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握り潰す大司教猊下っ

「いい加減にせぬか」

「「「申し訳ございませんでした」」」

　あの日以来、リブラとリジーの戦いはかなりの頻度で起きるようになりました。

　あまりに騒ぎが大きくなってしまった事もあり、わたくし達は再び大司教猊下に召還されたのです。

「わたくしが間に入って、止めてはいるんですのよ。ですがそれでも間に合わない事も多く……」

「ふむ、聖女は鎮静化を図っているのだな」

「待って。それじゃあ私達が一方的に悪いみたい」

「そうよ。リファリスの態度が煮え切らないからって理由もあるよ？」

　煮え切らないって……。

「何度も言いますが、わたくしはリブラとの事は考えてますが、リジーとは」

「それそれそれ！　だから私がリジーに戦いを挑まれてるのよ！」

「そーれそれそれ。だから私はリブラに戦いを挑んでいると思われ」

「……何故にそのような構図になったのか？」

「ええっと、簡単に言いますと、リジーはわたくしを狙っています」

「だから、何とか手込めにして、既成事実を作ろうと頑張っていると思われ」

「それを止める為に私がリジーと戦っています」

「……つまり聖騎士が悪いのだな？」

「「そうです」」

「ちょっ!?　何で私が一方的に!?」

「わたくしを手込めにしようとしてる時点で、貴女は犯罪者ですわ」

「流石に犯罪は不味いよ、リジー」

「は、犯罪!?」

「うむ、どう考えても犯罪だな」

　これは覆せない事実です。

「ですから、リジーを何とかすれば、この騒ぎは治まりますわ」

「その様だが…………少々聖騎士が不憫ではあるな」

　えっ。

「そ、そうです！　私不憫！　気の毒！　世界一不幸な女！」

「そこまで言うつもりは無いが、聖女を手込めにしてでも手に入れたいという純粋な想い、成就させてやりたい」

　な、何故に大司教猊下がリジーに味方を!?

「だが聖女には既に将来を共に歩む相手がいる」

「はい。わたくしは仕方無く(・・・・)リブラと結婚しますわ」

「仕方無く!?　仕方無くなの!?」

「だって、わたくし貴女に既成事実を作られてしまいましたもの」

　そこまで聞いた大司教猊下が、眉を段々と吊り上げていきます。

「…………見習いとは言え、聖職者でありながら、自分の欲望に負け、師匠であり友人でもある存在に無理矢理関係を迫り、結果として結婚に至ったと言う事か……？」

「一から十までその通りですわ」

「だから私も真似した。そうすれば結婚できると思って」

　ますます眉を吊り上げていきます。大司教猊下は聖職に在る者には、とても厳しい御方ですから。

「…………そうか。よおおおおおおく分かった」

　ダークサイドな空気を醸し出す大司教猊下は、まずリブラに近付き。

　がしぃ

「んがぁ!?」

　リブラの顔面を掴み、高々と持ち上げます。ああ、あれは……。

「主の御意向に、そのような抜け道があったとはなあああああ」

　メキメキメキメキ

「んぎゃああああああ……！」

「それを見過ごしていた我にも責任はあるが、その抜け道を利用して犯罪に走る貴様にはもっと責任があるなああああああ」

　メキョメキョビシビキッ

「折れる砕ける折れる砕けるぅぅぅああああああ!!」

「大司教より、この戒律の是正を命じる。両者の同意無き婚前交渉の場合、結婚を強制される必勝は無し」

　バキバキバキバキ

「んぐぶぉああああああ……！」

「この愚か者は、我が手によって処断されるべし」

　メキィ！

「んがっ」

　耳や鼻から血を流しながら、リブラが崩れ落ちました。

「『我が友よ、再びこの身体に舞い戻れ』」

　パアアア……

「…………く……ふはぁ!?　はあ、はあ、はあ……」

「どうでしたか？　大司教猊下の握殺(・・)は？」

「……………………まだ撲殺の方がマシ」

「でしょうねぇ。もっと酷い場合は、五体全て握り潰されますから」

「そう言えば聖騎士も聖女の弟子であったな。つまりは、聖職者。断罪いいい」

　メキメキメキメキ

「いだいいだいいだいいだいごべんばばいいいっ！」

　あら、リジーも同罪のようですわね。

　メキメキビシビキグチャア！

　あ、握り潰されましたわ。

「う、う、うげええええええええええ!!」

　あらあら、経験が浅いリブラには刺激が強すぎましたわね。

「『我が友よ、再びこの身体に舞い戻れ』」

　パアアア……

「………………いだい、いだ……あれ？」

「お帰りなさいませ、リジー。気分は如何ですの？」

　まだ握殺された記憶が生々しかったらしく。

「う、うぶ、おぐぇえええええええ!!」

　リブラと同じように、体内の未消化なものを排出なさったのです。

「もうしません」

「私も誓います」

「宜しい。もし同じような事が起きたならば、まずは腕から握り潰す故、よく覚えておくように」

「「ははははははいっ!!」」

　これで結婚も無効。やれやれ、一件落着ですわね。

「しかし聖女よ」

　がしぃ

　ひいっ!?

「お前が弟子に情欲を抱いた事が、元々の原因なのだぞ？」

　メキメキメキメキ

「申し訳ありませんでした。今後は自戒しますわ、お祖父様」

　メキキ……

「……分かれば宜しい。それとリファリスや」

「はい、公式な場では大司教猊下、でしたわね」

「うむ」

　大司教猊下はわたくしの頭を離し、奥の院へ引き上げていかれました。

「……あら、少し頭蓋骨が凹んでますわね……『癒せ』」

　パアアア……

　……それにしても……。

「リブラとリジーとの結婚生活……それも悪くないかもしれませんわね」

　リブラ同様、リジーもわたくしの中では大きな存在なようです。

明日は閑話です。