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堕落しそうな撲殺魔っ

「頭領」

「…………」

「頭領!」

「…………」

「……ちっ、このジジィ、ついに耳が」

 バキィ!

「ぐぶばぁ!?」

「……テメェ、いい度胸だなぁ、ああん!?」

「じ、じづれいじまじだ……」

「……それと何度も言うが、頭領じゃなくて町長だ……で、何の用だ」

「あ、はい……すいやせん、お耳を拝借」

「うむ」

「実は…………ふーっ」

「あひゃあああ! な、何をしやがんだああああっ!!」


 バキャボキャグジャアア!


「ぐ、ぐふっ」

「たく、アルターシャを牛耳るマハト様を甘く見るんじゃねえよ」

「…………」

「おい」

「…………」

「おいっ!」

「…………」

「……ちっ、死んじまいやがったか。しまったな、報告だけでも聞いておけばよかったか」



「生き返らせてあげましょうか?」



「ああん!? 誰だ、今度は!」


「貴方が殺した下っ端さんに案内されて来た、赴任したばかりのシスターでございます」


「シスターだあ? …………ああ、そう言やぁ、あの強欲牧師は捕まったんだったな……あんた、その代わりかい?」


「はい。スーリャ・フリと申します。どうかよろしくお願いします」


「……ふん。で、お前はこの死に損ないを生き返らせれるってか?」


「はい。何でしたら、今すぐにでも」


「今すぐかい。だったら、頼もうか」


「はい。『彷徨いし魂よ、肉体に戻れ』」

 パアアア……

「……ぐふっ!? いでえいでえいで……あれ?」


「なっ!?」


「あ、あれ? 俺は一体……」


「はい、生き返らせましたわ。これで宜しくて?」


「そ、そんなあっさりと……前の強欲牧師は三日がかりだったぞ」


「あらぁぁ、その方は欲深すぎて主に嫌われたのでしょうねぇ」


「……まあいい。これだけ優秀なシスターが来てくれたんなら、色々と便利だろうからな」


「あらあら、わたくしは既に便利に使われる予定ですの?」


「娯楽区に来てる時点で、お前もある程度は察してるんだろう?」


「勿論ですわ。魔術の研究にはお金が掛かりますもの」


「ほぉう……なかなかストレートな物言いだな」


「わたくし、別に信仰の為にシスターをしている訳ではありません。時間が欲しかったから、ですわ」


「まあ、居るからな。魔術の研究に時間を費やす聖職者は」


「ですから、時間とお金を頂けるんでしたら、多少の違法行為は見逃すつもりですわ」


「本当にストレートなお嬢さんだ。見た目と違って、随分腹黒いようだな」


「欲望に忠実なだけですわ。お肉を食べたければ食べますし、お酒を飲みたければ飲みます。男を漁りたければ夜の街に繰り出しますし、魔術を極めたければ何日でも籠もります」


「ふ……ふはははははは! こいつぁいい! これだけはっきりしたお嬢さんなら、こっちから歓迎だ!」


「気に入って頂けたのでしたら、幸いですわ。但し」


「ああん?」


「今回はわたくしだけでは無く、他に二人のシスターが派遣されています。その二人はガチガチの堅物でしたから、居住区のボロ小屋に置いてきましたから」


「ああ、居住区にも居るのか。別に構わねえよ……どうせ何もできやしねえ」


「あら、レートだ何だと、五月蝿く口を挟まれますわよ?」


「抜け道は幾らでもある。まあ、今回はお嬢さんがこっちに付いてくれるんだから、その辺りの対処も任せていいんだろ?」


「無論ですわ。ただ……その際は」


「分かってる。普段の寄付金とは別に、ちゃんと支払わせてもらうさ」


「話が分かる町長様で助かりますわ」


「ふふふふ……あ、それとだ」


「何ですの?」


「夜の相手を探すってんなら、俺に声を掛けな。朝までヒィヒィ言わせてやるぜ」


「あら、わたくしを口説かれてるのですか? うふふふ、考えさせて頂きますわ」



 ……見た目が派手派手しい教会に入ると同時に、身体中をさすり続けました。


「あああああ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 何なんですの、あの方! わたくしの身体をジロジロと」


 治まらない鳥肌をそのままに、まずは趣味の悪い礼拝堂へ。


「あああ、主よ、演技とはいえ心に無い事ばかりペラペラと……どうか罪深きわたくしをお許し下さい」


 真っ先に懺悔をし、今度は身体を清める為に沐浴場へ。


「…………まさか、ここまで、ですの」


 室内、全てキンラキン。


「…………あああああ、やはりモリーに任せておけば良かったでしょうか」


 金色の水溜めには、既に水が張られています。おそらく常に流しっ放しにしてあるのでしょう。


「勿体無いですね……あら?


 水かと思えば、ほんのりと湯気が立っています。どうやらぬるま湯のようです。


「……術式で常にぬるま湯を……ここまで堕落してうるなんて……」


 聖心教の修行では、沐浴は勿論冷水が基本です。前の牧師はそれに耐えられず、術式を施したのでしょう。


「魔力の無駄使いてすわ、ああ勿体無い勿体無い」


 仕方ありません。着ていた物を脱ぎ、堕落の象徴(ぬるま湯)に足を入れましょう。


 チャポンッ


「……あら?」


 冷たい刺激がビリビリと来る事も無く、柔らかな刺激が足を包んで……。


「…………」


 ザブンッ


「…………もう少し熱ければ……『水温上昇』」


 ゴボゴボ


「ああ、これくらいならば……」


 ぬるま湯では無く、このくらいの温水でしたら、いつまででも入っていられ……は!?


「わ、わたくしったら、沐浴中に何て事を……!」


 冷水じゃなければ沐浴の意味がありません。


「……っ……っ……も、もう少しだけ、もう少しだけ……」



 ああ、主よ、堕落していくわたくしをお許し下さい……。

お風呂には勝てない。

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