恐怖する撲殺魔っ
わたくしが……暴動の元凶に!?
「リファリスがアルターシャに行く気になった理由は知らないけど、多分『行かざるを得ない』ようにされたんじゃない?」
うっ。
「た、確かにその通りですわ」
「つまり、リファリスが確実にアルターシャに行くように仕向けた上で、今回の暴動を起こしたんだわ」
「原因が何であれ、同じような女が二人居れば、誤解が生じる可能性は充分だわな」
「同じような女……つまり、聖女ですの?」
「聖女が主催した炊き出しで事件が起き、たまたま同じ町に違う聖女が居た。何にも知らない奴が見たら、何か関連があると思うだろうよ」
「下手したら、事情が分かってない人達から、あらぬ嫌疑をかけられるかもね」
わたくしが……暴動の発端だと思われかねないのですね。
「ふむふむ、聖女殿は良き部下をお持ちになったようじゃの」
そんなわたくしに声を掛けられたのは、聖門の管理卿を務められるサマ・シャシャ様です。
「これはこれはシャシャ管理卿、お久し振りでございます」
「そんなに堅くなるでない。其方は聖女、妾と同格なのじゃから」
「しかし、シャシャ管理卿」
「あー、では妾も其方をリフター辺境伯と呼ぶが、良いかの?」
「駄目です駄目です良くないです」
「じゃったら、管理卿は省いて良い」
……相変わらずですわね。
「分かりました、サマ様」
「それで良い……ふふふ、相変わらず愛い娘じゃの」
「止めて下さい、この歳で娘だなんて」
「何を言うか、妾からすれば娘同然じゃよ」
わたくしとサマ様が会話する中で、リブラとリジーは戸惑った表情を見せていました。
「どうかしましたか?」
「い、いや、リファリスが……」
「娘扱いって……」
「それは当然です。サマ・シャシャ様はハイエルフの王族の血筋を引いていらっしゃいます。つまり、時が時ならば、女王に即位なさっていてもおかしくない御方なのです」
「四方山話じゃがの」
「ハイエルフの女王って……まさか、サーシャ・マーシャ!?」
リジーが突然聞いた事が無い名を叫びます。
「な、何じゃ? サシャ? マーシャ?」
「あ…………違うんならいい。忘れて賜れ」
何故リジーが賜れ発言!?
「……其方……この世界の者では無いの」
「え、分かるんご?」
「分かる。そこまで強い縁を引き摺る者、そうは居らんでの」
「だったら、元の世界に帰るには」
「それは縁を辿る以外に在るまいて。自ら切り開くしかないの、未開の道を」
「……つまり、分からないと思われ?」
「そうなるかの、かっかっかっ」
「……っち、役に立たない」
なっ……!!
「リジィィィィィ!!!!」
「え……んなっ!?」
バゴッ!
「いたっ!?」
「貴女という人はああああああああ!!」
ゴッ! ゴッ! ゴッゴッゴッゴッ!!
「痛い痛い痛い痛い死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅ!!!!」
「死んでしまいなさい死んでしまいなさい死んでしまいなさいいい!」
「これこれ、リファリス。お止めなさい」
聖門管理卿では無く、ハイエルフの王族の一声がわたくしを貫きます。
「は、はい! 今すぐに止めますわ」
「宜しい。失礼な発言があったやもしれませんが、それは其方が裁く必要はありませぬ」
「も、申し訳ありません。聖職にある者が為すべき事ではありませんでしたわ」
「過ちを認め、自戒とするならば主もお許し下さいます」
「……はい」
やはり……サマ様には、まだまだ届きそうにありませんわね……。
「……それより、リジーでしたか」
「はい?」
「其方…………怖い者知らずですねぇ」
「…………え?」
「舌打ちした上に、目上の者に向かって役立たずとは…………」
「あ、すいません。ついイラッとしちゃって」
普段は閉じられているサマ様のお目が、うっすらと開かれて…………ま、不味いですわ!
「リブラ、モリー、ここから出ますわよ!」
「「え?」」
「サマ様、失礼しました。お説教はリジーにごゆっくりどうぞ!」
タタタタ……バン!
「え……リファリス?」
「はあ、はあ、はあ……」
「リファリス、どうかしたの?」
「シスター、何か様子がおかしいですぜ」
「はあ、はあ…………何故あの御方に、わたくしが平伏していると思いますか?」
「え? そ、それは、ハイエルフの王族だからでしょ?」
「ああ。俺ら妖精族だって、長には平伏するぜ」
「いえ、違います。もしそうなのなら、ルドルフ……大司教猊下がサマ様を聖門管理卿に留めておく筈が無いでしょう」
「え、どういう事?」
「簡単な話です。わたくしがサマ様に平伏している理由……それは単純な強弱です」
「あ? お前、あたいを役立たずっつったな?」
メギィ!
「ごめんなさい!」
「何か言えよ、コラ。さっきの威勢の良さはどこ行ったんだ、ああん?」
グギィ!
「ごべんばばい!」
「口だけか? 口だけなのか、お前は? 文句在るんなら拳で訴えろや、こら?」
メギボギグギィ!
「し、死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「……リジー……骨は拾ってあげますわ」
「って、ちょっと待って。リファリスより強いサマ・シャシャ様が大司教猊下に従っているって事は……」
「その通りですわ」
まさに大司教猊下……お祖父様は、弱肉強食を体現されたのです。
撲殺魔ならぬ砕き魔っ。




