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新たな仲間は元親分っ

 …………三時間経過。


「……まだ脱皮中みたいですわね」


 魔力の流れを見てみたのですが、どうやら岩の繭の内で蛹を作り、身体を変化させているようです。


「リファリスー、そんなの放っておいて、先を急ごうよー」


 流石に飽きた様子のリブラが、岩の固まりを蹴りつけます。


「リブラ、駄目ですわ。今の状態で刺激すると、羽化した際に身体に影響が出ます」


「羽化? 虫みたいな事を言うわね」


「いえ、虫に近い生態なのですわ、妖精族は」


「よ、妖精族?」

「妖精、この世界にも居る?」


 リブラは全く知らず、リジーは前の世界での知識がありますか。


「妖精族はこの大陸の各地に分布している、属性魔力の影響を大きく受けた種族ですわ」


「属性魔力の影響?」


「ええ。水や火や土といった、属性魔術を使った事があれば、属性の何たるかは理解できますわね?」


 リブラは頷き、リジーは少し首を傾けます。魔術を使うかどうかの差は仕方ありませんわね。


「リジー、貴女は呪いの影響が強いでしょう?」


「うむ」


「それが火や水の属性魔力だと思ってもらえば良いのですわ」


「成る程。だけどリファリス、私は蛹にならないし脱皮もしない」


「それがわたくし達と妖精族との大きな違いですわ。妖精族は成体になるまでの間は、虫に非常に近い生態なのです」


「「虫に非常に近いって……」」


 しばらく考えた後、二人揃って鳥肌になりました。


「何を考えてゾッとしたのか、理解できますわ」


 わたくしも初めて妖精族について知った時は、同じ反応をしたものです。


「ですが二人とも、妖精族の幼い頃は芋虫だったりする訳じゃありませんからね?」


「「…………あ、そうなんだ」」


 やっぱり。



 ふ、ふふふ、ワシ復活じゃあ!

 さてさて、妖精族について解説して進ぜようぞ。とは言え、実際に目にした事は、ワシも無いのじゃが。

 シスターが言っていた通り、妖精族は非常に虫に近い生態をしておる。

 一番最初は手のひらサイズの身体に虫の羽がある姿……一般的に知られておる妖精のイメージじゃな。そこから年に一回程度脱皮を繰り返し、徐々に身体を大きくしていく。その家庭で虫の羽は失われていき、外見上は人間と変わらぬ姿になるのじゃ。

 実は妖精族が殆ど確認されぬ要因が、これなのじゃよ。小さい頃は人里離れた山奥で過ごし、ある程度人間に近い姿になってから山を下り、人間に紛れて生活するようになるのじゃ。つまり、ご近所さんに妖精族が居る可能性もあるのじゃよ。

 そして人間に限り無く近い姿になってからも、年に一回の脱皮を繰り返していく。そして……最後の脱皮の際に蛹となり、いよいよ成体となるのじゃが……この成体になる瞬間が、現在のシスター達の前で起きているのじゃ。

 ふっふっふ、首無し令嬢とキツネ娘、さぞかし驚くじゃろうな……。



 更に三時間経過しました。そろそろでしょうか。


「リファリス、大体は理解できたけど、だからって私達が羽化する瞬間まで付き合う義理は無いんじゃない?」


「いけませんわ。羽化中の妖精族はとても脆弱ですので、ちょっとした刺激でも死んでしまう事が多いのです」


「え……し、死んじゃうの?」


「蛹の中は【すぷらった~】な状態ですから、穴でも空こうものなら」

「嫌、止めて。言わないで」


 さっき蹴った衝撃で、そうなっていない事を願いなさいな。


 ゴトッ


 あら?


「リファリス、岩が動いた」


 岩の繭が動き始めたようです。これは……。


「……羽化が始まったようですわね。少し離れましょう」


 ゴトッ……カタカタッ


 岩の繭が少しずつ大きくなっていきます。おそらく、羽化しやすいようにする為でしょう。


「……ゴクッ」


 リブラが固唾を飲んで見守ります。


「ふぁぁ……」


 半分眠っているリジーは、この貴重なシーンに何の興味も無いようです。


 ガタガタ……ガラガラガラッ


 ついに岩の繭が崩れ始めました。羽化です。


 ガラガラガラッ ズズンッ

「う~! う~!」

 バタバタバタッ


「…………岩の繭、崩壊しましたわね」

「…………何か、苦しそうな声がするわね」


「う~! う~……だ、誰か、誰か助けて~!」


 ……どうやら岩の繭に押し潰され、身動きができないようです。


「リファリス、助けるべきだよね?」


 流石に……助けるべきでしょうね。



「し、死ぬかと思いましたぜ……」


 わたくしの想像通り、元親分さんは可憐な女の子になっていました。


「まさか、わたくしに付いて来る為に、女の子に羽化するなんて……」


「むさ苦しい幼虫(おとこ)のままじゃ駄目だって言ったの、親分ですからね」


 金髪碧眼のスレンダー美少女がその口調なのは、かなり違和感があります。


「お、女の子になっちゃうの!?」


「妖精族の性別は、最後の羽化の際に決まるのです」


「じゃ、じゃあ、あのむさ苦しいオッサンの姿は……」


「幼体だったのさ。まあ、あのまま男として成体になるつもりだったんだが……親分に付いていく為だったら、女の子にでも何にでもなりまさあ」


「み、自らの意志で性別まで変えられるなんて……」


「容姿もかなり弄れますぜ。俺はグラマーなのが好きだったから、もう少しボンッキュッボンになりますぜ」


 …………はああ。


「で、貴女は本当に付いて来る気ですの?」


「当たり前でさあ! じゃなきゃあ、何の為に女の子になったか、分かりませんぜ!」


 ……確かに……そうなのですが……。


「あーあ、変な仲間が増えたと思われ」

「大丈夫よ、私達全員変だから」

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