狙われたキツネ娘っ
ポタ……ポタ……
静かになったのを確かめてから入室しますと、全身の骨を砕かれたリジーが、窓の外に干されて血を垂らしていました。
「……何故干したんですか、サマ様」
「ああ、もしかしたら干物にできるかと思ってよ。かっかっかっ」
干物って……。
「それよりサマ様、口調が直ってませんわよ」
「おっとぉ、危ないねえ……妾とした事が、少々はしたなかったのう」
とりあえずリジーを回収し、生き返らせます。
「『彷徨える魂よ、干上がった身体を潤せ』」
パアアア……
「………………ふはぁ!? もうしません言いませんごめんなさいすいません私が悪かっ…………あれ?」
「身体の調子は如何ですか? ほぼ完全に治せたと思いますが」
「あれ、リファリス…………きゃあああああああああっ!!」
あら、そう言えば素っ裸のままでしたわね。
「はい、とりあえずバスタオルで隠しなさいな」
「ガクガクブルブル、ガクガクブルブル」
干物になっていたのですから、当然ながら呪われアイテムは剥がされています。
「サマ様、干物にされていたのは仕方ありませんが」
「仕方無くない!」
「……乙女の素肌を外界に晒すのは、あまりに惨い仕打ちかと」
「干物の方が惨い!」
今回はリジーに同意できる部分が多いのですが、流石に「口は災いの元」という言葉を身に刻んでほしいものです。
「着る物が無いとな? ならば妾の召した物で良ければ、貸してやっても良いぞ?」
「無理。着れないし着たくもない」
「………あ?」
ま、不味いですわ!
「サマ様、リジーは呪剣士ですから、呪具以外は装備できないのですわ!」
「…………ああ、そういう事かの。じゃが……妾の物を着たくない、とも言うておるぞ」
「リジーは呪具オタクですから、呪われていない物は身に付けないというポリシーがあるのですわ」
「ふむ、ポリシーかえ」
そう言ってサマ様は玉座から立ち上がり、素っ裸のリジーの前に移動します。
「ふむ…………良きかな」
そう言ってペロリと唇を舐めたのです。
「ま、不味いですわ」
「え、また怒らせたの?」
「いえ、違う意味で不味いですわ」
「聖女よ」
「は、はい!」
「しばし、この娘を借りて良いかの?」
「っ…………ど、どうぞ」
わたくしは再び、リジーを見捨てる決断をせざるを得なかったのです。
「……さて、リジーよ」
「……何」
「妾も幾つか持っておってのう、呪具」
「くれ」
「のわあっ!? ま、まさか妾の懐に、あの距離から潜り込むとは」
「くれくれくれくれくれくれく」
「待て。先程も散々身体に教えたじゃろ。目上の者に対する態度では無いの」
「む…………下さい頂戴下さい頂戴下さい頂戴」
「いや、それもどうかと思うが」
「むぅ…………頂けませんでございまっしゃろか」
「リジー、其方、妾をおちょくっておるのか?」
「100%本気」
「う、うむ、そうか……良い意味でも悪い意味でも純粋なのじゃな」
「うん。だから頂戴」
「…………じゃったら、妾の望みを聞いてくれるのならば、考えても良いかの」
「うむ、くるしゅうない」
「……じゃから、態度……」
先程と同じように扉を封印したわたくしを見て、リブラが首を傾げました。
「リファリス、またリジーが干物になっちゃうわよ?」
「大丈夫です、今回は命の危険はありませんわ」
「命の危険はって……つまり他の危険はあるの?」
「ええ、まあ」
「……何か歯切れが悪いわね。リファリス、はっきり言いなさいよ」
「ええ、まあ……」
「シスターよぉ、あの女王様、明らかに俺に色目使ってたよなぁ?」
突然のモリーの発言に、リブラが凍りつきます。
「い、色目?」
「ああ。ありゃあ男が好みの女に向ける視線、そのものだぜ」
「男が向ける視線…………ま、まさかシャシャ管理卿って、男の娘!?」
「正真正銘、女性ですわ。わたくしが保証します」
「あ、ああ、そうなの。なら良かったわ」
「女性ではあります。ですが、サマ様はどちらも好きです」
「ど、どちらもって……」
「つまり両と……いや、二刀流って事ですかい」
「そうなりますわね。オマケにリジーの容姿と性格は、サマ様のどストライクですわ」
「どストライク……つまり」
「今回の危機ってのは……」
「はい。命では無く、貞操ですわ」
「……つーかよ、やけに詳しいな、シスター」
「まあ……長く生きていますから、色んな経験を積んでいますから……」
「………………ああ、シスターも被害者なのか」
そこは聞かないで下さいまし。
「あ、あの、様サマ?」
「逆じゃの」
「で、ではシャーシャー様?」
「伸びんの」
「で、では、しゃあ! っしゃあ! サマー!!」
「観測史上最高の暑さを記録しそうじゃの」
「え、えっと……」
「まあよい。では、頂きまーす」
「い、いやああああああああ!!」
むっふっふ、解説じゃ! 皆がお待ちかねの解説じゃ!
今回は……む? 何じゃと、退け、じゃと!?
何という失礼千万な輩じゃ! せっかくライオッげふんげふん、と、とにかくワシが説明してやろうと……痛!? い、石を投げるでない! 痛たたた! こ、こりゃ、止めぬか!
「ようやく大人しゅうなったの。では、ここからが本ば」
この馬鹿者があ! 年寄りになんちゅー真似をするんじゃ!
な、何じゃ? 今いいとこなんだから、さっさと失せろ?
うぬう……貴様あ、許さんぞおおぶごべ!?
「【と思われ】ん! あ【と思われ】!」
「どうじゃ! どうじゃ」
ぐ、ぐふ、い、意地でも見せてやらんわい……がくっ。
頂かれました。




