町長様」
「変態じゃねえよ、あれは事故だっての」
言い訳にならない言い訳に、大きな大きなため息を吐きました。無論、よく聞こえるようにですが。
「一つ。ノックもせずに女性の部屋の扉を開いた。これに関しましては、事故だという言い訳はできませんわよ」
「そ、それは……い、急ぎの用事があったから」
「その二。わたくしを見ながら言いましたわね。『マジでデカいな』と」
「うっ!」
「お聞きしましょう。何がデカかったのでしょうか」
変態町長様の視線は、明らかにわたくしの胸に……!
「やはり変態ではありませんか!」
サッと胸を両手で隠したら、町長様の目が泳ぎました。これはもう間違いありませんわね!
「変態に町長は任せられませんわ! リコールを請求致します!」
「…………は?」
「市民投票で過半数を得られれば、リコールが成立し、貴方は失職します」
「…………プッ。ハ、ハハハハハ!? リコール? 失職? そんな事できる訳無いだろうが!」
甘いですわ。
「市民投票は全市民対象です。無論、居住区も」
「なっ!?」
「相当恨まれてますわね、貴方。居住区に派遣されているシスターが事前に話を聞いたそうですが、不平不満しか出てこないと言ってましたわよ?」
居住区の住民数は、娯楽区のそれを軽く上回ります。過半数は簡単でしょうね。
「い、いや、そんな簡単じゃねえぞ! 居住区にはカジノの従業員もかなり住んでいる! カジノ組合を通じて、全従業員に圧力をかければ……!」
「職権濫用まで付いてくれば、ますますリコール成立する確率が上がりますわね……それに第一、カジノ組合には貴方に味方する方は居らっしゃいませんわよ?」
「はあ? そんな訳無いだろうが」
「あ、そうそう、申し遅れましたわ。わたくし、新たに組合長に選出されましたので」
「………………は?」
「カジノのオーナーが全員廃業されたのはご存知ですわね?」
「な、ぜ、全員!?」
「ですがカジノが無くなってしまうのは、この町の産業が無くなるのと同様です。ですので元オーナーさん達に全員復帰して頂き」
「や、辞めて、また復帰って」
「明朗会計と違法レート撲滅、また売上の一部を恵まれない方々の為に寄付して頂く事を条件に、聖心教公認でカジノを再オープンしました」
「はああああ!?」
「で、全てのオーナーさんから推薦して頂き、わたくしが組合長に就任致しました」
「ま、待て待て待て。話が進み過ぎて、頭が追いつかない」
話が進み過ぎて、ですの?
「この状態に陥ったのが、急な出来事だとでもお思いですの?」
「は?」
「わたくしが娯楽区に赴任してから半年、何もしていなかったとお思いで?」
「…………監視につけていた部下からは、シスターは快楽に溺れているって報告が」
「ああ、その方が一番最初にわたくしの弟子になった方ですわ」
「………………は?」
「ですから、報告は虚偽です」
町長様は口をパクパクされています。
「い、いや、飲み屋街に通ってたんじゃ」
「奉仕活動や説法会ですわ。皆様、涙を流しながらご静聴して下さいました」
「しょ、娼婦のところにも」
「皆様、喜んで聖心教に入信されましたわ」
「と、盗賊ギルドや暗殺者の組織にも」
「ぶっ潰しましたわ」
「はああああ!?」
つまり、この半年間、わたくしは貴方の権力を削いで回っていたのです。
「仕事をほったらかしにして快楽に溺れていたのは、貴方ではありませんの?」
「んぐっ」
「殆ど助役様が代わりに仕事をしていた事も分かってますわ。あ、助役様も弟子入りされました」
「ぐぐぐぐっ」
「つまり貴方は『変態』で『不支持大多数』で『職務怠慢』なのです。これでリコールが成立しない方が不思議ですわ」
「な、何なんだ! 何なんだ、お前は!?」
「あ、申し遅れました。わたくし、セントリファリス周辺のロードをしております、リファリスと申します」
「リ、リファリスって……まさか、本物の聖女!?」
「はい。セントリファリス町長代理と自由騎士団団長代理とその他諸々兼ねていますが」
「フ、フリーダン!?」
「ですので、この教会周りはフリーダンによって囲まれています。つまり、貴方は袋のネズミなのですわ」
……ついに町長様、その場にへたり込んでしまいました。
「…………何でだよ……何で、こんな事を」
「何故って、貴方がわたくしの偽者を仕立て上げたからですわ」
「……つまり、あんたを完全に怒らせちまったって訳か……敵に回しちゃいけない相手に喧嘩売っちまったんだな、俺は……」
「いえ、それは建て前ですから」
「…………は?」
「本当の事を言いますと、前からやってみたかったんです、これを」
「な、何を?」
「大きな大きな権力に溺れて堕落しきった方を、とことん落とすとこまで落として……撲殺する事です♪」
「……………………………………は?」
「いよいよ、いよいよですわ! 半年以上我慢して我慢して待ち望んだ瞬間が、いよいよ訪れるのですわ……あは、あはははは、あっはははははははははははははははは!」
聖女様自身が欲望を糧に動いていたようです。




