アサシンと撲殺魔っ
あ、あの首だけの令嬢、必死に泣き叫んでおったが、身体が原形を無くすまでシスターは手を緩めなんだ。
この後大変な事になりそうじゃが、さてさて、どうなるやら……。
「わ、私の! 私の身体があああああ!」
棺の上に添えられた首がわんわん泣いています。その側で、わたくしはひたすら頭を下げるしかありませんでした。
「本当に申し訳ありませんでした。まさかリブラがデュラハーンだったなんて」
わたくしの言葉を聞いたリブラは、器用に首だけでピョンピョン跳ねながら、再び泣き叫びました。
「謝って身体が元に戻るなら、何の苦労もありません!」
はい、確かにその通りでございます。
「くく、くくく、くひひひひひひひ!」
……わたくし達の様子を見ながら、一人腹を抱えて笑うリジーさんが、今はとても憎らしいです。
「そこの騎士! 他人の不幸を笑うなんて最低ですわよ!」
「くひひひひひ……だ、だって、あの聖女様が、あの撲殺魔が、そこまで困り顔で謝り倒すって……ぶくくくくっ!」
ああ、どうしましょう……今すぐ、今すぐにぃ、この狐女の脳天をかち割りたいですわ……。
「……リファリス、その女の首を跳ねて下さる? あの身体を頂きますわ」
「分かりましたわ。喜んで協力させて頂きます」
「わ、ちょっ、冗談だから。冗談ですから、ね?」
「天誅」 バゴォン! 「あべしぃぃ!」
頭の頂点に大きなたんこぶを作ったリジーさんは、半泣きで画期的な解決法を提示してくれました。
「リファリスは聖女の名乗りを許される程の回復魔術のスペシャリスト。だったらリファリス自身がボコボコにした身体を治せば解決」
……確かにその通りですわね。何故わたくしは思い付かなかったのでしょう。
「そうですわね。なら早速」
すぐに魔術を詠唱します。
「えっ。ちょっ、冗談でしょ!?」
「何が?」
「デュラハーンはアンデッドなのよ!? 回復魔術なんか掛けたら、逆効果なだけ」
「『完全回復』」
パアアアア……
「完全に回復って!? 完全に身体が」
パアアアア……サアアアア
あ、あら?
「身体が完全に癒されるって事は、身体が完全に消滅しちゃうのと同じなのよおおおおっ!!」
そ、そう言われてみれば、アンデッドを倒すには回復魔術が最適だと聞いた事がありましたわね。
「「大変申し訳ありませんでした」」
身体を治すどころか完全に昇天させてしまい、最早泣き叫ぶ気力も失ったリブラ。
「ああ……私も昇天させてもらおうかな……」
「リブラ、気を確かに。何か良い方法が無いか、教会の蔵書を見てみますから」
「……リファリス……私達デュラハーンが頭を外している理由、分かります?」
「い、いえ」
「それはですね、首を外している間に、身体に魔力を溜め込む為ですわ」
魔力を……溜め込む?
「つまり、身体が外気に漂う魔力を吸収するのです。それを行うには、首を外す必要性があるのですわ」
「つ、つまり、身体が無くなってしまったという事は……」
「……今は残留魔力で生きていますが……もう少しでそれも尽きます」
「尽きると?」
「当然ながら、死にますわ」
「あららら、チーンと思われ」
し、死んでしまう!?
「それは不味いですわ! 早く何とかしないと」
「何とかしようって言われてもね、身体が無い以上はどうしようも」
その時でした。
ガチャアアアアン!
礼拝堂のステンドグラスを割って、何者かが侵入してきたのです。
「…………うぁ」
それは黒装束を纏った、アサシンだったのです。
「何方ですの? わたくしを狙って」
「違うわ! 目的は私ですわ」
……え?
「私が力尽きて倒れていた理由。それがこのアサシンとの戦闘なのよ」
「な、何故貴女がアサシンに命を?」
「こいつは只のアサシンじゃない。聖心教のアンデッド狩りよ!」
アンデッド狩り……まさか、本当に存在していたのですね。
「アンデッド狩りという事は、この方は」
「そうよ。アンデッドを狩る為に創られたホムンクルスだわ!」
さて、ワシの説明が必要じゃな。
アンデッドは聖心教では邪悪な存在とされ、忌み嫌われておる。ゾンビに噛まれればゾンビになってしまい、それが永劫に繰り返されるのじゃから、仕方無いのじゃが。
そこで聖心教はアンデッドを狩る部隊を創設し、湧いたゾンビを駆除してきたのじゃが……狩る部隊の構成員もやはり人間。ゾンビに噛まれて自身もゾンビになってしまう事態が頻発し、アンデッド狩りは常に人手不足に悩まされておった。
その時にある錬金術士によって提案されたのが、人間では無い者によってアンデッド狩りを行う事じゃった。それが人造人間……ホムンクルスなのじゃよ。
ホムンクルスは人間とは根本的に違う為、噛まれてもゾンビ化しない。しかも命令には忠実に従う。これ程にアンデッド狩りにうってつけの存在は無く、聖心教はすぐにその案を採用したのじゃ。
現在でも自立して動くホムンクルス達が常日頃からアンデッドを探し回り、発見し次第狩り続けておるのじゃよ。
「成る程、ホムンクルスにしてみればゾンビだろうがデュラハーンだろうが、同じアンデッドには違いないと思われ」
「私達は噛んだ相手をアンデッド化させたりしない、無害な種族なのよっ」
……つまりリブラを殺させるのは、主の教えに背く事になるのですね。
「でしたら聖女の名によって命じます。ホムンクルス、この場で活動を停止しなさい」
「…………うぁ…………聖女様の命令、受諾……活動停止、停止、テイシ、テイシ、テイ…………」
バタァン!
あら? ホムンクルスが、倒れてしまいましたわ?
「……リファリス、これって、本当に活動停止しちゃったんじゃ?」
「ま、まさか、生命活動まで停止を!?」
ううむ、流石はホムンクルス。真に命令には忠実じゃの。
リブラの復活を望まれるのでしたら、高評価・ブクマを宜しくお願いします。