表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

218/428

小話 聖女様の理由っ

 聖門に身を寄せて一週間、モリーの情報収集によってアルターシャで事態が進展した事が分かりました。


「聖女が逮捕されましたの?」


「ああ。暴動が鎮圧されてから、偽聖女が色んな悪事を働いていた事がバレたらしい」


 モリーの話によりますと、わたくし達が聖門へと移動してから、風向きが大きく変わったようです。


「やはりわたくしが標的でしたの?」


「ああ。元々セントリファリスに籠もりっきりだったシスターに対して、批判的な意見が出ていたのは知ってるか?」


「勿論。聖女だったら各地を慰問して回るのが当然だ、とよく言われたものです」


 魔王の奥様とは別の枢機卿でしたが、今でも会う度にクドクドと嫌みを……コホン、ありがたい忠告を頂きます。


「つまりわたくしに対して不満を抱く方々が、今回の騒ぎを?」


「ああ。特にアルターシャ周辺で活動していた『自称』シスターの後継者が担ぎ上げられてな」


「わたくしの後継者……ですか。確かにそう名乗っている方が居ましたわね」


「知ってたのか?」


「一度セントリファリスへいらっしゃった事がありますわ。わたくしの教会前で、妙なパフォーマンスをされていました」


「パフォーマンス?」


「ええ。『予言だ』とか仰って、色々とわたくしの悪口を」


「それをセントリファリスで? その偽聖女、よく無事だったな」


「ええ、まあ……住民の皆様が取り囲んでいたところで、ルディと止めに入りましたから」


 非常に殺気立っていましたが、どうにか自称わたくしの後継者さんを町の外へ逃がせました。


「……わざわざ助けてやるなんざ、シスターは本当に聖女様だな」


「いえ、町の外で撲殺するつもりだったのですが」

「は?」

「ルディに止められて未遂に終わりましたわ」

「……待て。今、撲殺って言わなかったか?」

「言いましたわよ。わたくし、悪口を言われて黙っている程、お人好しでは無くてよ」

「いやいやいやいや、おかしい、おかしいって。聖女の名を冠してるシスターが、悪口言われたくらいで撲殺って、普通じゃねえって」


 普通……ではありませんね。


「大体わたくし、聖女なんて呼び名、本当は嫌ですのよ」


「…………そういやぁセントリファリスの聖女様は、聖女って呼ばれる度に否定して回ってるって聞いてたが……謙遜とかじゃなくって、本当に嫌がってたんだな」


「当たり前ですわ。罪人を嬉々として殴り殺すような殺人鬼が、聖女だなんてあり得ませんわ」


「………………待て。今、殺人鬼だとか聞こえたような」


「そうですわ。わたくしは聖女以外に〝紅月〟の異名がありましてよ」


「……………………へ?」


「ですから、巷で連続殺人未遂(・・)鬼として騒がれている〝紅月〟は、わたくしですわ」


「はああああああああっ!!!?」


 モリーは口をあんぐりと開いたまま、わたくしをしばらく凝視していました。



「つ、つまり、殴り殺した後、復活魔術で生き返らせてるから、結局無罪だと?」


「大司教猊下のご判断です」


「いや、いやいやいや。そりゃおかしいだろ」


「……おかしいんですの?」


「撲殺してから生き返らせたからって、無罪放免はしねえだろ、普通」


「はい。ですから聖女になったのです」


「…………………………は?」


「ですから、大司教猊下はわたくしを聖女に認定したのです。撲殺を続ける限り、その決定は取り消さないそうで」


「な、何で撲殺続けてる殺人鬼を、教会が聖女認定するんだよ?」


「わたくしが一番嫌がる事だから、ですわ」


「……いや、待って。おかしい。シスターも変だけど、教会はもっとおかしい」

「モリー、ちょっと」

「んあ!? な、何だよっ」


 リブラ?



「何なんだよ、一体」


「モリーなら知ってるだろうけど、聖地近くの奴隷組織の摘発、最近あったわよね?」


「は? あ、ああ、知ってるよ。奴隷印を使ってやがったクズ連中だな」


「それ、リファリスの功績だから」


「……はい?」


「それと汚職してた町長の逮捕、自由騎士団(フリーダン)団長叛逆の未然防止、魔国連合の侵攻の撃退、〝紅星〟による疫病媒介の発見と阻止」


「さ、最近世間を騒がせた事件ばっかじゃねえか。ま、まさか、それらも全て」


「リファリスの功績よ。おまけに大司教猊下と第一王女のお気に入りだし、次期大司教と言われているシスターメリーシルバーを師事してたりするし」


「立場盤石じゃねえか!」


「そう。確かに撲殺っていう悪癖はあるけど、それを補って余りある功績と盤石な立場があるから、聖女認定されててもおかしくないのよ」


「いやいやいや、やっぱおかしいって。一介のシスターが事件解決してるなんて事自体が前代未聞だし」


「勿論、それだけじゃないわ。リファリスの信仰と奉仕の心は本物だから」


「そんなん、証明のしようが無いだろ」


「証明できるわ。だって、セントリファリスの住民は、リファリスの撲殺行為を半ば黙認してるのよ」


「……………………………………はい?」


「リファリスは無差別殺人鬼じゃない。あくまでその牙は極悪人に向けられるものであり、罪無き市民には決して向けられる事は無いの」


「…………」


「セントリファリスの住民は、リファリスの善行と断罪を知ってるからこそ、黙認してるのよ」


「いや駄目だ、理解が追いつなかい」


「ふふ、まあリファリスと付き合っていれば、そのうち分かるわよ」


「……理解不能な気がするが」


「大丈夫、そのうち愛情表現で撲殺されるし」


「……………………………………………………はい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ