陪審員撲殺魔っ
聖門。正式名称は聖心教法門裁判所と言います。
国同士の係争の調停や、教義を蔑ろにした信者を裁く為の、聖心教独自の司法施設です。
「今回は聖女殿も被害者じゃからの、裁判に参加してもらおうかの」
「望むところですわ」
裁判長であるサマ様の依頼を受け、わたくしも陪審員として参加します。
ギイイッ
「裁判長サマ・シャシャ様、ご入廷」
裁判官の一人が声を上げ、それに倣って全員跪きます。
「……直って良いぞ」
サマ様のお声掛けで全員が着席。
「では第一○八九号事案の裁判を開始する。被告人を連れて参れ」
「「「はっ!」」」
ガチャガチャ バン!
「離して! 離してよ!」
「静かにしろ! 裁判長の御前であるぞ!」
不浄口、とあだ名される被告人専用の入口から、若い女性が引き摺り出されます。
「この者がアルターシャにて聖女を名乗り、数々の混乱を引き起こしていた者です……次!」
「私は無実だ! 陥れられたのだ!」
「分かった分かった。それは法廷で言うんだな」
更に年配の男性も連れて来られます。
「この者は枢機卿の名を騙り、偽の聖女認定を行った教会長であります」
「ご苦労じゃった。下がって良いぞ」
「「「はっ!」」」
不浄口から衛兵さん達が退出し、裁判官、陪審員、そして被告人が残されました。
「では審議を開始しようかの。まずは事件の概要じゃな」
裁判官の一人が立ち上がり、分厚い書類を読み上げました。
「被告人の女はまだ本名を話していません。あくまで聖女リファリスである、と主張しています。よって審議中は被告人Aと呼ばせて頂きます」
「何でよ! 私が聖女だって言ってるでしょ!」
「黙れ!」
ぎゅむっ
「むーっ! うーっ、うーっ!」
猿ぐつわをされて、ようやく静かになります。
「続けます。被告人Aは聖女を騙って効果の無い浄化を行い、多額の寄付金を騙し取っていました。更に追及の手が伸びてくると、信者を騙して暴動を起こし、その隙に町から逃げ出そうとしていたところを、警戒中の衛兵に取り押さえられたそうです」
これが全て真実でしたら、極刑は免れませんわね。
「続きまして、アルターシャ聖心教会長の罪状です。ちなみにですが、既に大司教猊下の沙汰によって職務停止されていますので、聖職者特権は用いられません」
「私は無実だ! 大司教猊下の裁定もねじ曲げられたものだ!」
「お静かに」
「っ……」
偽聖女さんと違って、教会長様はサマ様の一言で黙ります。
「教会長はアルターシャの犯罪組織と手を組み、レート監視を故意に緩める事で、長年私腹を肥やしていました」
いつか語った事ですが、聖心教では賭け事は全面的に禁じられています。
ですが抜け道もあり、完全に無くす事ができないのも事実でして、昔から流刑地であり「不浄の地」とされていたアルターシャ盆地にスラム街ができて、やがて犯罪の巣窟として都市が形成されました。その犯罪の一つとして、賭博も公然と行われていたようです。
当然ながら討伐軍が何度も派遣されたのですが、その度に犯罪組織は抵抗と懐柔を繰り返し、犯罪都市アルターシャはしつこく残り続けます。やがて撲滅を諦めた聖心教側は、逆に犯罪組織と手を組む方向へ向かったのです。
アルターシャでの自治と賭博の運営を黙認する代わりに、その他の犯罪を自ら取り締まるように、組織き促しました。
賭博という金のなる木を渡された以上、わざわざ犯罪という危険な橋を渡る必要が無くなったのですから、組織は賭博の運営と治安維持に構成員を振り分けます。つまり犯罪者が激減したのです。
こうして治安が急速に回復したアルターシャは、自治都市として機能し、現在でも賭博を生業として繁栄しているのです。
ですが、このような成り立ちの都市ですから、現在でも裏では犯罪組織と繋がっていまして……。
「つまり監視役である筈の教会長が、自ら犯罪に手を染めていたのじゃな」
アルターシャにある聖心教の教会は、自治組織が定めたレートが守られているか監視する役が与えられています。無論、非公認ですが。
「いえ、私は聖心教の教義に従い、誠心誠意尽くしてまいりました。私腹を肥やすような真似は決して」
「正義の天秤『真実の口』」
教会長様が弁明を始めますと、サマ様が天秤魔術を発動なさいました。
「教会長よ、妾の魔術は理解しておろう?」
「あ、う、あ……」
「『真実の口』は嘘を語れば、其方の指を食らう。心して答えよ」
返事もできないくらい、教会長様は狼狽えています。
「教会長、其方は何ら主に背を向けるような真似はしておらぬな?」
「わ、私は……私は……」
ガタガタと震え始めた教会長は、サマ様から視線を外し。
「な、何も疚しい真似はしておりませ」
ガブッ ブチブチッ
「ぎゃああああああああああああ!」
「……という訳で、偽聖女と元教会長の有罪は確定しました」
「うん、それは分かったわ。で、何で私達はアルターシャに向かってるのよ?」
「わたくしが代理審議官として、派遣されまして」
「だから、何で私とモリーはリファリス付で、リジーが留守番なのよ!?」
「…………知りたいですか?」
「…………え?」
「リジー、随分とサマ様に気に入られたようでして」
「…………」
「リブラ、代わってあげます?」
「いえ、全力でお断りします」




