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ジワジワと染めていく撲殺魔っ

「シスター、ありがとうございます」

「いえ。どうか貴方にも聖なる光が届かん事を」

　ふう。これで懺悔の奉仕は終わりね。

「戻りや(・)した、リブラの姉がもっ!?」

　いつもの口調丸出しで戻ってきたモリーの口を塞ぐ。

「馬鹿！　まだ他人が沢山居るのよ!?」

「もががががが！」

　モリーは真っ赤になって暴れている。だから、ジッとしていなさい！

「はははは、モリーさんはまだまだ修行が足りないようですな」

「オホホホホ、本っ当に、この娘ったら」

「むぐぐぐぐごぐげ!?」

　まだまだ暴れるので、後頭部を思いっきり殴ってやる。

「仲が良いですな、ふふふ……ではまた」

「はい、またいつでもいらして下さい」

「むぐう！」

　ザッザッザッザッ……

　……角を曲がった。よし。

「もがががぶはぁ!?　な、何をするんだよ、リブラの姉御!?」

「あれだけ口調には気を付けろって言ったでしょ!!」

「あ…………あはは、すっかり忘れてた」

「すっかり忘れてた、じゃないわよ！　何度目だと思ってんのよ！」

「悪い悪い。明日からは気を付けるはあああああああああん!!」

　……明日からじゃなくて、今から気を付けなさいっての。

「だ、だから、先っぽ摘まむの止めてくれよ！」

「あんたには一番効果あるでしょ、これが」

「わ、分かった！　気を付けるから、それは止めてくれえ！」

　全く……。

「それよりリファリスの噂は、何か流れてた？」

「あ、ああ、流れてたどころじゃないぜ。噂で持ちきりだった」

　噂で持ちきりって……今度は何をやらかしたのよ、リファリス……。

「で、どんな？」

「それがだなぁ……娯楽区で巣くってた悪党連中が、何故か急に改心しだして」

「……はい？」

「本当に改心したらしく、シスターの元に弟子入り志願する奴が急増してるんだとか」

「はいい？」

「その弟子達が娯楽区のあちこちで奉仕活動をしていて、町を包んでいた空気が段々と変わってきてるっぽい」

「ちょ、何なのよそれ」

「い、いや、俺に聞かれても」

「「「おはようございます！」」」

「ひっ!?　お、おはようございます……？」

「「「賭け事は程々に！　お祈りは毎日心からの感謝を込めて！」」」

「え、あ、あの……？」

「さあ、貴女も聖女様の素晴らしき教えを聞きに行きませんか？」

「え？　え？　あ、あの？」

「さあさあ」

「あ、あの、私、カジノに注文聞きに来た酒屋なんですけどおおっ!?」

　ピタッ

「……酒屋さん？」

「は、はい、酒屋です」

「……酒屋でもいいよな？」

「いいんじゃね？」

「いいでしょ、別に」

「あ、あの……？」

「酒屋だろうが、穢れた心じゃ明日は遠い！」

「だから聖女様の教えを聞いて！」

「清き明日を迎えましょう！」

「え、だから仕事中ですて！　ちょっとおおおっ!?」

「……聖女様！　聖女様ああ！」

　はあ、またですの？

「はいはい、今度は何方をお連れに…………あら？」

「や、やっぱりシスターだぁぁ」

「どうしたんですの？」

「い、いえ、カジノに注文聞きに行ったら……」

　……捕まったのですね。

「はぁぁ……この方は既に聖心教を信仰されてますわ」

「えええっ!?　そうなんっすかあ!?」

「夕方には必ずお祈りにいらっしゃいますわ。しかも毎日」

「毎日って……俺より祈ってる!?」

　牧師見習いでしたら、毎日祈ってほしいのですが。

「今回はご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ございません」

「い、いえ……それよりも、あの方、カジノのオーナーさんでは……？」

「はい。先日弟子入りされました」

「カジノオーナーが弟子入り!?　そ、それじゃ、三件連続で廃業した原因って……」

「……はい……」

　弟子達の暴走が原因です……。

「オ、オーナーが自分のカジノ廃業してまで、リファリスの元に弟子入り志願してるっての!?」

　何故か段々と治安が良くなっていく居住区。明らかに娯楽区の治安が好転してる影響だろう。

「ああ。賭博目当てで来ていた観光客が、ほぼリファリス目当ての聖心教信者に変わってきてるみたいだ」

　た、たった一ヶ月で、そこまで変えられるもんなの!?

「なあ、リブラの姉御。半年もありゃあ、聖地サルバドル並みに巡礼者で溢れ返るんじゃねえか？」

「……欲望のるつぼと呼ばれたアルターシャが、たった半年で敬虔な宗教都市になるっての？　普通なら絶対にあり得ないんだけど……」

「現状を見てる俺様だと、それが必然的に思えちゃうんだよな……」

「一体どうなってやがる!?　半年で三つも廃業だなんて、今まで無かった事だぞ！」

「いえ、たった今もう一件増えました。ラージパレスです」

「ラージパレスが!?　アルターシャ最大のカジノだぞ！」

「先程廃業届を提出され、受理されました」

「受理!?　受理だと!!!?　俺は受理した覚えは無いぞ！」

「はい、私が代わりに判を押しました」

「…………貴様、何のつもりだ」

「私も本日をもちまして退職致します。そして聖女様の弟子になります」

「はああああ!?」

「あの清楚な顔立ちに似合わぬたわわな物が、私を聖心教へと導いたのです」

「たわわって……」

「他の言い方をすれば、バインバインとか、ロケットスイカメロン等々」

「思いっきり下心丸出しじゃねえか！」

「何を言いますか！　聖心教とはすなわち、己の欲望に忠実にあるべし、という教えなのです！」

「お前、絶対に『聖』を『性』と勘違いしてるな……」

「では懺悔の奉仕を始めます」

　ゆっさゆっさ

「「「ありがたや～、ありがたや～」」」

　……最近、いかがわしい視線を感じますわね……？

性心教では無く、聖心教。