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矛盾を考察する元親分っ

 アルターシャまで残り一週間程度になった頃、行く先々で奇妙な噂を耳にしました。


「聖女様が、施しを?」


「ああ。新たに教会から認定されたアルターシャの聖女様、明後日から大規模な炊き出しを行うそうだ」


 炊き出しを?


「アルターシャの周りには貧民街が多いからな、大盛況は間違い無いだろうぜ」


「……その炊き出しには、教会が関与してますの?」


「してるんじゃねえのか? つーかよ、あんたらその為にアルターシャに向かってるんじゃないのかい?」

「違う。私達は偽もぶこぶべ!?」

「い、いえ、アルターシャは経由するだけで、聖門に用事があるのですわ」

「ああ、聖門か。そらぁ気を付けてな」



 ガラガラガラ

 みゅんみゅん♪

 でんでんでん


「リジー、この辺りで『偽者』だなんて言っては駄目ですわよ?」

「うぐぐ、面目無い」


 御者席のリジーを叱っていると、元親分……モリーが首を突っ込んできました。


「シスターよぉ、ありゃアルターシャの新聖女の事じゃねえのか?」


「……モリーは何かご存知ですの?」


「まあな。盗賊なんてやってりゃ、あの系統の噂話は嫌でも耳にするさ」


「あら、盗賊みたいに孤立しがちな方々には、逆に噂話は届き難いと思ってましたわ」


「噂話を馬鹿にはできねえ。その中に盗賊討伐の話が埋もれてる事も、よくある事だしな」


 成る程、モリーは盗賊を率いるだけの才覚はあったのですね。


「でしたら、アルターシャの件について、どこまで知ってますの?」


「いや、アルターシャに聖女が現れた、セントリファリスの聖女の悪評が広まり出した……ってくらいだな」


「リファリスの悪評……明らかに偽者が流してるよね」

「だろうな。ま、アルターシャの聖女っつったって、まだ聖女らしい噂はとんと無いしな」


 え?


「ならば何故聖女と呼ばれてるんですの?」


「ああ、生まれた日さ。アルターシャの教会でさ、『神託』が降りたらしいんだ」


「『神託』が? 誰にですの?」


「誰って、教会って言やあ牧師さんかシスターじゃねえのか?」


 …………。


「つまり、教会関係者がそう言っているのですね?」


「ああ。確か六月六日の六時に生まれた女の子が、真の聖女なんだってさ」


 ……ふむ……。


「……リジー、この先にある町で泊まりますわよ」


「分かっ…………ええええっ!?」


 ……何ですの、その反応は。


「リファリスが宿屋に泊まるって……ええええっ!?」

「ケチケチリファリスが宿屋に泊まあぶべぎゃ!?」

「誰がケチケチですの!? 何度も言いますが、貧乏では無く清貧ですわ!」


「清貧って……要は貧乏人がテメエで稼げない言い訳じゃねえか」


「あらああ? モリーさん、何だか愉快な事を仰ってますわねえええ?」

「っ……あ、あんたは別だよ。シスターがその気になれば、幾らでも稼げるだろ?」


 はい?


「例えば、だ。礼拝堂の修繕をしたいからって言って、寄付を頼んだり。治療をしてやる時に、寄付を求めたり。それだけで相当な額が集まるわな」


「……つまり、聖女の名前を利用して、お金を集めろ、と?」


「そうなるな。尤も、本物のあんたが今までしてきた事を知ってれば、そんな荒稼ぎはしねえって分かるけどな」


「当たり前です。わたくしは聖女には相応しくありませんが、聖女の名を利用するような真似をするつもりは毛頭ございません」


「その姿勢が聖女たる証だと思うが……まあいいか。つーかよ、炊き出しなんて明白な人気取りしてる時点で、自分は偽者ですって言ってるようなもんだよな」


「炊き出しが明白な人気取り? 何でよ」


 静かだったリブラが疑問をぶつけてきました。


「……リブラさんよ、さっきから自分の胸構って何してんだ?」

「ななな何でも無いわよっ」


 ……豊胸マッサージですわね。


「そ、それより質問に答えなさいよっ」


「ああ、炊き出しの話か? だったらシスターに聞いてみるのが一番早え」


「え、リファリスに?」


「まあ……わたくしには無理ですわね」


「ど、どうしてよ」


「炊き出しには多額の資金が必要だからです。何せ食べ物を無料で振る舞うのですから、食材費や人件費はとんでもない額になります」


「え、だったら人数制限すれば」


「炊き出しの場にいらっしゃる方々の大半は、その日の生活にすら困っている方ばかりです。人数制限なんてしたら、暴動になりかねませんわ」


「う……な、なら、どうすれば」


「やはり求めに応じて、できる限り提供するしかありませんわ。それが炊き出しを行う者の責任であり責務です」


「それって、貴族や大商人じゃないと無理なんじゃ無いの?」


「はい。ですから、わたくしには無理だと申し上げました」


 するとリブラが切り返してきました。


「だったらリファリスが聖女の名で寄付を募れば、炊き出しも可能じゃないの?」


「はい、できますわ。ですが今回のように聖女が(・・・)炊き出しを行っている、となっている時点で失格ですわ」


「何でよ」


「本当の聖女だったら、自分の名が大々的に宣伝されるのを良しとはしないんじゃねえか?」


「あ……」


「多分だけどよ、シスターが寄付を呼びかけて炊き出しをするんなら、寄付した連中の名を表にする事はあっても、自分の名を出したりしねえだろ」


「ですわね。あるいは、聖心教会の名で行いますわ」

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