ゾンビと撲殺魔っ
何と言う事じゃろか。知り合ってすぐに友誼を結べるような相性抜群な友達ができたと思ったら、次の日には死んでしもうたそうじゃ。
本来であれば、悲しみに暮れて友人を偲ぶべきなのじゃろうが、シスターはそういう訳にもいかぬ。死者を見送り、安らかな眠りを促すのも大切な仕事じゃからの。
さて、話はその葬儀の後まで飛ぶぞい。はてさて、どうなったのやら……。
「……はぁ」
わたくし自身、心の整理が追いついていません。
「せっかく友達になれましたのにね。まさか、こんな短期間でお別れする事になってしまうなんて……」
主を表した偶像の前に設置された棺には、眠ったかのように安らかな表情のまま、わたくしの友達が横たわっていました。
「リブラ……卑怯でしてよ。長生きしすぎたわたくしよりも先に逝ってしまうだなんて……」
こうやって友達を送る事は何度かありましたが、今回は極めつけですわ。これから共に時間を過ごす筈だったのに……。
「……泣きませんわよ、リブラ。こんなに早く逝ってしまうような薄情者に、見せる涙なんて無くってよ……」
そう言って必死に涙を堪え、友達を主の元へ送り出しました。
「それにしても、不可解すぎる」
またわたくしの部屋に勝手に入り込んでいたリジーさんは、わたくしのベッドに腰掛けたまま呟いていました。
「……今日は相手をする元気はありませんわよ。用が無いのでしたら帰って下さいな」
「いや、リファリスにも関係無い話題じゃないから」
わたくしに関係ある話題、ですの?
「最近は何もしてなくてよ?」
「いや、違う違う。リファリス自身の話じゃなくて、リファリスが関わった話」
「……どういう事ですの?」
「ズバリ言っちゃうけど、リブラ侯爵夫人の死因について」
「リブラの死因って……確か不明だったのですわね」
「そう。リファリスと別れて数時間後、公園で倒れているところを発見されて、その場で死亡しているのが確認された。で、リブラ侯爵夫人が倒れていた場所には、明らかに戦闘の跡が残っていた」
戦闘の、跡?
「ですが、リブラの身体には、斬られた痕は無かったですわ」
「リファリス、ちゃんと確認した?」
「リブラを棺に入れる時に、わたくしも立ち会いましたわ。身体は綺麗なものでしたわよ?」
「じゃなくて、魔術で調べてみたかって事」
魔術で?
「いえ、そこまでは」
「だったら魔術で調べてみたら? 何か痕跡が残ってるかもよ?」
……そう言われたわたくしは、再びリブラの棺へと足を向けるのでした。
ギィィ……
リブラが安置されている礼拝堂へ向かう途中。
ガタンッ ガタタッ
何かが暴れている音が響き……まさか!?
「グールが入り込んでるんですの!?」
この町の周りには、よく死肉食いが発生します。ですので葬式が終わるまでは、聖なる結界に覆われた教会に死体を安置する事になっているのです。
「……っ……友達の身体には、指一本触れさせませんわ!」
その事すらも忘れてしまう程に我を失ったわたくしは、礼拝堂の扉を思い切り蹴り倒し。
バァァァン!
「…………っ!?」
その中で、信じられない光景を目にしたのです。
「…………」
棺の側に佇む人影。ですが、その影には人にあるべき……頭がありません。
そして、その手には人の頭が……わたくしの大切な友達であるリブラの頭が在ったのです。
「……っ!」
デュラハーン……! まさか、アンデッドの最上位種が何故このような辺境の地に!?
「っ……はあああああっ!!」
友達の遺体を傷付けられたから、危険な魔物が現れたから、二つの理由がわたくしの背中を押し、聖女の杖を振りかぶります。
ギギィン!
杖がデュラハーンの大剣に阻まれますが、それくらいでわたくしは止められなくてよ!
「魔を払え! 『断罪・聖属性』!」
バギィィン!
わたくしの魔力に覆われた聖女の杖が、強力な聖属性を帯び、デュラハーンの大剣を叩き折ります。
「生と死の清らかな流れから足を踏み外した哀れなる者に、今救いの断罪を!」
更に輝きを増した聖女の杖が、デュラハーンの身体に迫ろうとしていた時。
「待って!」
突然聞き覚えのある声が響き、わたくしの攻撃を止めます。
「誰ですの? わたくしを止めたのは」
「私ですわ、私!」
え……その声は、リブラ?
「ここですわ、ここ!」
必死にわたくしに呼び掛けくる声は、デュラハーンの手から……いえ、手に握られている頭。
「私です、リブラですわ!」
頭だけになっているリブラから発せられていたのです。
「リブラ、どういう事ですの!?」
「聞いて、リファリス。私は実は……」
……死体発見現場に残された戦いの跡、その割に傷が無かったリブラの身体、何より完璧に無事だった頭。
「そう……そうだったのですね」
「分かってくれた、リファリス。実は、私がデュラハーン」
「貴女、その美しい顔をデュラハーンに狙われたのですね?」
「……は?」
「貴女はあの場所でデュラハーンに襲われ、必死に抵抗した。ですが力の差は歴然で、結局貴女は負けて力尽きたのですわね?」
「え? だから私がデュラハーン」
「分かっていますわ。死体が発見されてしまった事により、デュラハーンは教会に安置された死体を狙わざるを得なくなってしまったのですわね」
「いや、だから私がデュラハーンなんだって」
「皆まで言わなくて宜しいですわ。死して尚も貴女を辱めさせたりはしません!」
「え、だから」
「食らいなさい、デュラハーン! 天誅天罰滅殺抹殺撲殺ぅぅ!」
バガバガバガバガバガバガバガバガァァァン!
「いやあああああ! 私の身体、身体があああああああああ!!」
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