ヒャッハーな元親分っ
みゅんみゅんみゅんみゅん♪
でんでんでんでん
ガラガラガラガラッ
「親分の為なら、えーーんやこーら!」
「「「親分の為なら、えーーんやこーら!」」」
ザッザッザッ
「……止まって下さいますか、ベアトリーチェ」
みゅん!
ででん
ガラガラギギィ!
「ぜんたああーーいい…………止まれぃ!」
ザッザッザッッ!
「あの……皆様にお話があります」
「親分、皆様なんて固い事言わないで下せえ。野郎共、で十分ですよ」
シスターが「野郎共!」なんて言える筈が無いでしょう!
「えー、皆様。わたくしの言う事をよくお聞きなさい」
「野郎共! 親分から大事な話がある! 耳の穴をかっぽじって、よーく聞きやがれ!」
「「「へい!」」」
や、やり難いですわ……。
「はぁぁ……おほん! ではお聞きなさい。わたくしがお仕えする主は仰いました。我々は……」
こういう場合は、思いっきり固い話をして、盗賊さんの方から嫌がってくれれば、少し離れてくれる筈ですわ。
…………が。
「……という訳で、皆様にも等しく加護が降り注いで……どうかなさいましたか?」
説教に夢中になってしまい、盗賊さん達から目を離してしまいましたが……。
「お、おおお……!」
「俺、俺、今まで何て事をしてきたんだ……!」
「うををををををん! うををををををん!」
「く、悔い改めるぜ……!」
「ああ、まだ俺達ならやり直せるさ!」
あら? あらあらあら?
「親分っ!」
「は、はい!」
「俺達、滅茶苦茶感動しやした!」
え、えええ……わざと小難しい話をしたつもりなのですが。
「俺達、改宗します!」
「聖心教に入信しやす!」
「親分、宜しくお願いします!」
「改宗って……」
この大陸には聖心教以外には、魔王教くらいしか無い筈では……。
「「「俺達、世紀末教から改宗します!」」」
世紀末教って何ですの!?
「へへへ、俺が教祖でして」
「教祖って……貴方、盗賊の頭でしょう?」
「へえ。兼任してやす」
教祖を兼任だなんて聞いた事がありませんわ!
「……で、どんな教義ですの?」
「はい! 親分の為に稼ぎ、親分の為に献上し、親分の為に死ね、です!」
最低最悪な教義ですわね!
「で、祈りの言葉は『ヒャッハー!』です」
どうでもいいですわ!
「本来は全員モヒカンにすべきなんですが、信者全員に反対されて、断念しやした」
ワンマンなのか気弱なのか分かりませんわ!
「それより親分」
「親分ではありませんわ!」
「じゃあオヤビン」
「どちらも没です!」
「でしたら姉御」
っ…………!
「ぷっ…………リファリスが困ってる」
「なかなか見ない光景であーる」
「あ、貴方達、見てないで何とかして下さい!」
「え、だって」
「親分はリファリスだし」
「ですから、親分じゃありませんわ!」
結局近くの町まで連れて行き、そこの教会に預ける事にしました。
「いや、助かります。若い者が少なくなっていて、働き手が不足していたんです」
「任せて下さい、皆ヒャッハーなんで!」
「よぉし、俺は畑耕してヒャッハーだ!」
「水が無い? なら井戸掘ってヒャッハーだな!」
「俺は壊れかけの家直してヒャッハーだ!」
「ヒャ、ヒャッハー?」
まだ世紀末教の影響が残ってますわね……。
「きゃああ、ヒャッハーさん達素敵!」
「格好いいわ!」
「こっち向いてー!」
何で若い男性は居ないのに、若い女性は沢山居るんですの!?
「うおおお、ベッドの上でもヒャッハーだぜえ!」
「きゃああ、ヒャッハーしてえ!」
「これで町は安泰です。ありがとうございました、聖女様」
「…………良かった……のでしょうか?」
「ま、結果オーライよ」
「終わり良ければ全てヒャッハー、と思われ」
……まあ……救いになったのでしたら……。
ところが、です。
「親分ー、待って下せえー!」
早々に旅立ったわたくし達の後を、あの元親分さんが追い掛けてきたのです。
「……リファリス、流石にあれは……」
「分かってますわ、追い返します」
いくら改宗したとは言え、毛むくじゃらの悪人面……ゴホン、男性を一緒に連れては歩けません。
「ちょっと言ってきますわ。少し待っていて下さいまし」
「ほーい」
「あの、親分さん」
「親分はそっちっす。もう俺は親分じゃありやせん」
「っ…………はあ、何でもいいですわ。それよりも、付いてこないで下さいまし」
「ええええ!? な、何でっすか!?」
「女性ばかりの一行に、貴方みたいな男性を迎え入れる筈が無いでしょう!」
あ、うっかり本音が出てしまいましたわ。
「な…………お、俺の見てくれが悪いから、連れて行けないってんすか!?」
「見てくれ以前に、貴方が男性だからです!」
そう言われた親分さんは、黙り込んでしまいました。
「分かりましたわね。貴方はあの町で暮らしなさいな」
「……だったら……」
はい?
「だったら……俺が女になればいいんすね!?」
……はい?
「我が祖先の血よ! 我は我が生き様をここに決定す!」
「え?」
「我は女の道を行く! この御方の為、我が命を捧げん!」
「え、ええ?」
…………ズズズズ!
突然地鳴りがしたかと思えば。
ズズズン! ガコガコガコ!
元親分さんの周りを、岩が取り囲んだのです。
「ま、まさか……これは妖精族の『脱皮』!?」
ヒャッハー!




