無茶と無理を説く撲殺魔っ
もう、何と言ってよいのやら……シスターじゃから、としか言いようが無いの。
ちなみにこの世界の冒険者の中には、未踏の地を踏む事に全力を注ぐ、ある意味本当の冒険者が居ってのう。北極南極両方を制覇した者や数々の洞窟を発見・制覇した者、またあるいはこの星が丸い事を証明する為に船で世界一周を果たした者等、様々な冒険者の名が伝わっておるが……異彩を放っておるのが、シスターなのじゃ。何せ世界で初めて、全大陸の最高峰を制覇した人物なんじゃからの。
この天の頂を制覇したのが、その第一歩なのじゃよ。あ、ちなみにヘブンズピーク初登頂もシスターじゃったりする。
「良い眺めですわ。麓のアルターシャが一望できますわね」
「空気薄い寒いぃ、空気薄い寒いぃ」
「な、何で穴だらけの法衣姿のシスターが、一番平気そうなんだよ……ガタガタ」
「あら、やはり気の持ちようではありませんか?」
「「いやいや、魔術のお陰では?」」
「あら、わたくし、貴女達にかけている魔術と同じですわよ?」
「「…………へ?」」
「ですから言ってますのよ、気の持ちようだと」
「「こ、根性論が魔術に勝った?」」
さて、それよりも、問題は下山ですわね。
「このまま真っ直ぐ下りればアルターシャへ一直線ですが……この急勾配は流石に……」
「「いや、急勾配じゃなくて、完全な絶壁ですから!」」
まあ、そうとも言いますわね。
「さて、どうやって下りましょうか」
「…………」
ジッとアルターシャ側を覗き込み、それから登ってきた側を覗くリブラは。
「……無理、絶対無理。戻ろう、リファリス」
「うん、俺も賛成だ。流石に無謀だぜ、これは」
無理? 無謀?
「無茶では無いのですね。リブラ、モリー」
「え?」
「無茶だと言われたのでしたら、素直に諦めるつもりでした。ですが、二人とも無理、無謀だと仰いました。つまり、可能性はあるのですね?」
「「……はい?」」
「昔から言います、無理はしても無茶はするな、と。つまり二人が無理だと仰ると言う事は、僅かながらも可能性があるのですね?」
「リファリス? 何でそういう論理になるの?」
「いや、論理になってねえんだが」
「では、理無き事に挑戦しますわよ!」
ドンッ
「「え……」」
二人を突き落とし、わたくしも宙に舞います。
「う、嘘々々!? うっそだああああああああああ!?」
「うっぎゃああああああああああああああ!?」
「ああ、念の為に二人には…………『復活予約』」
「何よそれ!? 何なのよ、それ!?」
「念の為、ですわ。墜落死しても復活しますからご心配無く」
「「心配するわあああああああああああ!!!!」」
ヒュウウウゥゥゥ…………
「いやあああああ!」
「崖が岩が、崖が岩がああああ!!」
ヒュウウウゥゥゥ……ブチャ!
「「べぶっ」」
パアアア……
「あ、生き返った」
「着いたのか!?」
「いいえ、落ちていく途中で出っ張った岩に衝突しただけですわ」
「「え」」
「あら、落石が貴女達の頭上に」
「「え゛」」
ごしゃあ!
「「ぐびゅう!?」」
パアアア……
「う……ま、また生き返った!?」
「嘘だろ!? 一回生き返ったら効果が無くなるんじゃないのか!?」
「あら、わたくしのかけた『復活予約』でしたら、百回は生き返れますわよ?」
「「百回!?」」
ヒュウウウゥゥゥ……
「あら、また落石が」
ごばしゃあ!
「「ひびゃぶ!?」」
パアアア……
「え、また!?」
「い、痛みも感じなかったぜ!?」
「それは仕方ありませんわ。木っ端微塵になったんですもの」
「……え?」
「さ、三回とも?」
「ええ。それはそれは見事な程に【汚え花火だ】という感じに…………あら、再び出っ張りが」
どぐわしゃあ!
「「はびゃぱ!?」」
パアアア……
「……ふぐぅ!? い、今のは痛み感じたわよ!」
「お、俺もだ! 自分が【汚え花火だ】したの、途中まで分かっ」
どがしゃあ!
「あらあら、また落石ですわね」
パアアア……
「……はふぁ!? ま、また【汚え花火だ】した!?」
「は、はあ、こ、こんだけ【汚え花火だ】すると、もう何が何やら」
ズズズズズズズズ……
「あら、あらあらあら。今度は大崩落が起きましたわねえ……」
「大崩落って……」
「うわあああい、落石の雨あられだあああ!」
ズズズズズズズズドドドドドドドドドド!
「わああ! 百回じゃ足りないよ、この岩の量はぎゃぶ!」
「つーか、そもそも死にたくぐぎゃ!」
「ふうう……天誅天罰滅殺抹殺必殺撲殺、天誅天罰滅殺抹殺必殺撲殺…………」
バガガガガガガ!
パアアア……パアアア……
「ひぎゃ! リ、リファリス、全部あぎゃ! 打ち砕いてごぶっ! 凄いわねごべひゃ!?」
パアアア……パアアア……
「うごおおっ! シ、シスターぐはあ! あ、相変わらずぐふおぇ! 人間離れがぶりゃ!?」
あらあら、どんどん死亡数がカウントされていきますわね。
「しっかりなさいな。これも修行の一環と思いなさい」
「「無茶言うなぁ!」」
「無茶ではありません、無理です」
そのまま落下し、わたくしは魔力を放出して無事に着地。
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
びたあああああん!
……パアアア……
リブラとモリーは……最後の一回を使ったようです。
無茶で無理で無謀です。




