劇的に前後する撲殺魔っ
「お、おはようございます?」
「はい、おはようございます…………あの、何か?」
しばらく住む事になる場所ですので、周りくらいは綺麗にしておかなくては。そう思い、掃除を始めたのですが。
ゴオオオオッ!
ボオオオオッ!
その汚さがあまりにも酷く、仕方無く焼却魔術で焼き払っていたのですが……。
「い、いえ、お、お務めご苦労様です」
大半の方は火の固まりに驚いて去って行き、少数の方は捨てようとしていたゴミを持ったまま逃げて行き。
そして、たった一人だけでしたが。
「おうおう、ねーちゃんよ。何か派手な事してくれてんな?」
「はい?」
ゴオオオオッ!
ボオオオオッ!
「あちぃぃぃぃ! 熱い熱い熱い熱い熱いいい!」
「あらああ、申し訳ございません。振り返った時に、つい焼却魔術を向けてしまいました」
「熱い熱い、熱……がくっ」
あら、柄が悪いオジサマ、つい焼却してしまいましたわ。
「ごめんあそばせ、『魂よ戻れ』」
パアアア……
「ぅ、ぅぐ…………くはあ!?」
「あら、あの世からお帰りなさいまし」
「ひ、ひ、ひぃぃぃ!!」
あ、あらら。服は燃えたままだったのですが……。
「違う意味で警備隊に捕まるかもしれませんが……そこまでは関知できませんわね」
「き、貴様、何故半裸で走っているんだ!?」
「こ、これは、焼却してた女に焼却されて、黄色いお花畑に居たら急に戻されてっ」
「……? 何を言ってるんだ、お前……」
「酔っ払いかもしれんな。今夜一晩泊まってもらうか」
「焼却され、焼却されて、ひぃぃぃ!!」
「ついでに伸び放題でした雑草も処理できましたわ」
何故かゴミが多かったのも気になりますが、まだまだ掃除しなければならない箇所は沢山あります。
「先ずは不必要に貼られた金箔を剥がしてしまいましょう」
目がチカチカして、正直過ごし難いのです。
「金箔も……焼却魔術で焼きましょう」
ゴオオオオッ!
ボオオオオッ!
ポタポタ……
垂れてくる液状の金をバケツに入れておきます。
「あら、金箔が無いと案外みすぼらしい……ですが、この方がわたくしに相応しいですわ」
とにかく金箔だらけなのです。全て剥がしてしまいましょう。
ゴオオオオッ!
ボオオオオッ!
ポタポタ……
「あら、もうバケツがいっぱいに……もう一つ使いましょう」
ゴオオオオッ!
ボオオオオッ!
次々に剥がれ落ちていく金箔。それにしても……剥がれてしまえば、板を打ち付けただけの、安普請な造りですわね。
「あら、梁が切ってありますわね。これは危険ですわ」
いい加減な建築の知識しか無かったのでしょうか。要となっている梁が寸断されていて、このままでは崩落しかねません。
「とりあえず応急処置で……『修繕』」
人体では無く物を直す場合は、魔術の系統自体が異なります。わたくしはあまり得意ではありませんが、元に戻すくらいでしたら……。
パアアア……
ギシギシメキメキッ!
「……よし、繋がりましたわ。これで一安心…………あら? ここも構造的に不味いですわね」
どうやら壁をぶち抜いて広い空間を作ったようですが、その際に必要不可欠な柱まで切ってしまったようです。
「これは地震が来たら保ちませんわね。ここも修繕しなければ」
金箔剥がしと同時進行で、耐震補強もしていきます。
「またバケツがいっぱいになってしまいました。どれだけ金箔にお金を注ぎ込んだのでしょう……」
そのお金を貧しい方々の為に使おうと思わなかったのでしょうか。
中は片付きましたので、次は外です。
「それにしても……何ですか、この不必要な装飾は」
何故教会に、ドラゴンの彫刻が?
「必要ありませんわ、撤去します」
あちらこちらにゴテゴテと意味の無い装飾品が……趣味が悪すぎます。
「全て撤去撤去撤去ですわ!」
外した装飾品は庭にとりあえず放り出しておき、後でまとめて片付けましょう。
「……こんなものでしょうか。ここまで来たら徹底的に綺麗にしましょう」
ここにも教会に相応しく無い装飾品が。全て撤去。
「教会の軒にガーゴイル……意味が分かりませんわ」
全て外して庭に投げておきます。
「おうおう、ねーちゃんよ。うちの子分を可愛がってくれたそうじゃねえか?」
……っ……何故こんな場所に裸婦像が……要りませんわっ。
ポイッ
ヒュ~……ゴスン!
「ぐぎゃっ」
「あら? 今、蛙さんが潰れたような声が……?」
ポツポツ
「あ、いけませんわ! 雨が落ちてきました」
本格的に降ってくる前に、屋根の修繕も済ませてしまいましょう。
「トタンが錆びて穴だらけ……雨漏りしていた訳ですわ」
魔術で錆を取り、穴を塞いでいき。ついでに表面の塗料も元に戻していきます。
「な、何て事ですの……主の心まで金箔を!?」
聖心教のシンボルである〝主の心〟は血の流れを意味する赤色で統一するよう定められています。それを派手派手しく金箔で穢すなんて……!
「焼却ですわ、焼却焼却焼却!」
びふぉー。
あれだけ派手派手しく、見る者に失笑しかされなかった悪趣味教会が。
あふたー。
何と言う事じゃろう。余計な装飾が剥ぎ取られ、何とも普通の教会になったではありませんか…………む、庭に並べてあった装飾品を、持って行く者共が居るのう。
こりゃあああ! 他人様の物を勝手に持って行くでない!
む? な、何じゃと? シスターが勝手に持って行って良いと?
なぬぅ!? 金が詰まったバケツまで無料配布しとったじゃとお!?
ワ、ワシも並べばよかっゲフンゲフン!




