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初登頂の撲殺魔っ (初勝利のキツネ娘っ)

「まだまだ上流があるようですね。どんどん登っていきましょう」


「ま、待ってよ、リファリス!」


「何ですの?」


「ここ上がってったら、天頂山脈に出ちゃうよ!?」


「天頂山脈でしたら、アルターシャは真下になりますわね。ちょうどいいですから、越えてしまいましょう」


「え゛。ま、待って。そんな気軽に越えられるようなもんじゃ無いよ?」

「そうだぜ。天頂山脈って言えば、南大陸最高峰の天の頂(ヘブンズピーク)があるんだぞ?」


「あら、そう言えば未踏峰でしたわね」


「未踏峰って言うか、あんなの人間が行ける場所じゃ」

「そんな高い場所からでしたら、アルターシャまではひとっ飛びですわね」

「「……え?」」


 再び全身に魔力を行き渡らせ、立ち上がります。


「お二人とも」


 ニッコリと微笑み。


「ちゃんと後を付いて来て下さいね」


 ……二人の表情には、明らかに絶望が浮かんでいたのでした。



 ……ブルッ


「……寒気?」


「どうかしたのか、リジーや」


「ううん、何でも無いでごわす」


「ご、ごわす?」


「それより、私が勝ったらちゃんとくれるんだよね?」


「無論じゃ。妾に二言は無い」


「うい。ならば尋常に、勝負勝負と思われ!」


「……しかし負けたら……どうなるか、分かっておろうな?」


 ゾクゾクゾクゾクッ


「ひぃあああ! 鳥肌と蕁麻疹が一瞬で全身にいいい!」


「失礼よな! そんなに妾が嫌いか」

「隙ありぃ!」

 ボギャ!

「ぐひゃあ!?」



「あら? 今、景気の良い音が響いてきたような……」

 みゅん?

「……ごめんなさい、ベアトリーチェ。どうやら気のせいだったようですわ」


「……こひゅー……こひゅー……」

「く、空気……空気が薄い……」


「あら、リブラはともかく、妖精族であるモリーがそんな体たらくですの?」


「お、俺は妖精っつったって土妖精(ノーム)なんだよ。高い場所に居たってプラス補正はねえ」


「あら、ノームなんですの。その割に顎髭はありませんわね」


「あのなあ……ノームだってドワーフだって、女は髭もじゃのチビじゃねえよ。第一俺は背ぇ高いだろが」


 確かに。盗賊の親分だった頃も、ドワーフらしさは欠片もありませんでしたわね。


「それより、この辺りは何合目辺りでしょうか」


「さあ……まあ、半分は来たんじゃねえか?」


 まだ息絶え絶えのリブラと違い、モリーは既に回復したようです。流石ノーム、体力は無尽蔵ですわね。


「リブラ、しっかりなさいな。まだ先は長いですわよ」


「こひゅー……こひゅー……ぐふっ」


 あら、虫の息まで絶えてしまいましたわね……『目覚めよ』


「……ぶふぁ!? はあ、はあ、はあ、はあー、はあー、はふぅあー、はふぅあー、く、空気が……」


 全く……『呼吸のヴェール』


「はふぅあー、は……あ、あれ? 息ができる?」


「リブラの周りに空気が集まりやすくしてありますわ。これで空気の心配はありません」


「は、はは……やっぱ登んなきゃ駄目なのね」


「当たり前ですわ。上に登ると決めた以上、最後まで登らなくては」


 それを聞いたリブラは、頭を抱えてしまいました。


「…………はあ。あれって確か、小川を遡って渡れる橋を探そうって話じゃなかったっけ?」


「そうでしたわね」


「それが、何でこんな命懸けの冒険になってる訳?」


 わたくし、心底ニッコリと微笑み。


「だって、まだ橋は見つかってませんもの」


「「…………」」


 二人揃って、信じられないものを見る目でわたくしを凝視してきます。


「……何か?」

「「いえ、何でもありません」」


 そして、再び歩き始めたわたくしの後ろに、ベアトリーチェと二人が続いたのでした。



「……参った」


 駄目だ。最初の一撃が入ってから、触る事もできない。


「僅か半時で音を上げたか。まだまだじゃのう」


 そう言って近付いてくるサマ様は、一歩歩くごとに自分の衣服を脱ぎ捨て、舌なめずりをしている。


「では、言うた通りにするぞ。今夜其方は、妾が好きにするのじゃ」

「……勝手にして」


 組み付いたサマ様は、器用に私の鎧を外し捨てていく。


「……ゴクリ」


 そして、最後の一枚を取り去った時。


「……えすてぃーえふゆー」


 私の腕がサマ様の細い首に巻き付いた。



「さあ、もうすぐ! もうすぐ頂ですわ!」

「はあ、はあ、く、空気がいくらあっても足りない」

「こ、これ、歩くんじゃなくて、よじ登ってるよな!?」


 法衣がボロボロになろうとも、肌がさらけ出されようとも、魔術によってわたくしは一切寒さを感じません。


 ガラガラ……


「ら、落石!?」

「問題ありませんわ! 天誅天罰滅殺抹殺必殺撲殺! はああ!」


 ばがああああん!


「さあ、わたくしの後ろに居れば安全ですわ!」

「……何で私達はよじ登ってるのに、リファリスは両足だけで登ってるの?」

「リブラの姉御、それは考えちゃ駄目だぜ」

 みゅうん!


 何故かベアトリーチェまで二人に交じって会話していますが、今は気にしている暇はありません!


「さあ、もうすぐ前人未踏の頂ですわ!」



「ぐぎゃああああ! 痛い苦しい痛い苦しいいい!」


 まさか、これが役に立つとは思わなかった。


「さあさあ、まだまだ締め上げると思われ」

 ギリギリギリギリ

「ぐふおえぇ! 参った参った、妾の負けじゃあああ!」



「つ、ついに、頂に着きましたわ!」


「「ビィクトリィィ!」」



「あら、何故か声が重なったような……?」

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