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調査中の撲殺魔っ

「つまり居住区の皆様は、娯楽区に対してあまり良い感情をお持ちで無いと?」


「お持ちな訳あるか! どっちかって言えば、向こうの連中まとめて居なくなっちまえ! ってぐらいさ」


 その言葉を聞いて首を傾げるリブラ。モリーも不思議そうな表情をしている。


「なあ、待ってくれよ。この町はカジノがあるお陰で潤ってるんだろ?」

「なのに娯楽区ごと居なくなっちまえって、カジノが無くなっちゃうって事と同様よね。いいの?」


 それを聞いたご主人がせせら笑いました。


「潤う? 居住区が? 確かにちょっとは利益が回ってきてるやもしれねえが、殆ど吸い上げられる構造なんだから、こうも言いたくなるわな」


 吸い上げられる……構造?



「な、何ですの、これは!?」


 気になったわたくし達は、居住区にある役場の派出所に赴き、少し調べてみたのですが……。


「カジノを利用された方は、居住区でお店をご利用された際は、無条件で全て三割引きって……!」


「カジノの収益を居住区に分配する為の、町の施策……となってますね」


 対応してくれたのは、ポニーテールが似合う眼鏡美人さんです。


「なってますね、ではありません! 三割引きを行うにしても、行政の補助が何も無いではありませんか!」


 振興策として、居住区で売っている物や提供しているサービスの価格を無条件で三割引きにし、その分を町で補填してくれる、と言うなら理解できます。


「ですが町側はそれを強制するのみで、何の補助もしていないなんて……!」


「そうです。つまり居住区の方々にとって、カジノ目当てのお客さんは害悪にしかならないんです」


「あの、ちょっと聞きたいんだけど。居住区の人達も、わざわざ律儀に三割引きにしなくても、普通に売ればいいんじゃないの?」


 リブラの疑問も尤もです。しかし。


「入場割り符に何か仕込んでるんだよな?」


 モリーが先に疑問に答えてくれました。


「入場割り符? 何それ」


「娯楽区に入る為に必要な割り符さ。カジノを利用する為には、必ず購入しなくちゃならねえ」


「そうです。カジノをご利用になるお客様は、まずは入口の売店で割り符を買います。それがあって初めて、あの結界内に入る事ができるのです」


「その割り符に細工してあるって、どういう事?」


「その割り符、買う前に氏名と滞在期間を申告しなくちゃならねえ。多分だが、その辺りの情報が割り符に刻まれてるんじゃねえかな」


「その通りです。要は本人以外の使用ができなくする事で他人の悪用防止を、また使える期限を設ける事によって結界内に入る人達の管理を行っています」


「……本来なら防犯目的である筈なのに、それを悪用してるんだな。その割り符には持ち主の行動記録も刻まれるんだろ?」


「そうです。流石にプライベートな部分は配慮されていますが、どこへ行ってどのくらいの買い物をしたか、という情報は記録されます」


 つまり、居住区内での買い物の情報は、町側に筒抜けなのですね。


「……三割引きをしなかった事がバレた場合、何らかのペナルティはあるのですか?」


「追徴課税でごっそりと持っていかれます」


「何それ!? 居住区側にしてみたら、カジノの客相手の商売なんて、損しか無いじゃないの!」


「そうです。ですから居住区側の方々は、カジノ利用客には何も売りません」


「……へ? それはいいの?」


「割り符に記録されるのはあくまで売買関連のみですから」


 確かにそれでしたら、居住区側のお店にできるのは、売る事を拒否する事だけですわね。


「それはつまり、カジノの利益を徹底的に居住区側に落とさないようにしている、のですね?」


「そうです」


 ……何と言えばいいのか、徹底していますわね……。


「つーかよ、あんたも行政の人間だろ? そこまで言っちまっていいのかよ?」


「構いません。私は居住区の出身ですし、娯楽区に対して憤りを感じているのは同じですので」


「……その、わたくしが心配するのもお節介かもしれませんが、貴女は大丈夫なんですの?」


「え、私?」


「はい。こうも堂々と娯楽区について批判されていますと、立場的に不味いのではないか、と……」


「ああ、それでしたらご心配無く。私が批判的だと分かっているから、ここに飛ばしたんです」


「えっと、つまり役場の上層部が、ですの?」


「はい。居住区勤務の人達は、大体がそういう立場です」


 ……おそらく、給料面でも娯楽区勤務と居住区勤務では差がつけられている、と考えるべきですわね。


「それより貴女方は、教会に赴任されてきたのですよね?」


「赴任? ああ、それは」

「いんや、調査目的だな。この人、本物の聖女様だ」


 モリー!?


「本物って……まさかセントリファリスの、シスターリファリス!?」

「ああ、その通りだ」


 ちょ、ちょっと待って下さい!


「モリー、内密に調査するのではありませんの!?」


「ああ、そのつもりだったんだけどな、状況が変わった」


 あ、貴女が内密に調査しようと言ったのでしょう!?


「このポニーテール眼鏡に協力してもらおうぜ」

「誰がポニーテール眼鏡ですか!?」


「きょ、協力して頂くのでしたら、流石にポニーテール眼鏡という呼び方は……」


「そうか? なら巨乳ポニーテール眼鏡で」

「いや、そういう事では無く」

「なら良し」

「良いんですの!?」


巨乳ポニーテール眼鏡。

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