必死の撲殺魔っ
ほう、頭だけ残った瀕死のデュラハーンと、魂が抜けた動かないホムンクルス。
ワシでも想像ができる今後の展開じゃから、シスター達が思い浮かぶ筈が無い。じゃが、そう上手い事いくのじゃろうか……。
「…………完全に反応しませんわね」
まさかホムンクルスがわたくしの言葉を、そこまで忠実に守るとは思いませんでした。
「リファリス、それならデュラハーンの受け皿になるんじゃない?」
え。ちょ、ちょっと待って下さい。
「ホムンクルスの身体を、リブラの新しい身体として使えないか、と言いたいんですの?」
聞いた時は、流石に無理だろうと思いました。
ですが。
「か、可能性があるのなら、私はそれに賭けますわ!」
もう時間が無いリブラは、藁にも縋る思いでわたくしを見つめてきました。
「……そう……ですわね。やれるだけやってみましょう」
友達を失うかもしれない事態を、黙って見過ごすつもりはありませんわ。
まずはリブラの首がホムンクルスの身体に繋がるようにしなければなりません。
「つまり、現在のホムンクルスの首から上を……リジー、お願いできます?」
「うい。リファリスの頼みとあらば、例え聖火の中、聖水の中」
そう言ってリブラが使っていました、刃が折れた大剣を拾い上げ。
「呪われ斬!」
ビュッ ザグンッ!
鈍い音がして、ホムンクルスの首から上が切断されました。
ボヒュボヒュッ ボンッ!
転がったホムンクルスの頭は切断面から火花を吹き、そのまま破裂しました。
バチバチッ
身体の切断面も、火花が散り始めます。
「リファリス、このままだと爆発するかも」
わたくしもそう思いますわ。
「ですから、リブラ、失礼しますわね」
「えっ」
爆発してしまっては、元も子もありません。急いでリブラの頭を持ち上げ。
ブンッ!
「きゃわわわわわわわわっ!?」
爆発寸前のホムンクルスに向かって投げつけたのです。
ボゴッ
「へぶぅ!」
身体と頭がぶつかった瞬間、回復魔術を発動します。
「『非聖属性、接続、修復』」
とは言いましても、あくまで回復魔術ではありません。聖属性を伴いよう、慎重に魔力のみでホムンクルスの修復とデュラハーンとの接続を行います。
バチバチ……バチッ
火花が散っていた導線を取り除き、生物の血管や神経と繋げられるように作り直し。
「『義体操作』」
支配したホムンクルスの身体を動かし、デュラハーンの首を切断面に乗せて。
「リファリス、切断面が合ってない」
それは最初から分かっている事。
「合わないのならば、合わせるだけですわ。『調整、修復、接続』」
ホムンクルスの能力の一つである『収縮』を使ってサイズを合わせ、首を乗せます。
「うん、ピッタリ」
デュラハーンとホムンクルスが繋がっていき、少しずつ固定されていきます。
が。
「『接続、接続、接ぞ……』……く……」
ま、魔力が……。
「リ、リブラ、無事ですの?」
「ま、まだ魔力は、頭に残っ、ていま、す」
「な、なら少し待って下さい。わたくしの魔力が……もう」
な、慣れない生体以外への回復魔術で、いつも以上に、魔力を消耗してしまい……。
「な、何とか、そのまま、繋がって下さい」
この時のわたくしは、藁にも縋る思いでした。
「……ありがとう、リファリス……私の為に…………だ、け、ど」
デュラハーンの、リブラの瞳から、光が失われていきます。
「もう……間に合……わ……な……」
「そ、そんな」
わたくしの努力と、リブラの生への執着だけでは……助けられないのでしょうか……。
諦めかけたその時、リジーさんが信じられない行動に出たのです。
「えいっ」
ザグッ!
「がふっ」
「…………え?」
目の前の光景が信じられませんでした。リジーさんが……リブラの脳天に折れた大剣を突き立てて……?
「あ、貴女は、貴女は何を為さってるんですの!?」
「うん、殺した」
そ、そんな事は見れば分かりますわ!
「何故、何故殺したのですか!?」
「うん、時間稼ぎ」
は?
「聞くけど、殺された人ならリファリス生き返らせれる。違う?」
……はい?
「リファリスの復活魔術は天寿を全うした人には効きにくいけど、無理矢理命を奪われた相手なら100%助けられる。違う?」
「そ、それはその通りですが」
基本的に復活魔術は、生への執着が強い方程効きやすいです。なので天寿を全うされて満足に逝かれた方を生き返らせるのは、かなり難しいのです。
「だったら、私が殺しちゃったリブラ侯爵夫人は、リファリスが復活させられるんじゃない?」
それは……そうかもしれませんが。
「デュラハーンはアンデッドですのよ? 聖属性である復活魔術が通用するかは」
「慣れない非生体に対する回復と、慣れてる生体に対する回復。どっちの方が上手くいく自信ある?」
そ、それは……。
「リファリスは死者を復活させるのは、手慣れたもんでしょ」
…………そう……ですわ。わたくしの復活魔術は、この世界の何方にも負けませんわ。
「何故なら、復活させた数が違いすぎますもの……!」
数え切れない程の罪人を復活させてきたわたくしに、デュラハーンの一人や二人、復活させらない筈が有りません!
「おっけー。なら知り合いの錬金術士を呼んでくるから、それまで魔力回復に勤しんで」
ええ、ええ。かなら魂を引きずり戻してみせますわ!
その後、リジーさんが連れてきた錬金術士によって、正確に接続が行われ。
「『非聖属性、魂よ戻れ』」
聖属性を伴わない復活魔術、という荒技でリブラを生き返らせました。
「……っ……あ、あれ? 私、生きてる?」
キュイーン
「か、身体が在る?」
キュイィィ……
「ふむ、作動音も消え始めたから、無事に生体に対応し始めたね」
「ありがとうございました」
「いやいや、私もデュラハーンとホムンクルスの接続という貴重な体験をさせてもらった。礼には及ばない」
「先生、この事は」
「リジー君、分かっているさ。これは私達だけの秘密だ」
「宜しいんですの?」
「まあ、バレたら私も同罪だからね。一蓮托生さ……では、私はこれで。万が一にも不具合が出たら教えてくれ」
「ありがとうございました」
「ありがとー、先生」
深々と下げていた頭を上げると、もう錬金術士の先生は居られませんでした。
「リ、リファリス? 私に何があったの? これは? えええ?」
どうやら上手くいったようじゃの。聖心教の教えに背く行為に及んだシスターの思いも報われたの。
リブラ復活祝いに、高評価・ブクマを宜しくお願いします。